11/02/21 22:41:48.70 yg08NMgE
最も辛い別れとはなんだろうか。
いつものようにくらかどを食べながら、男は反芻する。
かつて、男は、負けなしのくらかどリーダーとして名を馳せていた。
誰よりも速くくらかどを食し、誰よりも遅くくらかどの殿を務めた。
くらかどで積み重ねる丼の数が誇りであったし、
また、それに伴うくらかどリーダーとしての自身の成長を心より喜んでいた。
しかしある日、独走する男のくらかど人生に、翳りが襲った。
余命1カ月。
男は、末期の腎臓ガンと、診断されたのだ。
それからというもの男はくらかどに赴くたび、
自分のくらかどを食べることのできる残り回数を数え塞ぎこむようになった。
人間だれしも、遅かれ早かれ死ぬことになるだろう。
男は、自分が鬼籍へ名を連ねることを、すでに超然と覚悟していた。
そして、妻子との決別すらも受容していたのだ。
では、男を生にしがみ付かせるものはとは一体なんだろうか。
くらかど。
無論。いや愚問とも言える問いであった。
男の最も辛い別れとは、くらかどとの決別であったのだ。
そして、くらかどとの決別をどうしても認めなかった男は、
息を引き取る当日まで、くらかどに通い続けた。
病魔に呪詛を吐きながらも、くらかど人生を完遂したのだ。
毎年男の命日には、墓前にくらかど中盛りが供えられるという。
行こうよ!
くらかどへ