11/01/16 04:21:19 wtAFlz0A
「ほう、炙ってあるのか。肉質も極上のバラ肉チャーシューだな。うまいうまい」
緊張の注文タイムをクリアし、至福のひと時を満喫していた私の耳に、初老の男の声が飛び込んできた。
私は、耳を疑った。
くらかどのチャーシューはバラ肉ではなく、肩ロースを用いている。
間違ったニワカ知識を揚々と語る初老の男の衒学性と自己顕示欲を目の当たりにし、
私の体内を巡る血液は瞬息の戸惑いを経て、峻烈に沸点を迎える。
その猛った血流はまるで間欠泉のようだ。
チャーシューがうまい、だと?
そうではない。くらかどのラーメンは調和を心得ているからこそ、はじめてうまさを表現できるのだ。
神の肩ロースをバラ肉などと勘違いするような男に調和を知覚できるとは、思えない。
初老の男の舌上では、そう今まさに、くらかどが”ジャンクフード”として貶められている。
宮廷料理にも勝るとも劣らないくらかどを、この初老の男は嘗めたのだ。
眩暈がした。呼吸をすることすら忘れていた。
酸素を枯らした私の心臓の鼓動は、際限なく加速している。
私は今まさに、くらかどに出会う以前の蛮骨の阿修羅と呼ばれていたあの頃へと、立ち戻ろうとしていた。
全ての憤りを瞳の光彩へ凝縮し、男へと照射する。
「なんだね、君は」
初老の男は怪訝な様子を見せるが、私は臆することなく視線を研ぎ、睨め続ける。
「お客さん」
振り向いた私の眼前に、なんとラーメンが鎮座しているではないか。
私は飛びかかるような勢いで丼を抱えると箸も使わず、一息にそれを麺もスープもなく吸いこむ。
清々しい気分のまま会計を済ませ、店外に一歩足を踏み出そうとした時、気付く。
そういえば、チャーシューが入ってなかったような・・・。
このように、ブレを織り交ぜた一期一会のラーメンを提供してくれるから、くらかどは面白い!
行こうよ!
くらかどへ