10/10/22 22:14:47 mvxwPn920
一年の秋。
その頃俺は遅刻を罪と思っていなかった。
別に出席時数だけ取れていればいいので困ることは無かったが、一時期頻繁に遅刻をかましていた。
原因はネットにハマったことなのだが、俺はそれをちょっとかっこいいと思っていた。
あー全然寝てねーわー、だとか、ちょっと自慢げに言っていたような気がする。
我ながらとんでもなく馬鹿だと思うが、とにかく一ヶ月ほど殆ど毎日遅刻していたのだ。
大体一時間目をスルーして登校していたのだが、ある日ふと気付く。
同じ時間に登校している女の子がいたのだ。
いつも彼女は徒歩で、俺は自転車だったから、いつも追い抜いていた。
白くて、細くて、なんというか、病院の窓から葉が落ちるのを眺めていそうな、そんな女の子だった。
女の子というが、恐らく年上だった。
彼女は同級生にいなかったから、多分先輩なんだろう。
鮮明に覚えている。
押せば倒れそうな後ろ姿も、ポニーテールにしていた黒い髪も、すれ違う寸前見た白いうなじも。
追い抜いてから振り向いたことは無かったから、どんな顔をしていたのかはわからない。
ただ、なんとなく綺麗な顔をしているように思っていた。
ある日、俺はまた遅刻した。
いつものように自転車を走らせていると、あの人が逆側の歩道にいた。
いつもと違う。
俺は少しがっかりした。
今日は彼女の後姿を見ることが出来ない。
俺は気になって仕方なかった。
仕方なかったから、ついやってしまったのだ。
俺は彼女を通り過ぎて、すぐ振り向いた。
俺は彼女の顔が見たかった。
俺の想像の中にいる、綺麗な顔と一致しているか確かめたくて。
しかし、振り向いた先には、誰もいなかった。