10/10/29 01:26:53 r+3lcxeaO
まるで何かを迎えるように、彼らは入口の前に整列する。
そして、そこに姿を現したのは他ならぬ彼女だった。
だが、少しく様子が変しい。
ぢっと目を凝らしていた私は、小さく声を漏らしてしまった。
彼女の口からは鮮血が流れ出し、両手や着衣には得体の知れない赤黒いものがこびり付いていたからである。
何事か呟くよ私はどうすることも出来ない。
蝉の声が煩い。
研究所に戻った私を待っていたのは、あの冷泉中尉であった。
彼は研究所前の門で独り立っていた。
恐らく顔面蒼白だったろう私は、一礼して彼の横を通り過ぎようとする。
その時、彼は通り過ぎざまに言ったのだ。
この研究も佳境に来ているので、暫くは彼女と会うのは慎んで欲しい、と。
実際のところ、私はそうせざるを得なかった。
何故なら、これ以降、私は研究室から出るのにも相応の理由が必要となり、これは体の良い軟禁状態だったからだ。
だが、一日の内の数十分ではあったが、私と彼女は会うことが出来た。
あの神社での一件を問い質す事には気が引けたものの、そんな事を忘れさせてくれる様な事が起こったのである。
彼女が私の子を宿したのである。
私達は自分が子供になったみたくはしゃいで、この子の名前を考えた。
そして、二人の名前から一字ずつ取って、男の子だったらこの名前にしようと決めたのだ。
「久幸」と。