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23冊。モスクワ市内の大手書店で、村上春樹さんの翻訳作品を数えてみた。最新作
「1Q84」はまだ発売されていないが、主要作品はほぼそろっているようだ。ロシアにお
ける人気ぶりを実感できる。
棚の作品を眺めていた女子大生のオリガさん(20)。「ここにある作品はすべて読んだ」
と話す。初めて村上作品に触れたのは数年前。友達に薦められて「海辺のカフカ」を手に
したら、とりこになった。「話の展開が面白いし、何よりも作品に込められた哲学が好き」
法律事務所勤務のエフゲニーさん(28)は、地下鉄サリン事件を取り上げたノンフィク
ション「アンダーグラウンド」を買うつもりだ。「すべての作品が輝きに満ちているし、心の
奥深くを描いている。今のロシアにはこんな作家はいない」と絶賛する。特に若者の間で
人気が広がっているという。
ロシアで98年に初めての村上作品が発売されて以来、幾つかの出版社が翻訳本を出
してきた。そのうちの一社「エクスモ」は過去6年間で300万部以上を出版。他に、100万
部超を出した出版社もある。
村上さん本人が認めるように、作品には19世紀のロシアの文豪ドストエフスキーの影響
が読み取れる。例えば「父殺し」をテーマにした「海辺のカフカ」については「ドストエフスキ
ーの代表作である『カラマーゾフの兄弟』を消化できた作品」(亀山郁夫・東京外大学長)
との評価も聞かれる。
だからロシア人が共感を抱くのだろうか? 村上作品7冊を翻訳してきたセルゲイ・ロガ
チョフさん(57)に尋ねると、意外な答えが返ってきた。
「今の若者は必ずしもドストエフスキーを読んでいるわけではない。それよりも村上さん
の作品の質が高く、純粋に面白いから読まれている」。ソ連時代には「世界一の読書大国」
といわれたが、ソ連崩壊後に欧米の大衆文化が押し寄せたことから、かつてのように自国
の古典を読まなくなっている。
「むしろ」とロガチョフさんは強調する。「一定数の若者は村上作品でドストエフスキーに
関心を抱き、その作品を読むようになっている」。つまり村上さんが、ドストエフスキーの
祖国でその魅力を「再発見」させる役割を果たしているというのだ。
「今では村上さんがロシア文学の流れに与える影響が大きいのだ」。ロガチョフさんはこう
結んだ。【モスクワ大前仁】
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