11/10/22 13:49:07.76 vEwNctaG0
「イッチーさぁ、なんであんなことしたん?」
私は身動きがとれない。
「あれからウチ、いろいろ考えたんよ」
顔をこちらに向けるわけでもなく、女性は淡々と語る。
けっこう重い恋愛をしてしまうということ。
ストーカーのようなことをした経験があること。
奥さんのいる男性を好きになって、苦しかったこと。
不倫愛が相手の遊びで、辛すぎる別れを経験したことがあるということ。
そして。
「ウチね、気持ちは分かるんよ。成就しない恋しかできない人の気持ち」
「…………」
「でもね、たとえそうであっても、無理矢理はいけないと思う」
「…………」
「でね、思ったんやけど」
「…………」
「ウチ、レズっ気あるかも」
「…………え?」
「話を聞いてあげる。だからもう、悪いことはせんといて?」
「え、あの、え?」
あまりにも唐突な話に、私は狼狽し、美沙子の顔を見た。何が彼女を変えたのだろう?
「な……んで?」
私の言葉に、私から視線を外し、カウンターの奥を見つめる
「さぁ、なんでやろね。あ、マスター、昨日のお酒、ちょうだい」
「え、で、でも」
あたふたする私は、手元にあったカクテルを倒してしまった。
「あっ」
私がグラスを直すと、こちらに視線を戻していた美沙子が、今日、初めて微笑んだ。
そしてピースサインを作る。私にではない。マスターに対してだ。
「追加。昨日のヤツ、2つね」
<おわり>