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男は街中を散歩していた。
町の様子を観察しながら歩いていると、通りの向こうに博物館を見つけた。
「博物館か。時々歩いていた道なのに、どうして今まで気付かなかったのだろう」
近づいてみると、古く薄汚れた博物館の入り口にはポスターが貼ってある。
ポスターには『人の歴史展』。
長年置き去りにされたかのように黄ばんで変色している。
チケットを買って中に入る。
いくつかの部屋を回ってみるが、男の他には一人の姿も見えない。
展示物は、石器から、民族衣装、工芸品、絵画、武器兵器、雑誌・本、各種家電、etc……、果ては宇宙服。
順路に沿って年代順になってはいるが、
ありとあらゆる時代・国のものが乱雑にガラスケースに収められている。
「テーマが広すぎるんだ。何でも置けばいいってもんじゃない」
ぶつぶつと文句を言いながらも、男は最後の部屋にやってきた。
一番奥のケースの中には壊れた腕時計がある。
時計は、熱か衝撃かわからないが、ぐにゃりと歪み、風雨に晒されたかのように錆ついている。
男がどこか見覚えのある腕時計だと思って見ていると
それが、今、自分が着けている腕時計だと気がついた。
限定品の時計で、側面に刻まれたシリアルナンバーも同じだ。
男はケースと自分の腕時計を見比べる。
今は確かに動いているが、これが止まるのはいつだろう。
部屋は行き止まりで、どこにも出口は見当たらない。
壁の向こうから爆発音が聞こえた気がした。
内ポケットから煙草を取り出して火をつける。
煙を吐き出しながら、男は世界の終りを待つことにした。