11/11/06 01:44:08.02 7QkXa+Dj0
戦後、何も食べるものがなかった。
それでも一生懸命働いて、所帯を持って、小さいながらも自分の蕎麦屋を持つことが出来た。
さあ、これから頑張ろうって時に、カミさんが倒れちまった。
身体に鞭打って働いてきて、疲れが出たくらいにしか思っていなかった。今から思えばそれが大間違いだったんだな…
俺は一人っきりになった。胸のどこかにぽっかりと穴が開いちまったような感覚。
蕎麦屋も人手に渡った。何をしたいわけでもなく、ただ毎日が過ぎていった。
それでも何かしないと生きていけねえ。
日雇いの仕事に何とかありついた。
この歳になると、さすがに肉体労働は厳しい。
アパートで安酒を飲み、泥のように疲れて眠る毎日。
この間、久しぶりにカミさんの夢を見た。
夢の中で俺は蕎麦職人だった。
二人で切り盛りする小さな店。
朝から晩まで忙しかったが楽しい毎日だった。
にっこりと微笑むカミさんの笑顔。
目が覚めるとそこは電車の中。
丁度、駅に着いたところだった。
夜通し、ずっと立ちっぱなしで仕事をしていた疲れが出てしまったんだろう。
俺はみっともないことに大口を開けて寝ちまってたようだ。
向かいに座っている大学生くらいのお嬢さんが
俺の方を見てクスクスと笑いながら降りていく。
それを窘めようとしている連れの男の子。恋仲なんだろう。
自分とカミさんの馴れ初めを思い出した。あの二人も幸せになってくれるといいんだが。
その日一日、俺はなんとなくいい気分だった。