09/12/06 00:22:24 0
車を離れて、商店街のそばの通りを歩き、わき道から僕らは閑散とした公園に入った。
普段から人気の無いところだけど、
夕方こんなところを歩いてるのは、どうも2人だけのようだ。
ハクは、なんとなく俯いて僕についてきていた。
周りを見るでもなく、けれど完全にうなだれているわけでもなく
たまに歩くペースを落としたりしながら。
まるで去年の僕らみたいだな、と思う。
・・・そういえばさっきからずっと去年の事を思い出してばかりいたのだけど、
ハクと手をつないで歩いているうちにふと気が付いた。
よく見ると、ハクはあの時と同じ格好をしていたのだ。
襟の辺りが少し傷んでいるこのコートは大事にしまわれていたのだが
今日病院に出る前に、寒いからとミクがクローゼットから持ってきたのだった。
どうして今まで気が付かなかったのだろう?
「ハク?」
2人で黙って歩いていたが、突然ハクが足を止める。
僕も止まり彼女の方に向き直した。
そしてハクの顔を見て、少しぎょっとした。
ハクの表情は、ここ最近いつも沈んでいたのだけど
今のそれはむしろ苦しみに耐えているように見える。
「ハク・・・大丈夫?」
「・・・」
ハクはただ黙って俯いている。
手を握られたかと思うと、ゆっくりと振り解かれた。
「・・・。 少し、休もうか。ほら、あそこにベンチがあるから」
「・・・いい」
沈黙。しばらく僕らは向かい合って目もあわせず立っていた。
風が、2人の足元を抜けてゆく。
「ハク、帰ろう」
ぱっとハクの手を握ると、今度は彼女がぎょっとしたようだった。
きょとんと僕の目を見つめてくる。
「・・・マスター?」
「いや、その・・・ごめん、ハクと手繋ぐのが、う、嬉しいから・・・ひっひっ・・・」
やっぱり僕は格好いい男にはなれなかった。
恥ずかしさと嬉しさと焦りでよくわからなくなって上手く言えなかった。
しかも上ずって口を引きつらせながら変な笑い声をあげている。
顔がどんどん赤くなってる気がする。
「クスッ。いいよ」
ハクの方を振り返ると、すまなさそうに小さく笑っていた。
化粧もほとんどしてないけど、その時彼女はとてもきれいだった。
去年、僕を初めてデートに連れて行ってくれた時みたいに。
そうか。思い出に足りなかったのは服じゃなくて、この笑顔だったんだ。
「ハ、ハク」
「え?」
「今年も、その、ク、クリスマス、でっ、デー・・・」
「ふふっ、2人だけで出てったらミクが可哀想よ」
「そりゃ、もちろん!そうさ・・・3人で、どこか外食に行こう」
「うん」
帰り道は、周りの目なんか気にならなかった。
ずっと、ハクが笑っていたから。
クリスマス。
それまでに、僕が彼女にしてあげられる事は何だろう。