10/09/18 23:23:28
富野「僕はミュージシャンなんて有象無象の集まりだと思っているんだけど、僕の時代には色んな才能が
いたんだよね。でも今は標準化した人の集まりでないかと思っています。一度も叩きのめされたことかない
人間が、中学や高校ぐらいからバンドをやってきた人間が100人いたからって、みんながクリエイター
ってわけじゃないんでしょう?」
石川「う~ん、厳しい意見です」
富野「石川さんに言いたいのは、僕は自分がやっている仕事が真ん中にあったとして、その時に視界に
入ってくる右と左のものは絶対にやらなかった、ということ。もう一つか二つ、遠いところにあるものを持って
くるぐらいの気をつけ方をしました。僕の場合は、自分がいまだにアニメが好きになれないということは
とってもいいことだと思っています。アニメが好きだというところで作ってはいけない、アニメが嫌いだと
いうところでアニメを作る。それは今も意識している。それはどういうことかと言ったら、アニメという手法を
使って映画を作るってことを目指しているから」
石川「音楽も音楽が好きっていうところだけで作ってはいけないってことですね」
富野「それはそう。僕は音楽については素人だからよくわからないけど、みんなの耳が良くなりすぎちゃって
いるというのと、デジタル技術の発達したことで、誰でも簡単に音楽が作れちゃうようになってしまったでしょ。
でもさ、音楽っていうのはそれほど簡単なものではないと考えれば、『火の鳥』のイーゴリ・ストラヴィンスキー
の域にまで戻る、そこまでの作り込みをやっていくしかないのかなって、ポップスであってもねとは考えます。
今、自分が思いつくあらゆる手法を駆使する以外ないと思うんだよね。
ただあらゆるものを統合していくといい作品ができるかというと、それは嘘です」
石川「いろんなものを作り上げていって、作品にする時に今度は余分なものをそぎ落としていく、マイナスの
作業は必要ですよね」
富野「どうやってそぎ落とすかというと、その曲のテーマに関して、そこまでいるのかいらないのかということを、
考えなくちゃいけないと思うんだよね。それがなされていないから、僕には今の音楽がみんな同じように
聞こえちゃう。鮮やかなんだけど、それは創作ではないんじゃないってね。初音ミクの音楽とかさ」
石川「あんな高い声では歌えないし、あんな早くは歌えない(笑)」 (中略)
石川「私は合唱団出身なんですけど、その頃の友達と話すと『アニソンなんか歌っているの?』みたいな
反応をしますよ。みんな自宅でピアノを教えたり、歌を教えたりしていて、そういう方が上等だという考え方
が根強いですから」
富野「クラシックは、所詮アコースティックなわけ。所詮というのは悪い意味ではなく、音楽の持っている
一番のいいところを押さえているんじゃないかと思うわけです。それをポピュラー音楽やアニソンにもっと
投下したらどうかと憧れます。それと合唱コンクールの歌を聴いていて感じたのは、アンサンブルの
テクノロジーだけで現代的な音にしているスゴさは、手に入れるべきだ、と、これはアナタに言っているのよ」
石川「わかっています、ちゃんと監督の言葉を受け取っています。アンサンブルというのは、間口が広くて
いろんなことができるんですよね。音がキッチリ取れればですけど (笑)」
富野「生きている体にとって気持ちのいい瞬間って、そのアンサンブルの快感なんじゃないかな。
家でモニターを見ながら初音ミクだけやっている連中には、それがないんじゃないかと思うのね。
(本文一部抜粋)
対談:石川智晶VS富野由悠季
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