10/09/04 13:35:30
では,そのイメージが,実際の現場ではどうだったのかというのを,一つずつ見ていこう。
まず「リアル志向」について,塩川氏は大きな誤解だったと語る。最初はとにかくリアル志向な
イラストと企画書を持っていったところ,チームから帰ってきた反応は,「地味だ」「面白みがない」
「売れると思えない」「こんなの作りたくない」といった,ネガティブな反応だったという。次に
派手さを強調した素材を用意したという。ファンタジーの強みを活かし,とにかくインパクトを
重視した案である。その結果はというと……「思い出すのも悲しい」結果だったそうだ。
散々な目にあった結果に辿り着いたのが,以下に示す「ビリーバブル(Believability)」という
概念だった。
「ビリーバブル」とは,つまりは「説得力」のことで,北米市場にあたってはこの感覚が非常に
重要視される。なぜ北米キャラクターはオッサンばかりなのか。当初は不思議に思っていた
この疑問は,説得力という語で説明できる。困難に立ち向かう主人公が,それを打ち破るに
足ると,プレイヤーが信じるためには,タフな肉体や深い人生経験といったヒーロー像が
求められるというわけだ。
例えば「Fallout 3」に登場するコーラ(Nuka Cola)は,飲むことで体力が回復する効果が
あるものの,同時に放射能が体内に蓄積されてしまうアイテムとして登場する。この部分だけ
とってみれば,まったくリアルとはいい難い設定だが,核戦争後の世界という,同作の
世界観全体が,この設定を「ビリーバブル」なものにしている。北米でウケるゲームとは,
決して「リアル」一辺倒ではないのだと,塩川氏は語る。
塩川氏に続き松澤氏は,アートディレクションの視点から「トップダウン意思決定」の間違いに
ついて解説を行った。当初のイメージから,北米の開発体制について行けるか不安だったという
松澤氏は,とりあえずイメージしたとおりのディレクションを行ってみたそうだ。
その結果はこれまた散々で,ほどなくスタッフから不満の声があがり始める。北米の
意思決定において重視されるのは,チーム全員が納得することで,ディレクターに
求められるのは,その「空気を読むこと」なのだと松澤氏は語る。
最後の「ドキュメント重視」については,これは想像以上の充実ぶりだったという。イラストを描く
コンセプトアーティストにとって,プロジェクト全体が目指すべき方向が,きちんとドキュメント化
されているのは好ましく,この点については期待以上だったと,松澤氏は言う。
ただ予想外だったのは,そのドキュメントを作成するのがプランナーではなく,自分達だったことだ。
最初にいい渡されたのは,ドキュメントが完成するまでは絵を描いてはいけないという
指示であり,そして最初の3か月ほどは,まったく絵を描くことなくドキュメント作りに追われる
こととなった。
セッションの最後には,塩川氏からこの北米での経験をどう活かせばいいのかという提案が
行われた。氏はあくまで「北米をターゲットしたタイトルの場合」と前置きしつつ,次の3点を
ポイントとして挙げた。
一つは,自分達持ってる強みを見つめ直すこと。北米のトレンドを追いかけてまわる必要はなく,
日本は日本の独創性でもって,十分に北米と勝負ができる。ただしその独創性も,「ビリーバブル」
でない表現で出力されては意味がない。自らを見つめ直し,相手に届く表現を考えることが
重要だという。そのためには,既存のキャラクターの中から「ビリーバブル」な要素を探し出し,
議論を重ねる必要性が説かれた。
そして,そうして得られた共通認識を,必ず皆でドキュメント化し,「バイブル」を作成すること。
プランナーやディレクターは「空気を読む」ことに専念し,チームをより良い状態に導くことが
重要だとし,セッションは終了となった。