10/03/18 13:32:07 oDcA2GIw0
「金魚ーええ金魚…。ダメだ…声が出ない」
与作は金魚売りだった。前日暑いからと裸で寝たのがまずかったらしい。喉が痛くて声が出ない。
どうしよう…与作は途方に暮れた。夏は金魚売りの稼ぎ時だ。一日だって無駄にはできない。
「どうしました?」
「え?」
振り向くと外国人の男が立っていた。異様ないでたちだった。この暑い最中に、革のズボンに皮の上着。
頭には映画のポリスマンが被るような角ばったいかつい帽子が乗っていた。さらには衣服の至る所に金属製の
尖った鋲が打ち込まれていて、男の異様さをさらに助長していた。
「あ、ええと、声が出なくて…。」
「よろしければ、私が手伝いましょうか?」
男は帽子のつばを人差し指で持ち上げて与作を見ていった。年のころは与作とそう変わらないように見えた。
男の青い瞳は不思議な優しい光を帯びていて、与作は断ることができなかった。
「え、ええ…それじゃあお願いします。」
「では。」
男は帽子を深く被りなおすと、深く息を吸った。