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ニューギニアの激戦地に派遣されたAさん(92=放送当時、放送では実名)が、
日本軍による「人肉食」を告白する衝撃的な場面である。
〈まあ、兵隊さんは友軍(日本軍)がね、死ぬでしょう。死ぬと埋めるんだよね。
友軍を埋めて、それでもさ、そのまま部隊をそこからどっかへ移動するでしょう。
このまま移動するのはもったいないというんで、その友軍の肉を、土を少しかけて置いといてさ、
それから取っちゃってな、それで肉を切って食べてきたんだ〉
Aさんはさらに、死んだら腐ってしまうから、仕方ないのだと話す。
それに対し、女性スタッフの声でこんな質問が挿入される。
〈すごい、抵抗感とかもあったんじゃないですか?〉
Aさんが答える。〈そら、あったね。あったけども、体力がなくて(食べ物が)欲しいんだから。
食べたいというね、その食欲っちゅうかな、食べようという欲望のほうが多いんだね、
生きるためには。生きるためには食べなきゃしょうがないでしょ。
おなか空いていたら、何だって食べなきゃしょうがない〉
これが事実なら勇気ある証言である。
そして、大岡昇平が小説『野火』で明らかにして物議をかもした
日本軍による友軍の人肉食が、当事者によって告白された恐らく初めての記録となる。
が、果たしてその通りなのか、疑問が残るのだ。
“衝撃証言”への疑念は、皮肉なことにNHKが自ら公開している
「NHK戦争証言アーカイブス」(保存・公開されている取材データ)から生じた。
このなかに番組の元になったAさんの証言VTRが収められており、
そこではAさんは、人肉食ではなく「ネズミ食」について生々しい体験を語っている。
前述の女性スタッフの質問の直前までの話はこうである。
〈飛行機の部品をネズミ捕りにできるんだよ。それを仕掛けとくとね、一晩で2匹獲れるの。
それを皮をむいてね、生で食べるんだよ。最初は生で食べられなかったの。
(中略)そのうち生で食べてみようって。それで一回食べたらもう大丈夫だって、生で食べてた。
ネズミ、うん。だけど旨いよ、結局は。みんな食に飢えてんだから。よく生きて帰ったと思うけどね〉
そして女性スタッフが「一回やるまでは」と前置きしたあと、
前述の通り、「すごい、抵抗感とかもあったんじゃないですか?」との質問が入り、
「そら、あったね」と続くのである。
このVTR自体も一部編集されているが、Aさんは「何だって食べなきゃしょうがない」と話した後も、
しばらくネズミ食の話を続けており、アーカイブスを見る限り、
一連の証言が「腹が減った兵士たちはネズミを生で食べて飢えをしのいだ」という内容であることは疑いの余地がない。
前述の人肉食に関する発言はアーカイブスには見当たらないが、それとは別に人肉食について語った場面はある。
ただし、その話も放送された証言と同様に第三者の目線から語るのみで、本人が人肉を食べたという証言ではない。
NHKのドキュメンタリー番組に携わっていた元番組制作スタッフは、両方のVTRを観てこう語った。
「これはネズミ食の話を人肉食の話に見せようと意図的な編集をしたものでしょう。
ネズミの話だからAさんは笑っているが、番組を見た人には、
人肉を食べたのに『お腹が空いていたから仕方ない』とヘラヘラ語っているように見える。
番組では他の元兵士も人肉食については伝聞しか述べていないから、
制作者は番組の構成上、どうしても人肉食の証言が欲しかったのではないか。
NHKの番組作りは、あらかじめ決められた企画コンテに沿った事実だけを拾う傾向がある。
制作はNHKと制作会社が共同で行なっているので、
NHK側が制作会社に『人肉食の証言を取りたい』と要求したのかもしれない。
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