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谷崎潤一郎「阪神見聞録」(文藝春秋・大正14年10月号)
『大阪の人は電車の中で、平気で子供に小便をさせる人種である』
…と、こう言ったら東京人は驚くだろうが、これは嘘でも何でもない。
事実私はそういう光景を二度も見ている。もっとも市内電車ではなく、二度とも阪急電車であったが、
この阪急が大阪附近の電車の中で一番客種がいいというに至っては、更に吃驚せざるを得ない。
二度目の時もやはり満員の電車だったと覚えているが、それも女親が幼い子供に、小便でなく糞をさせていた。
念入りにも車台の床へ新聞紙を敷き、その上へさせてしまってから、今度は新聞紙を手で摘まみ上げ、
お客の鼻先へ高々と翳して、雑踏の間を辛うじて分けながら、窓の外へ捨てるのである。
甚だ尾篭なお話で、東京人には恐縮であるが、こちらの人はこんな事を何とも思っていないらしい。
大阪の人、それも相当教養のあるらしいサラリーマン階級の人々は、
電車の中で見知らぬ人の新聞を借りて読むことを、少しも不作法とは考へていないようである。
それも長い汽車の道中とか、つい隣席にいる人の物なら分った話だが、
大阪人のはその借り方がいかにも不躾で、ずうずうしい。
たとえば私が大朝と大毎の夕刊を買って乗り込むとすると、執方か一つ、
私の手に取らない方の新聞を、ちやんと眼をつけて直ぐ借りにくる。
<寸評>
関西在住経験のある方なら解るだろうが、文中にもあるように、阪急といえば、関西地区では随一の格式を誇る路線なのである。
その阪急ですらこうだから、後は推して知るべし、と谷崎氏は書いているわけだ。
だが、この谷崎氏の驚き方は間違っている。
ここは「さすが阪急、やっぱり上品やなあ」というのが正しい驚きかたなのだ。
正しく驚くポイントは、次の通り。
1. 糞をするのが子供という点
2. 床に新聞紙を敷いている点
3. 糞を車外にきちんと捨てている点