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■流出し始めた富裕層
「海外に資産や家族を移転したい」。そんな依頼が金融機関に相次いでいる。依頼主の多くは
巨額の財産を持った富裕層たち。いったい何が彼らを突き動かしているのか。その実態を探った。
「日本に帰る気なんてサラサラないよ。放射能リスクはまだ消えていないし、
日本人には意外に聞こえるかもしれないけど、政情不安が増しているからね」
日本批判を公言して憚らないのは、香港の金融機関を退職し、目下、転職活動中の30代の
日本人男性だ。
彼は日本の大手証券を振り出しに国内外の金融機関を渡り歩き、若くして億単位の財産を築いた
資産家でもある。完全に祖国であるはずの日本に見切りをつけている。
政策が二転三転する民主党政権の政策運営については特に手厳しく、「減税を主張していたかと
思えば、いきなり増税を叫び始める。海外からすると正気の沙汰とは思えない政策がまかり通り、
このままでは財政破綻は避けられない」とこき下ろす。
海外と比較した場合の日本政府の放射能に対する意識の低さも問題視している。そのため、
子どもの健康リスクを考えて、仮に仕事の都合で帰国することになったとしても、家族は
海外に残して、単身赴任すると決めている。
■スイスに資産移転 不動産購入も海外で
震災、放射能、急速に進む円高、財政破綻懸念─。
今の日本は、さまざまな“ジャパンリスク”に見舞われている。リスクに敏感な富裕層たちは、
祖国に見切りをつけ、動き始めている。
確かにこれまでも保有資産を海外に逃避させる富裕層は少なからずいた。海外と比べて
税率の高い相続税などの課税を回避するためだ。
そうした状況が、震災とそれに続く原発事故を分水嶺として、大きく変わりつつある。
放射能リスクを嫌って、外国人が大挙して日本脱出を図ったのは記憶に新しいだろう。
ただ、それは日本の富裕層も決して例外ではなかった。
国内のある大手信託銀行には震災後、「キャッシュをスイスなど海外の銀行に移したい」
といった要望が相次いだ。実際に数億円規模で資産移転したケースもあったという。
クレディ・スイスにプライベートバンクの口座を開設している40代の上場企業社長も
震災を受け、すぐに家族をシンガポールに脱出させると、さらに自社株を売却して現金化し、
海外資産を中心に分散投資を始めた。
不動産購入にもこの流れは広がっている。
放射能汚染による価格下落リスクを嫌ってか、ある信託銀行を通じて都内の土地を探して
いた富裕層が、急きょハワイに購入希望地を変更するなど、海外不動産を物色する富裕層が
増えているという。
もちろん利益を追求すべく、さらにその上をいく目ざとい富裕層も存在する。「新興国で
大規模な開発が計画されている都市の情報をいち早く仕入れ、開発地周辺の土地を買い
あさっている」(富裕層アドバイザー)というのだ。(※続く)
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