11/09/30 15:55:53.73
カリフォルニア州、ロサンゼルスのマリーナ。ピーカンの青空の下、そよそよとヤシの木が揺れ、
ヨットの白い帆がまぶしく波間に光る。
そんな天国のような景色の片隅に、州の失業保険の茶色の事務所がひっそりと建っている。
その駐車場では、天国にはほど遠い光景が展開されていた。
「失業保険が4ヵ月経っても支払われていないんだ。何回電話しても、録音された声が流れる
だけで、生きた人間につながらないんだよ!」
日焼けした顔を真っ赤にして怒っているのは、メンテナンス業を専門とするロベルト・レイノソ、
40代だ。
玩具メーカーのメンテナンスの仕事をしていた彼が、リストラを言い渡されたのは数ヵ月前だった。
給料6ヵ月分の退職金を受け取り、即クビになるか、パートタイムで契約として働き続けるかの
選択を迫られ、やむなく週20時間勤務のパートタイムで働くことを選択した。職探しをする間、
州から一部出る失業保険を当てにしていたのに、書類を送っても、4ヵ月間音沙汰なし。とうとう
しびれを切らして事務所に乗り込んできたのだ。
リストラ前は、2階建ての大きなビルのメンテナンスを一日中ひとりで仕切っていたという。
「メンテナンスの需要は、今どの業界でも高いんだ。だけど不況で、機械が多少壊れても、
使い続ける企業が増えてるだろ。だから、仕事が減ってるわけ。子どもだっているのに、
これじゃ食べていけないよ」
彼の後から失業保険事務所を出てきた作業着姿の男性に向かって、ロベルトが叫んだ。
「おーい。どうだった? 担当者と無事に話せたかい?」
「それがさ、コンピュータで先に登録しろって。俺、自宅にパソコンないんだよ。インターネット
アクセスがないと失業保険すらもらえないって。進化できずに死んでいく恐竜にでもなった気持ちだよ」
その日は折しも、オバマ大統領が全米に「アメリカに再び職を」の演説を大きくぶちあげた翌日だった。
クーラーの効いた失業保険の事務所に足を踏み入れてみる。求人リストのファイルを手に取ると、
不動産チェーン店のロゴ入りのポロシャツを着た男性が、すかさず話しかけてきた。
「あんたも職探してるの? ないよ~職。ほんっとに、ないから。俺、昨日ここのテレビでオバマの
演説見てたけどさ、心底がっかりしたよ。職を生み出すための具体案ってものがまったくないんだもの」
まだかろうじて現職をクビになっていないという彼は「その日」に備えて、次の職を探しているという。
カリフォルニア州の失業率は12%を突破した。失業率全米一のネバダ州の13%に次ぐ高さだ。
10人集まれば1人か2人は仕事にあぶれているのが、この南国の美しい気候を持つ州のシビアな現実だ。
終身雇用制など存在しないアメリカのリストラは、日本と違い、前触れもなく、ある日突然、
死刑宣告のようにやってくる。ヒラであれ、重役であれ、そのリスクを免れることは誰もできない。
■履歴書400通送った 失業730日間デスマッチ
サンノゼに住む建築家で59歳のジョン・ナイトは、8年勤続した大手建築会社の職を2009年に失った。
建築家としての経験は20数年以上。採用や人事も任されていたマネージャークラスだった。
失業してから2年間で400通の履歴書を送ったが、面接までこぎ着けたのはたった4件だ。(※続く)
◎執筆者/ジャーナリスト・長野美穂
◎URLリンク(diamond.jp)