11/02/15 19:58:38
■誰も知らないTPP
ネットで日本のメディアをみると毎日のように“TPP”という言葉が出てくる。
いつのまにか首相の公約になっていて、混迷極める政権の命運がかかった政策の
一つになっているようだ。私が知る限りにおいてだが、アメリカでは経済番組でも
一般ニュースでも“TPP”という言葉に出会ったことがない。私が在籍する
エール大学はじめニューヨークやボストンのアメリカ東海岸の知識人層の間でも
TPPの意味がわかる人に出会ったことがない。
結論から言うと、TPPの参加の議論について、アメリカの意向を過剰に気にする
必要はないと思う。TPPをどうしようが、アメリカにとって日本の相対的な
重要度は損なわれることはない。日本の重要性は増す一方だろう。“日本の国益に
とってどうなのか”に集中した議論をするべきだ。その上で参加の可否を問えばいい。
先日、私の所属するエール大学マクミランセンターでロバート・ゼーリック世界銀行
総裁の講演があった。エール大学のグローバライゼーション研究所所長のエルネスト
・ゼディージョ教授との対談形式だ。旧知の二人の対談を、シニアフェローとして
最前列で聞かせていただいた。
余談だが、ゼディージョ教授は2000年までメキシコ大統領を務めていた人物だ。
TPPの先行事例でもあるNAFTAの実情を知る人物である。ゼディージョ氏は
元大統領だからエールの教授をしているのではない。彼は博士号をエール大学で
取得しており、その実績も考慮されてエール大学で教鞭をとっている。各分野の
ノーベル賞受賞者にも学校行事でよくお会いするが、元大統領とかCIA元長官の
教授がゴロゴロいるところがアメリカの名門大学のすごさだ。
■世銀総裁とメキシコ元大統領の激論
一方のゼーリック氏の経歴は、米大統領補佐官、USTR(米通商代表部)、国務
副長官を経て第11代の世銀総裁に就任。WTOドーハラウンドの生みの親といわれる
人物だ。その間にハーバード大学ケネディスクールで研究員をつとめ、ゴールドマン
・サックスのアドバイザーも歴任。政府・ビジネス・学界を行き来する“回転ドア”
の成功例の典型だ。
もう一つ余談になるが、講演の冒頭、ゼーリック世銀総裁はアメリカの回転ドア
システムの有用性を説いた。「政策の現場、ビジネスの実務、学問的追求の場、
これらを経験していないと今の国際問題に貢献できない」と熱く語っていた。
その通りだと思う。ビジネスをやったこともない政治家や官僚たちが考える成長
戦略が全く機能しない日本がいい例だ。回転ドアシステムについては、弊害も
議論されるが、私はメリットの方が大きいと思う。これについていつかこのコラム
でページを割いて持論を述べたい。
“机上の空論”とは程遠い、実務家同士の対談形式の講演だったので、全く退屈
しなかった。話題は金融規制、欧州財政危機、WTO、FTA、NAFTA、
そしてG20誕生秘話まで面白すぎた。ゼーリック総裁はG7でもG20においても、
中央銀行・蔵相会議のメンバーだから「世界経済金融問題について本格的な議論の
場が、G7からG20に移る過程の舞台裏」の生情報も披露してくれた。ゼディー
ジョ教授も最近までWTOのアドバイザーだったので、WTO、FTA、NAFTA、
APECの場での各国の駆け引きの様子を教えてくれた。(※続く)
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