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■定年延長は必要 労使は粘り強い交渉を
日本は世界に類を見ない高齢化を経験しつつあり、従来のように60歳定年の後に年金生活と
いう社会では、現役世代は税や社会保険の負担が大きくなるし、労働の負担も重くなってくる
。逆にこれを避けようとすると、今度は高齢者の年金を大幅に削らなければならない。
ではどうしたらいいか。働く意思と仕事能力のある人ができるだけ長く働いて、現役にとど
まることができるような仕組みを作るべきだ。
日本人には、長く働き続けることが自分の幸せにつながると考えている人が、欧州などに
比べると非常に多いことが多種の調査で判明している。これは日本にとって好条件の一つだ。
政策的にも、もともと55歳定年が主流だったものを1980年代以降に60歳へ引き上げ、2004年
の法改正では65歳までの雇用確保措置を雇い主に義務付け、着実に高齢者就労を促進してきた。
反対に欧州では、70年代後半から80年代にかけて、失業率が非常に高まり、若い人たちに
雇用の機会を与える目的で高齢者の早期引退を促進する政策を採った。その結果、欧州では
もともと引退志向が強かったこともあり、高齢者の労働力率が急速に下がった。しかも若年層
の失業率は下がらずプラス効果はなかった。
今後の日本の課題は、まず定年をどうするかだ。私の研究などを含め、定年退職制度が高齢
者の就労に明らかにネガティブな影響を与えることは、実証的に確認されている。具体的には
、高齢者は就労意欲があっても、定年があるとそれをきっかけに仕事を辞めてしまうことが
少なくない。また、定年後に第2の職場で働くと、第1の職場で培った技能を十分に生かせない
確率が高くなる。
現在の改正高年齢者雇用安定法では、65歳までの雇用確保義務は定年後の再雇用(継続雇用
)の形でもよく、8割以上の企業がこの継続雇用で対応している。しかし、最終的に年金の支
給開始年齢が65歳になるときに、定年ははたして60歳のままでいいのか。この空白の5年間に
不安定な継続雇用でしのぐというのは制度として好ましくないだろう。
年金制度も支給開始年齢をもう少し引き上げる必要があると思う。米国は満額年金支給年齢
を段階的に67歳に引き上げており、多くの欧州諸国でも議論が始まっている。日本はそこまで
行っていないが、欧米以上に高齢化が進み、かつ高齢者の就労意欲も高いのだから、支給開始
年齢引き上げを考えていく必要があるだろう。ただ、その際には早期に減額年金を受け取って
引退する自由を確保しておくことは大切だ。
支給開始年齢と併せて定年を延ばしていくとき、壁になるのは年功的な賃金と処遇の制度
だ。この仕組みのままでは企業のコスト負担や管理職のポスト数の問題で、定年は延長しに
くい。カギは中高年以降の賃金カーブをいかにフラットにしていくか。これを議論するときは
、「高齢化という社会全体の課題を乗り越えるためにみんなで少しずつ賃金上昇を我慢しよう
」という進め方のほうが、無理に能力成果主義を徹底するより望ましいのではないか。労使
は我慢強く交渉を続けていく必要がある。
(撮影:吉野純治 =週刊東洋経済2010年10月2日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
ソース
URLリンク(zasshi.news.yahoo.co.jp)