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「アメリカの企業でずっと仕事をしてきますと、右翼というか、国粋主義というか、そう
なってくるのですね」。
8月下旬、とあるIT(情報技術)関係の会合に出ていたところ、パネルディスカッションに
登壇した日本のIT企業社長が開口一番、こう述べた。社長の隣に座っていた司会者が苦笑し
、「それは本題と関係ないでしょう」と口をはさみ、会場のあちこちから笑い声が上がった。
その社長は米国に本社があるIT企業数社で経験を積んだ後、日本で起業し、自ら考案した
情報システム開発手法の普及に取り組んでいる。外資系企業に勤め、米国で開発された製品
や手法を日本に持ち込む仕事を続けているうちに、日本には日本生まれの開発手法が必要だ
と考えるようになったという。
IT利用や情報活用を題材とする本コラムにおいて、「右翼」や「国粋主義」と言う言葉を
使う機会は滅多にないから、正確を期すために広辞苑を引いてみた。右翼は「保守派。また、
国粋主義・ファシズムなどの立場」、国粋主義は「自国民の優秀性を偏狭な拝外思想にもと
づいて誇大に主張する立場」となっていた。パネルディスカッションにおける自称“右翼”
社長の発言を最後まで聞いたが、これら2つの「立場」にいる人ではなかった。
だが、わざわざこう表現したくなる気持ちは理解できた。ITの世界を長年取材してきて、
欧米のIT企業やその日本法人に勤めた方々から、同様の発言を聞いたことが何度もあったから
だ。
より正確に彼らの思いを表現すると「アメリカの企業でずっと仕事をしてきますと、愛国心
が強くなってくるのですね」となる。要するに、日本の企業に勤めている人よりも日本びいき
になる、あるいは日本のことが気になってくる、ということだ。
「愛国心(patriotism)」とは「特定の場所と特定の生活様式にたいする献身的愛情であ
って、その場所や生活様式こそ世界一だと信じてはいるが、それを他人にまで押しつけよう
とは考えないもの」である。これは、ジョージ・オーウェルが「ナショナリズムについて」
(『オーウェル評論集』、小野寺健編訳、岩波文庫)という文章で述べた定義であり、オー
ウェルは愛国心と国粋主義・国家主義(nationalism)とはまったく違う、と書いている。
ソース:日経ビジネスオンライン
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