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『歴史の教訓―アメリカ外交はどう作られたか』 アーネスト・メイ 岩波現代文庫 読了
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統合参謀本部にも勤務経験のある歴史学者が、アメリカの為政者たちがその政策決定にあたり、
歴史をどのように引用・考慮してきたのか、ということを具体例(冷戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争)を出しつつ考察し、
タイトル通り「歴史の教訓」の誤用と活用について論じた本。
第1部では歴史的事象に対して、アメリカの為政者たちがどのように歴史を引用して行ったのかを考察する。
基本的に為政者は、ある重大・緊急の出来事に対し、比較的近い時代の類似している(ように見える)重大な出来事を参考にしながら対処しようとする。
そして為政者の歴史認識自体も、その政策決定を拘束していく。
「見えるもの」と「見えないもの」が生まれてしまい、考えが狭窄的になってしまうのである。
第2部では歴史の活用と予測について論じている。
著者はまず、ベトナム戦争中に論じられた「和平のための爆撃」論を他の歴史的事象、特に日本やイタリアと比較しつつ批判的に検証している。
続いて著者は、膨大な考慮要素が存在するとして、それらを列挙しながらも、自分なりの10年後(1983年)の歴史の予測を行う。
そして著者は、費用の問題や情報公開に対する官僚組織の抵抗感などがあるにせよ、政策決定にあたり、
歴史をより一層正しく活用していくことは重要だと主張し、教育による要員育成や史料の早期公開を提言している。
原著の発行年の都合上、まだ史料が十分に公開されていない出来事もあるため、必ずしも全ての分析が正しいとは言えないが、
その後の史料によって裏付けを得ているような分析も多い。
また、本の末尾には復刊時に追加された訳者の解説がある。著者の経歴や本書出版後の流れ、
さらに本書で取り上げられている歴史的事象についても新資料を考慮しつつ解説を加えているので、それなりに有用である。
歴史を教訓としてどのように引用し、政策形成に役立てていくのか?という難しいテーマを正面から扱った本であり、
歴史は政策決定に限らず広く社会一般で引用されるものであるから、読んでおいて損はないだろう。