10/12/05 23:29:48
>>131の続き
陸戦については詳しくないですけれども、
「日本陸軍歩兵と聞くとバンザイ突撃ばかりが有名だが、実は巧みな浸透戦術等で
列強国歩兵の中でも屈指の戦術能力を有しており、米海兵隊相手にも一歩も引けを
取らない優秀なレベルにあった。
ただそれを支援する重火器が欠落していた上に根本的な兵力不足が祟り、敵陣地の
一角を占領するところまではいったものの結局全ての攻撃が挫折していた」
(『NAVY YARD(15)帝国海軍重巡洋艦総覧』)
陸戦と海戦の戦術にも”共通分母”があるのかもしれません。
辻ーんも著作の中で、海軍の食糧事情をうらやむ場面が何度も出てきます。
海軍で「補給」と言ったら、まずは軍艦を動かす重油であり、次に飛行機や搭乗員の
事であり、餓死の心配をすることは無いですからね。ラムネも出るし、
なかなか新鮮な視点ではありました。
明日より、フォークランド沖海戦再開の予定であります。
引き続き宜しくどうぞ。
133:GF長官
10/12/06 21:25:25
今週の新刊情報
『艦船模型スペシャル~重巡アドミラル・ヒッパー級特集』
ナチスドイツ軍艦の艦名を見ると、第一次大戦で活躍した提督たちの名前を発見できる。
ポケット戦艦ドイッチュランド級3番艦「アドミラル・グラーフ・シュペー」もその一つ。
もちろん元ネタはフォークランド沖海戦の主役シュペー提督ですが、彼の本名は、
マクシミリアン・ヨハネス・マリア・フベルトゥス・フォン・シュペーとか。
なげー
同艦はラプラタ河口で自沈した悲劇の艦として知られています。
ラプラタ沖海戦で交戦したのは、重巡エクセターと軽巡エイジャックス、アキリーズの3隻。
このうちエクセターは損傷が大きく離脱し、替わって重巡カンバーランドが包囲網に加わっていた。
手負いとはいえ、28センチ砲をもってすれば脱出は可能だったかもしれない。
134:GF長官
10/12/06 21:26:41
>>133の続き
しかし英海軍は「空母や巡戦他多数の英艦が港外に集結している」と偽情報を流しており、
またグラーフ・シュペーは同海戦の被弾により搭載水偵を失っていたため、それを確かめる
ことも出来なかった。
かくして、ハンス・ラングスドルフ艦長は自沈を選択し、自らは自決した。
ゲーベン追跡戦にて、「メッシナに33時間も停泊したのは問題」と指摘しましたが、
スレリンク(army板:652番)
それも、グラーフ・シュペーの悲劇が頭にあったからです。
幸いにも、メッシナは出口が2つあるという地形状の利点から包囲する英艦隊の
分散に貢献しましたが、ミルン提督の決断一つでゲーベンもまた自沈に追い込ま
れていたかもしれない。
評価が分かれるところではないかと。
135:GF長官
10/12/06 21:41:01
>>128の続き
ここに至って、シュペー提督も観念したのでしょう。
もはや逃れることは不可能、自らを犠牲にし、せめて軽巡隊だけでも離脱させようと
決意します。
1325時、シュペー中将は装甲巡2隻に左舷回頭を下令し、針路を東北東へ。
残りの軽巡3隻を解列して南米海岸へ向かうように命じた。
陸戦においても撤退戦で殿軍(しんがり)を引き受けることは死を覚悟するに等しい。
それ故に指揮官の勇気と決断が試され、また戦史を彩る見せ場でもある。
エンガノ岬沖で見せた駆逐艦初月の奮闘もまた、その”不撓不屈”の表れではないかと。
小澤艦隊追撃のため北上する米第13巡洋艦隊(ローレンス・デュボーズ少将)
重巡「ウイチタ」「ニューオリンズ」、軽巡「サンタフェ」(旗艦)、「モービル」、駆逐艦12隻
計16隻の敵艦隊に対し、単艦立ち向かい、2時間にわたる死闘の末ついに沈没。
敵将をして「私は断腸の思いである」と言わしめた、
初月坐乗の第六十一駆逐隊司令・天野重隆大佐、駆逐艦長・橋本金松中佐
の勇名は、永く戦史に刻まれることでしょう。
136:GF長官
10/12/06 21:46:31
[フォークランド沖海戦](1325時)
└┐
▽ 装甲巡カーナヴォン
└┐
└┐
▽装甲巡コーンウォール
▽ 装甲巡ケント
▽巡戦インフレキシブル
▽巡戦インヴィンシブル(スタディ中将)
▽軽巡グラスゴー
└┐
↓
┏━→
▲装甲巡シャルンホルスト(シュペー中将)
┗┓ ┏▲装甲巡グナイゼナウ
┣━┛
┃
▼軽巡ライプチヒ
▼軽巡ニュルンベルク
▼軽巡ドレスデン
↓
(註)英軽巡グラスゴーはインヴィンシブルを先行させ、自らは同艦の左舷に占位
137:GF長官
10/12/06 21:52:10
>>136の続き
シュペー提督の心境や如何に。
分離後にグナイゼナウは減速し、シャルンホルストが先行します。
でもまぁ、一度は言ってみたい台詞ですよねぇ。
「それがしが殿軍をつかまつる!おのおの方は早々にお退きなされい」
今回の場合で言うと、殿軍を務めなければならないのは軽巡隊のような気もしますが・・・
そこがまた「アドミラル・シュペー」の心意気かと。
後に艦名に採用されるところからも、ドイツ国民に愛されていたことがうかがえます。
さて、次は英スタディ提督が決断する番です。
敵は二手に分かれました。こちらはどうする?
138:GF長官
10/12/08 21:26:50
祝!開戦記念日
<柱島~長門艦上>
参謀「ハワイ沖より入電 ”トラトラトラ”~ワレ奇襲ニ成功セリ!」
一同「やった!」
参謀「長官、おめでとうございます」
山本「何がめでたいものか!」
参謀「えっ?」
山本「これからが本当の地獄だ・・・(AA略」
と言ったかどうかは分かりませんが、山本長官はどんな思いでトラ連送を聞いたのでしょうか。
「どんな角度から検討してみても、この奇襲作戦は大成功と思われ、幕僚一同浮き立つ思いを
抑えかねている中に、山本一人はまるで吐息でもつきそうな深く沈んだ様子に見えたということ
である」 (『山本五十六』阿川弘之/著)
139:GF長官
10/12/08 21:28:48
>>138の続き
奇しくも真珠湾攻撃とフォークランド沖開戦は同じ12月8日。
陸戦と異なり海戦は一日で決着がつくことが多いので、記念日を覚える時に役立つかも。
スレリンク(army板:561番)
真珠湾と言えば、珊瑚海海戦の主役である翔鶴・瑞鶴が鍵を握っていました。
「本艦(初代扶桑)の改装工事は昼夜兼行で、文字通り横須賀工廠は全力を注いだ。
まだいくぶんの工事を残し、工員を乗せたまま出港して佐世保に直行、やっと日清開戦
に間に合った。というよりも、日清開戦時の聨合艦隊佐世保出撃の期日は、扶桑の改装
と海防艦橋立の完成によって決定されたのである。
日露戦争においても、イタリアで建造した装甲巡洋艦(日進・春日)が無事到着することが
開戦期を決する重要なファクターとなり、太平洋戦争も大和の竣工及び翔鶴・瑞鶴の艦隊
編入時期に大いに関係があったことと対比されるものである」 (『日本戦艦物語』)
140:GF長官
10/12/08 21:29:22
>>139の続き
開戦時の搭乗員は神レベルだったとよく言われますが、実際は各方面からかき集めて、
ようやく定数を満たしたという状態でしたから、
スレリンク(army板:727番)
それでも大成功を収めたのは、ひとえに大御威稜を妨げるものなく、そして南雲長官の
冷静沈着な艦隊指揮の為せる業かと。
まずはお疲れさま、帰ったら一杯やりましょう。
141:GF長官
10/12/08 21:38:28
>>137の続き
正解は「こちらも二手に分かれる」でした。
スタディ提督は、独艦隊分離の3分後、インヴィンシブル・インフレキシブルを率いて
左舷に回頭、ちょうど独装甲巡と並航戦の形になった。
後続のケント・コーンウォールはそのまま南下して、独軽巡隊の追撃態勢に入る。
これらの行動は前日の作戦会議での既定方針だったようです。
ただし、インヴィンシブルの左舷にいたグラスゴーは前を塞がれる形となったため、
南下追撃に遅れてしまった。
また後落していたカーナヴォンは、巡戦隊に追従するよう受命。
142:GF長官
10/12/08 21:44:38
[フォークランド沖海戦](1328時)
└┐
▽ 装甲巡カーナヴォン
└─┐
└─→
┌─→
△巡戦インヴィンシブル(スタディ中将)
△巡戦インフレキシブル
─┘
┏━→
▲装甲巡シャルンホルスト(シュペー中将)
▲装甲巡グナイゼナウ
━┛
│
▽軽巡グラスゴー
↓
▽装甲巡コーンウォール
▽ 装甲巡ケント
↓
┃
▼軽巡ライプチヒ
▼軽巡ニュルンベルク
↓
▼軽巡ドレスデン
↓
143:GF長官
10/12/08 21:53:16
>>142の続き
南下追撃戦の方ですが、速力を比較してみると、
(英)ケント24ノット、コーンウォール22ノット、グラスゴー25ノット
(独)ドレスデン23ノット、ニュルンベルク20.5ノット、ライプチヒ20ノット
おおむね英側が優速ですが、ドレスデンだけは機関の調子が良かったらしく、
先頭を切って南下している。
これを追うのは、当然英艦隊最速のグラスゴーのはずでしたが、上記の通り
追撃に入るのが遅れたため最後尾になってしまった。
これがドレスデンに好運を呼ぶことになるのですが、ここからは各追撃戦に
分かれて追っていきたいと思います。
144:GF長官
10/12/15 21:12:32
>>143の続き
まずは主力決戦から。
(英)インヴィンシブル、インフレキシブル
(独)シャルンホルスト、グナイゼナウ
巡戦2隻対装甲巡2隻では話にならないとは思いますけど・・・
>>142の通り、針路東北東の同航戦です。
1344 インヴィンシブルに命中弾(距離12800メートル)
英艦隊左舷回頭、針路北東
1400 英艦隊射撃中止(距離14600メートル)
英艦隊右舷回頭、針路東
1405 独艦隊右舷回頭、針路南
英艦隊右舷回頭、針路南東(距離15500メートル)
1412 英艦隊右舷回頭、針路南
両艦隊の航路図が思い描けたでしょうか。
そこから、双方の指揮官の意図が見えてくるはず。
145:GF長官
10/12/15 21:26:00
[フォークランド沖海戦](1430時)
1400 1405
×────×
┌┘ └┐
┌┘ └┐
1344× └┐
┌─┘ ×1412
┌──┘ │
インヴィンシブル△ │
インフレキシブル△ │
─┘ ┏━×1405 │
┏┛ ┃ │
┏┛ ┃ │
┏┛ ┃ │
┏┛ ┃ ↓
┏┛ ┃
シャルンホルスト▲ ┃
グナイゼナウ▲ ┃
┏┛ ┃
┃
↓
146:GF長官
10/12/15 21:45:44
>>145の続き
並航戦が始まった時、両提督は何を考えていたのでしょうか。
それぞれになりきって考えてみて下さい。
火力で言えば英艦隊が圧倒的で、
(英)12インチ砲×16門
(独)8.3インチ砲×16門
しかも英側が優速。
ならば独シュペー提督の選択肢は一つしかありません→「接近戦に持ち込む」
コロネル沖海戦での英クラドック少将と同じですね(>>80)
実際1344時には、インヴィンシブルに命中弾を与えています。
147:GF長官
10/12/15 21:47:04
>>146の続き
対する英スタディ提督は、主砲の口径が勝っている強みを十二分に活かして、
アウトレンジ状態を維持できるように、砲戦距離の離間を図ったのが1344時の
転舵命令です。
独艦隊が距離を詰めようにも、速力が劣るのでそれはかなわない。
そこで一気に南へ回頭し、戦線離脱を企図した(1405時)
スタディ長官もそれはお見通し。直ちに南へ転舵し、再び正尾追撃戦に持ち込む。
こんなところではないかと。
実に面白いですよねぇ。
指揮官にとって必須の能力は「適切な情勢判断」と「迅速な決断」と繰り返していますが、
その根本は「敵将の意図を正確に読み取ること」なのかもしれません。
148:GF長官
10/12/15 21:48:13
>>147の続き
ミッドウェーで”敵ハソノ後方ニ空母ラシキモノ一隻ヲ伴ウ”を受信した時、
南雲長官が思い浮かべた「敵将の顔」は誰だったのだろうか。
ハルゼーかな、フレッチャーかな、それとも・・・?
ハルゼー「ナグモを倒すのは、やはりこのワシだな! わっはっはっ」
フレッチャー「おーい、誰かこいつを病院のベッドに縛り付けておけ」
スプルーアンス「ハルゼー提督は入院か、代役は誰になるんだろう・・・え、俺?」
ニミッツ「一度くらい前線に出てもいいよね?よね?」
キング「合衆国ノ興廃此ノ一戦ニ在リ、ついに私の出番が来たようだ」
一同「お前は引っ込んでろ!」
源田「敵信傍受によると、どうやら誰が指揮するかでもめているようです。
長官、今回も楽勝ですな」
南雲「うむ」
では、次なるシュペー提督の一手は?
もちろんアレですよ~
149:GF長官
10/12/18 20:13:39
>>148の続き
再び南下追撃戦に入った英艦隊は増速し、独艦隊との距離を縮めていく。
1447 英艦隊左舷回頭、針路南南東
1448 英艦隊射撃開始
1453 独艦隊左舷回頭、針路東
1455 英艦隊左舷回頭、針路東(距離11400メートル)
1510 グナイゼナウ左舷に傾斜
150:GF長官
10/12/18 20:20:42
[フォークランド沖海戦](1510時)
│
▽インフレキシブル
▽インヴィンシブル
│
┃ ×1447
┃ └┐
┃ │
┃ │
┃ └┐
グナイゼナウ▼ │
シャルンホルスト▼ │
┃ │
┃ │
┃ │
┃ 1455×
┃ └────→
┃
┃
┃
┃
┃
×1453
┗━━━━━━━━━━→
151:GF長官
10/12/18 20:33:09
>>150の続き
1447時、英艦隊はわずかに左舷へ方向変換し、航路図で言うと「ハ」の字形になった。
これは後部砲塔の射界を得るための行動です。
>>145図のような正尾追撃戦だと、前部砲塔と右舷砲塔の計4門、すなわち全火力の
半分しか使用できないが、船体を斜めにずらすことにより、後部砲塔も右舷側に旋回
角一杯を使えば発砲可能になるのです。
インヴィンシブル級の砲塔配置はこちら
スレリンク(army板:305番)
戦艦ネルソンのように全て前方に集中していれば全門斉射できたんだがなぁ。
152:GF長官
10/12/18 20:33:58
>>151の続き
さて、ここで独艦隊に好機到来。
もう一度思い出してみましょう。シュペー提督の作戦は「接近戦に持ち込む」 (>>146)
英艦隊は左舷後方から追って来ていますが、一挙に距離を詰める”とっておき”が
あるのです。
もうお分かりですよね。
正解は「丁字戦法」でした。
火力の集中だけでなく、こんな使い方もあるのか。
英艦隊はこのまま進めば、相手の射程に入ってしまう。
スタディ提督は、直ちに左舷転舵を下令して針路東。再び同航戦になりました。