07/07/27 20:32:42 O
「あ。」
擦れ違い際、視線がぶつかる。
「帰るの?」
「……はい。」
棚引く、アルコールの香り。
「迷惑かけるけど、ごめんな。
…もう、会うことは、ないと思う。」
静かな声が、小さく震えて、離れた。
その間、わずか数秒―。
キックボードを抱えた、小さな男の子が、
彼の後を追って、エレベーターの中に、消えていった。
湿った街、ちらつく残像が…、
霞んだ視界が、ぐらぐら、ゆらぐ。
あの男の子の長い睫毛は、彼の遺伝なのだろうな、と。
一度、二度、振り返り。
気付けば、踵を返し、走り出していた。