06/11/25 06:35:11 O
> それの正体は、半月形をした薄い肉片―耳の切れ端。
> もう、気のせい、ではないみたいだった。
> 振り仰いだ先は、狭いビルの隙間、魚の骨みたいに入り組んだ空。無数の電線が絡み付いたコンクリートの壁は、うっすらと日没の朱を残す陽の光を閉じ込めているようで
> ぽたり。
> 今度足元に落ちてきたものは、もう少し違っていた。
> まだ生々しくも新しい、たった今切り取られたばかり。既視感に眉を寄せながら、わたしは数秒、地面に転がる肉片と対峙する。
> 煌々と輝く街の明かりは、城跡の歓楽街を彩っている。けれど、その明かりは酷く歪んでいて、そこかしこに残る闇をより深くするためのものなのかもしれない。
> そこにへばりついているものなんて、誰も見たくはないから。
もう鼻に馴染んだ、鉄錆びの匂い。
>「…………」
> ざわざわと澱んで、聞き分けることのできない喧騒は、ある意味で静寂と同じ。無限の無関心が通りすぎる街中に、その赤い雨が滴っている。
> 気に留める人は、いない。
> ―みんなみんなしねばいいんだ。
>
> ▼
>
> 雨かな、と思って空を見上げた。
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> ―ぽたり。
>
> もう一度地面を叩く、雫の音。
> けれどそれは、空を分厚く覆う雲からのものではなくて。もっと粘り気の強い、赤黒い雫。
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