05/05/28 05:19:38 Bi19Ytle0
小野田寛郎(1988年、朝日新聞社)
著者は今さら説明するまでもなく、昭和49年にルバング島から帰還した人である。
この一年前にも横井庄一氏がグアム島で「発見」されている。これらの事件は大東亜戦争をすっかり忘れかけていた日本人に大きな衝撃を与えた。
横井氏と著者の違うところは、著者は陸軍中の学校出身の情報将校として、自らの意志で任務遂行のために戦いを続けていたことだ。
弾薬、食糧の補給のない山中で著者とその仲間たちは30年間戦い続けたのだ。本書では、その体験記が綴られる。
この本で最も興味が惹かれるのは、著者を「発見」した鈴木氏との出会いから日本に帰還して再び出て行くまでである。
日本は著者が30年間離れている間にまったく別の国家へと変質してしまっていたのだ。とくにそれが分かるのが帰国後の記者会見の時である。
質問と著者の答えがちぐはぐなのだ。記者団の質問は全てが戦後日本の視点からの質問である。それに対し著者の答えは戦前の感覚のままである。両者のギャップは大きい。
このギャップが著者を日本帰還一年後にブラジルへ旅立たせることになる。
著者はこう述べる。”無条件降伏で敗戦したとはいえ、祖国は復興し隆盛し、国民は贅沢と思える生活を送って、
戦争とそれを行った日本をすべて「悪」としていることに私は憤懣やるかたない悔しさを覚えた”---我々は戦後、我々のために戦った人々を、我々のために戦ったあの戦争を余りにもお座なりにしてこなかったか。
その結果、現在の自らの享楽しか考えられない無道徳国家に落ちぶれてしまった。
著者は国からもらったお見舞い金1000万円を靖国神社に寄付した。仲間を失いながらも戦い続けた著者の気持ちを思えばそれは当然の行為であろう。
しかし、そのことに対して心ない批判中傷が浴びせられたそうだ。これが戦後日本の真の姿なのだ。しかもその病状は現在も刻々と悪化している。
21世紀を目前にした今、その進行に抵抗するかのように若者を中心として国の姿を取り戻そうとする、一筋の光が見えつつある。そんな人たちに、戦前の人々の気持ちに通ずるための一冊として、本書をお薦めしたい。