03/12/03 08:35 iAi+86qe
>>373
ジョン・アシュバーン
(イギリス人のライター。
旅行ガイドブック『ロンリー・プラネット』の日本や東京、日本食のガイドを手がける。)
私のもとには『ロンリー・プラネット』の読者から、日本のとっておきの
食事どころを紹介する手紙が毎年約300通も届く。
面白いのは、志摩スペイン村などの大型観光施設はもちろん、
金閣寺や竜安寺などの伝統的な観光名所にも、大半の旅行者が満足していないことだ。
寺院の価値はわかるのだが、生活感や人間的な交流がそこにはない。
ほどなく、寺を見るとゲップが出るようになってしまう。
つまり、多くの欧米人旅行者が求めるものと、政府や地元が見せたがるもの
(一般の日本人が見せたがるものとも言える)の間には、明らかにギャップがあるのだ。
私は外国人の友人が日本に来ると、寺2カ所とお気に入りのレストラン20軒へ案内することにしている。
西浅草で「来集軒」ののれんをくぐるたび、私は胸が躍る。絶品のしょうゆラーメン。
素っ気ないほどあっさりした、懐かしい下町の味。縮れ麺をすすれば感動の一言だ。
栃木県の山中にある湯西川温泉の「本家伴久萬久旅館」では、平家直系25代目の当主が、
代々伝わる料理でもてなしてくれる。いろりで焼きながら食べる名物の「落人焼き」は絶品。
竹の器の香りを移した日本酒とともに味わえば、心は数百年前に飛んでいく。
高知市の追手前公園(通称「しょんべん公園」)の近くには、
お気に入りの居酒屋「とんちゃん」がある。
天窓を開け放した2階では、即興の月見の宴が開かれる。
そこで私は「ミクロな本物体験」を提案したい。
ミクロな本物体験は、商店街や市場、屋台、立ち飲みの居酒屋など、普通の日本人が集う場所にある。
今は亡き父ジャックが京都に来たとき、私は数えきれないほどの寺へ連れて行き、
祇園の料亭でも何度かごちそうした。
だが、何年も後に父が懐かしそうに語っていたのは、出町柳商店街のコロッケ店のことだけだった。
父はほぼ毎日、1人でその店に通っていた。日本語がわからなくても関係ない。
父は「ミクロな本物体験」を知っていた。