05/10/15 19:23:30
人権条例が出来た翌日、私は妻とともに脱県をはかった。
もうすぐ観光の秋だというのに、米子駅は閑散としている。
県境警備隊の表情は鋭さに満ち、手に構えた機関銃の柄が太陽光を反射していた。
「人間が好き勝手に発言できる時代は終わったんだよ」
県境審査所の案内員が、吐き捨てるように私たち夫婦に言った。
「ええ、でも私たちは出県許可書を持ってるんですよ」
普段は滅多に話に加わらない妻の靖子が、PCで作ったニセ許可書を振りながら優しく言った。
「あなたは差別的発言を行ったとデータベースに登録されて居るらしいですよ。逮捕されるでしょう」
通りがかりの髪の長い中年男がそう言ってほくそ笑んだ。
県境審査所の審査員たちは私たちの財布を懐に入れ、黒光りする銃を突き出した。
「金はもう不要だ。これからは強制労働の鍬の音を響かせるんだな」
一仕事終えた工作員の表情で男たちは言った。
青空のなかをを人権啓発特捜車が横切っていった。