05/08/10 03:48:26
会社員達が、会社に向けて垣根の外を歩いていく足音を聞きながら、始は庭の隅で一人、地面にシャベルを突き立てていた。土がめくれあがり、飛んで髪にかかるが、それもおかまいなしに。
花の種でもまこうかというには、彼の面輪は、固く、淋しそうである。
彼の足元には、自分で板を切ってつくったらしい、手製の十字架が置いてあった。馴れないナイフでも使ったのだろう。彼の手には、そこかしこに傷がついている。
手首が埋まるほどに土を掘り終えると、始はポケットから、そっと何かを取り出した。
手の中にあるのは、ブレイバックルである。
あの時、剣崎が残していった物だ。
そっとそれを、穴の底に据えると、始は目を瞬き、そして何か、唇を開けて言葉をつむごうとしたが、やがてそれを堅く引き締め、ザッと手に握った土を掛けた。
ブレイバックルは始の手が動くたびに、土をかぶり見えなくなっていった。
最後に彼は、十字架を丁寧に立てると、それを指でなぞった。墓碑名が不器用に刻まれていた。「2005/01/23/K.K 剣崎一真」、と。
始は何を思ったか、ブレイラウザーを取り出すと、それを十字架に立て掛けた。
「・・・・忘れない、絶対に」
つぶやき、ブレイラウザーを取り上げ、柄を下にして立て掛ける。
始にとって、それは精一杯の、告別の思いであった。
( QMQ)