04/02/03 20:17 cZ5SRfD4
「どうしたんです監督」
スコアブックにみみずの這ったような文字の羅列を書き続けていたスコアラーが、ペンを持った手をとめて言う。
山下大輔…そう、大ちゃんだ。横浜ベイスターズの監督で、いつも何人かの選手達の中心にいる監督だ。
「うふ、うふふ。あは、あははははははは…」
くすくす笑いが、本当の笑いになり、大ちゃんは、首から上をマウンド上に向けたまま、愉快そうに笑い続けた。
ベンチ中が薄気味悪そうに彼を見つめた。
「ちょっと、なにあれ？監督どうしちゃったの」
「気持ち悪い…」
大ちゃんの笑い声に混じって、選手達がひそひそと声を交わす。
そのとき、大ちゃんが両手でおもいきりバーンと机を叩いた。
一斉にシーンとなる１塁側ベンチ。
目を丸くして見つめる選手達の視線のなかで、彼は低い声でひとこと、「ピッチャーデニー」と言った。
一拍おいて、ベンチはどっと爆笑の渦につつまれた。
「キャハハハハハハ！やだ監督、それ、すっごいおもしろいですよー！」
「ワハハハハハ、なんだよ、禿のやつ！また炎上させたいんじゃねーの？」
ヘッドコーチが必死に制するのも聞かず、選手達の弾けるような笑い声が横浜スタジアムを突き抜けて響きわたった。
「うふ、うふふ。ちょうだい、ねぇ、ちょうだいよ。勝ち星、頂戴。僕もう我慢できないよ。ねぇ、いいでしょ？
ほしいんだよ。勝ち星が。勝ち星！勝ち星がほしいの！
いれて、ねぇ、ピッチャー交代してよぉ！四球連発して、ボコボコに打たれた斎藤の代わりに、デニー出してよー！
登板させたい、させたい、させたいの！させたいのぉぉぉ！デニーを登板させたいんだよおぉぉ！！
ピッチャーデニーピッチャーデニーピッチャーデにーぴっちゃーでにーぴっちゃーでにーぴっちゃーでにーぴっちゃーでにーぴっちゃーでにー…」
選手の笑い声が、徐々にたち消えていく。
大ちゃんは、まるで壊れたＣＤプレイヤーのように「ピッチャーデニー」という単語を連発し続けていた。
笑っている選手は、もう一人もいなかった。
今や誰の目にも、大ちゃんが尋常でないのは明らかだった。