たまにはヤムチャが活躍する話を考えようぜPart27at ENTRANCE2
たまにはヤムチャが活躍する話を考えようぜPart27 - 暇つぶし2ch250:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:37 qGq8L4NM
【123話】
力のない子供が、力のある大人に単純に真っ直ぐ突っ込んでいっても、結果は目に見えている。
そんな当たり前のことすら気づけなかった自分が、少し情けない気すらした。
以前、マーリンに『お前の攻撃は分かりやすい』などと偉そうなことを言っていた自分がなんだか恥ずかしくなってきた。
「……このやり方じゃ、俺は悟空や悟飯どころか、ベジータやピッコロにすら勝てない…か」
言葉こそ自嘲的なものだったが、ヤムチャは落胆とも絶望ともつかない表情で、むしろ何かを見据えているような顔つきだった。
「でも…今、自分の悪い点に気づけたわけだからな。まだ改善のしようがあるってわけだ…この残り10日の間に!」
ヤムチャはマーリンには気づかれない程度に僅かにはにかんだ。
それに気づいたのか気づかないのか、マーリンも僅かに笑う。
「ふふ、そうだな。そこを少し自分で考えながら、戦術を練ってみるといいかもしれない、ヤムチャは…」
マーリンはヤムチャにそう告げると、再び構えを取る。
「組み手の続きをやるぞ!次はわたしが言ったことを踏まえて、かかってくるんだ!」
ヤムチャは数秒だけマーリンを見つめて黙考するが、すぐに吹っ切れたのか、やがて自らも構えを取る。
「ああ…!バリバリやらせてもらうぜ、マーリン!……っうらぁぁあ!!!」
掛け声とともに、界王拳を使わずして戦闘力100万近くはあろうかという、ヤムチャの体がマーリンに向かい、躍進する。
まるで、獲物を追う狼のようなその目つきは、若き頃…自信に満ち溢れていた頃の輝きを取り戻していた。
「こい、ヤムチャ!」
再び二人の肉体と肉体は激しくぶつかり合い、お互いの体を傷つけあう。
だが、それとは対照的に、二人の気持ちは傷付くことなく、むしろ修行を重ねることによってより一層強くなっていった。


251:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:40 qGq8L4NM
【124話】
――そして、時日は流れ、大会前日の夜…。
辺り一面に湯気が立ち込め、ボンヤリとだがくっきり人の形が見える。
ヤムチャたちは前に訪れたことのあるオアシスにいた。
前と同じように気のエネルギーで水を加熱して、人口の温泉を作って温まっている。
「ふー…実に心地よい…。それにしても、わたしの湯加減は最高ではないか?ふふ…褒めてくれていいのだよ、ヤムチャ」
気持ちよさそうに大きなため息をつくと、マーリンは歌うようにヤムチャに話しかけた。
マーリンは大胆にもオアシスの端っこに寄りかかりながら、両手のひじを地面に掛けている。
誰も見ていないが、当然上半身の大事なところも丸出しとなっていた。
「あ、あ、ああ…最高、最高だよ。だからずっとそこにいろよ?こっちにくるんじゃないぞ?」
ヤムチャは何度も念を押すように言った。
マーリンの目の前には、肩まで潜って自分に背を向けてるヤムチャがいた。
ほとんど肌なんて見えないが、少し耳たぶが赤くなっているのは、お湯で熱いせいなのか、それとも……?
そんなヤムチャを、なんとなくかわいく思えてきたマーリンだった。
「いよいよ…明日だな」
ヤムチャは背中を向けながらマーリンに喋りかける。
「ああ…。わたしたちは、やれるだけのことはやった。あとは明日、後悔しないように精一杯戦うだけだ」
「うんうん、俺は俺で色々戦法を考えたしな…って…うわ……!」
いつの間にかマーリンがヤムチャの真後ろまできていて、その手がヤムチャの肩にそっと乗せる。
冷たいわけではないのに、ヤムチャはヒヤッとした感覚だった。
そして横目でチラッとその手を見ただけなのだが、白くて実に綺麗な肌をしていた。
「お、おい、急になんだよ!裸なんだぜ?俺たち!」
ヤムチャは動揺しながらも、ちょっと嬉しそうに叫ぶ。

252:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:43 qGq8L4NM
【125話】
「ふっふっふ…そいつはすまなかったな?」
その慌てようが実に面白くて、マーリンはそう言いつつ更にべったりとヤムチャにくっついた。
マーリンの上半身がヤムチャの背中に覆いかぶさるように触れる。
「ぎゃああああ!!!!」
叫ばずには言われなかったのか、先ほどより更に大きい声でヤムチャは喚き散らす。
それを見て、あっはっはっは!と大声で笑うマーリン。
しばらくしてからようやくヤムチャは落ち着き、話を元に戻した。
「今日は一切修行はせずに休んだから、体のコンディションはバッチリのはずだ。天界の塗薬も塗ってあるから、体のアザもほとんど治ったしな」
自分の体の状態を確認しながらヤムチャは言う。
マーリンもそう言われて、自分の体を見渡してみた。
確かに今まであった修行で出来た青いアザは消えていて、白い肌だけが見える。
「なあ、ヤムチャ…」
マーリンはヤムチャのすぐ後ろで囁く。
「うん?」
いつもより近くで聞こえるマーリンの声に、ヤムチャは少しだけドキドキしてきた。
「負けるなよ…お前の仲間たちに…もちろん、ソンゴクウにもな!」
「…ああ。負けない。お前も負けるんじゃないぜ」
いつもと変わらない声だったが、はっきりと分かる力強い声。
「ふふ、誰に言っているのだ?当たり前だろう」
マーリンはその声を聞いて安心した。
「見ろ、マーリン。星が綺麗だぞ!」
ヤムチャは空を指差す。
マーリンが空を見上げてみると、そこには無数の星が光輝を放っていた。
「…美しい夜空だ。わたしの星の光も見えるかな…」
「ああ…。目を凝らせば、きっと見えるはずさ」
二人はくっ付きながら、しばらくその夜空を見つめていた。
いつの間にか、お互いの手を強く握りながら…。

253:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:45 qGq8L4NM
【126話】
―。
まだ午前8時だというのに、既に会場には数万人の人だかりが出来ている。
そのほとんどは、先着100名限定と言われているミスターサタンの直筆サイン入りTシャツが目的のようだ。
同時刻、会場の外れに一台の車が止まる。
「…久しぶりだな、選手としてこの大会に足を運ぶのは」
そう言いながら、運転席から姿を現したのは、全身スーツでびしっと決めているヤムチャだった。
「何度も言うが…ずいぶんと肩が凝りそうな服装だな、ヤムチャ…」
助手席からマーリンがそっと降り立つ。
マーリンはヤムチャにこの前買ってもらった服を着ていた。
なんだかんだで気に入ってるらしい。
後部座席からは、シルフとプーアルが飛び出すように出てきた。
「い、いいんだよ!あとでどうせ着替えるし…」
ヤムチャは若干不満そうに言うと、車をカプセルの状態に戻した。
「それから…この遅い乗り物に乗った意味も教えてもらいたい。途中まで普通に飛んできたのに…わざわざ会場の少し手前でこれに乗り換えたのは何故だ?」
「だってさあ…車に乗って来た方が、傍から見てかっこよくないか?」
「………」
そんな他愛もない話をしながら歩いているうちに、ヤムチャはふと視線の先に、人ごみの中歩く悟空たちの姿をとらえた。
「お、あれは悟空たち!おい、マーリン、シルフ、プーアル。悟空たちに合流するぞ」
ヤムチャはそう言って、若干小走りで悟空たちのもとへと駆け寄っていった。
他の者もそれについていく。

254:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:47 qGq8L4NM
更新遅れてすみませんでした。
本日は少し多めに更新ということで勘弁してください。
仕事の都合上、1月はあまり時間がとれないもので…。

それでは、おやすみなさい。

255:Classical名無しさん
09/01/20 22:02 FsDadAPM
いきなり更新が進んでてびっくりした。乙です

256:Classical名無しさん
09/01/25 09:16 fe0/JHYc
日曜で時間が取れる!
一気に読ませて頂きます。連貼り乙です


257:Classical名無しさん
09/01/25 19:38 im3n8bGs
マジでいつも楽しみにしてます。
次の更新期待してます!

258:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 00:55 qm/c.RRk
【127話】
「やあ、みんな!悟空とピッコロ以外は久しぶりだな!」
見渡せば見渡すほど、懐かしい顔ぶれが並んでいる。
悟空、悟飯、悟天、チチ、牛魔王、ビーデル、クリリン、18号、亀仙人、ウーロン、海がめ、ベジータ、ブルマ、トランクス、ピッコロ。
ヤムチャはいつものお調子者キャラで仲間たちに挨拶を交わす。
「オッス、ヤムチャ!」
悟空は一番に挨拶を返すが、ベジータとピッコロと18号はいつも通りヤムチャを無視していた。
悟空は続ける。
「今は気を抑えてるみてえだけど、オラには分かる。この短期間で相当鍛えてきたな…おめえら」
「はは…まあな」
本当は修行だけじゃなくて潜在パワーを引き出してもらったおかげの方が大きいんだけど…とヤムチャは心の中でつぶやく。
他の者もヤムチャの声に反応し、その方を向いたが、やがてその視線はすぐヤムチャの背後に居る見覚えのない者…マーリンに移っていた。
「ピッコロさん……あの、ヤムチャさんの後ろにいる人…」
「ああ、間違いない。以前孫に勝利した女だ」
ピッコロと悟飯は周りに聞こえないように静かに言葉を交わす。
そして、その集団の中からひょっこりと背の小さい男が前に出てくる。
もう昔とは似ても似つかないフサフサヘアーで、腕には泣き喚く子供を抱えていた。
「お。クリリンじゃないか、懐かしいな」
「お久しぶりです、ヤムチャさん。…ところで、なにげにカワイイ女の子連れてますね!新しい彼女ですか?」
クリリンは肘でヤムチャをツンツンとやりながらやらしい顔つきで言う。
「あ、ああ…彼女というか奥さんというか…こいつは…その、あれだ、うん」
ヤムチャは喋りながら頬を赤らめると、語尾にいくにつれて段々と声が小さくなっていった。
「え?何て言いました?声が小さくてよく……」
「あーーーーーーーーーーーーーーっっ!!その子はあの時の……!?!?」
そのとき、突如ベジータの隣にいた女性が大声を出しながらマーリンを指差した。

259:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:00 qm/c.RRk
【128話】
「…ブルマ、か」
ヤムチャはどこか寂しげな顔でその名を呟く。
マーリンは自分のことを指差しているブルマに気づき、その顔をしばらく見つめていたが、ようやく以前彼女と会った時の事を思い出した。
「どこかで見たことあると思ったら…あの女…。そうか、ソンゴクウと戦う前に少し出てきたあいつだな。あの様子だと、やはり、ベジータというサイヤ人の王子と…」
女の勘は案外当たるもので、マーリンは以前初めてベジータとブルマを見た時から、あの二人はくっつくのではないかと踏んでいたのだ。
どこか勝ち誇ったような顔をし、ブルマを見ながらマーリンは微笑する。
「な…何よ!今笑ったわね!何がおかしいのよ!」
ブルマはツカツカとハイヒールの音をたてながらマーリンに歩み寄っていった。
「地球の女…ブルマ、と言ったかな?お前がそこのサイヤ人と仲良しになってくれたおかげで、わたしとしては非常に好都合だった。礼を言わせてもらうよ…ふふ」
マーリンはベジータを横目で見ながらブルマに向かって言った。
「な…好都合ですって?どういうことよ、それ…!」
おそらく、分かってないフリをしているだけで、マーリンの言う好都合という意味がブルマだけには分かっているのだろう。
ブルマはマーリンの顔を物凄い形相歯軋りしながら睨むが、マーリンは一歩も退こうとしない。
騒がしくなってきた所でようやくベジータがマーリンの存在に気づいたのか、組んでいた腕を下ろしてマーリンに歩み寄り、ザッとブルマの前に出る。
「おい、貴様…!…以前、そこの地球人と一緒に居た、サイヤ人殺し…“サイヤンキラー”のマーリンだな…?」
ベジータにしては珍しく声を荒げて、マーリンに食いつく。
言うまでもなく、そこの地球人とはヤムチャのことだ。
数年ぶりとはいえ、さすがにマーリンはベジータの顔と声を覚えていた。
「ふふ…ずいぶんと懐かしい話をしてくれるな、ベジータ。その件に関しては、とうの昔に手を洗ったのだが?」
興奮気味のベジータに対し、マーリンはそれほど熱くならずに答える。

260:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:02 qm/c.RRk
【129話】
「おいおい、サイヤ人ゴロシ…って?悟空、ベジータのやつは何言ってんだ?それにあの女の子…なんかブルマさんやお前とも面識あるみたいだし…どういうことだよ?」
クリリンはこの流れについていけず、悟空に訊ねる。
あとで説明する、とだけ悟空はクリリンに言うと、何が楽しいのか口元を緩めながらベジータとマーリンの会話に再び聞き入ってしまった。
他の者もクリリンと同じようなことを胸に思っていたが、話しかけにくいムードで聞き出せない。いきなり現れた女性と、それを連れてきたヤムチャ、初対面と思いきや以前から因縁がありそうな悟空やベジータ…それにピッコロと悟飯もこそこそ話しているし、何か知ってそうだ。
クリリンたちの頭は益々混乱する。
そんな中、ベジータの気がわずかに膨らみ、周囲数メートルの空間が歪みはじめていた。
だが、当然そんな程度で怖気づくマーリンではない。
「フン…まあいい。それよりどうして貴様がここにいる。そして、ここにいる目的はなんだ。答えてもらおうか」
「いちいち説明するのも面倒だ。自分で勝手に想像しろ」
マーリンは言葉少なくベジータに返す。
偶然にも、いつだか自分が言った事のある台詞をそのまま言われてカチンとくるベジータ。
一方マーリンの方もしつこくベジータに絡まれて頭にきてそうな感じだった。
今にも喧嘩が起こりそうなところに、ヤムチャが仲裁に入る。
「はいはいはいはい、そこまでー!ベジータもマーリンも昔のことは水に流そうぜ、せっかく久しぶりにこうやって顔を合わせるんだからさ。あんまり良い思い出とは言えないかもしれないけど…」
「どいてろ、貴様には関係のないことだ。サイヤ人の王子として、この俺がこいつを―」
と、そこで全て言い終わる前に悟空がベジータの肩にポンと手を置く。

261:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:05 qm/c.RRk
【130話】
「まあいいじゃねーかベジータ。もう手ぇ洗ったって言ってんだしさ。どうしてもってんなら、試合でケリをつけようぜ。戦士らしくよ?」
悟空が宥めると、ベジータは舌打ちし、再びマーリンを数秒睨み、一人控え室のある方向へと向かっていった。
「チッ…!覚えておけ、試合で必ず貴様を叩き潰す。たっぷりと前の礼をしてやるぜ…クソッタレ」
と、捨て台詞を吐きながら。
「やれやれ…恨まれたものだ」
マーリンはその後ろ姿を見ながら、呆れたように言う。
その様子を見てヤムチャもマーリンに声をかけた。
「ははは…あいつ、プライドめちゃくちゃ高いからな。前にお前に負けたこと、そうとうショックだったんだろ。大目に見てやってくれ」
たしかに、ベジータにとっては余りにも屈辱的だった敗戦だった。
悟空とマーリンの決闘に勝手に割り込み、そして数分としないうちにマーリンに捻じ伏せられた。
そして、地球もろとも吹っ飛ばす決死の覚悟でギャリック砲を放つが、マーリンに跳ね返される。
結局は死にそうになったところを、悟空の瞬間移動によって助けられるという、誰がどう見ても恥ずかしいかませ犬でしかなかった。
そのベジータも、あの時点とは比べ物にならないほど心身ともに強くなっているのだが。
だが、ベジータを構うヤムチャにマーリンは納得がいかなかった。
「ベジータはわたしと共にこの星を消そうとしたんだぞ…?わたし自身、もうサイヤ人に対する恨みの念はさほどないのだが…あいつには微塵も好意を寄せれそうにもないな…」
そう言ってマーリンは控え室に向かい歩いているベジータの背中を睨む。
「そう言うなって。あいつ自身、お前がいない間に結構成長したんだよ。家族のために、命と引き換えに魔人ブウを倒そうとしたりな…」
「……。わたしには、関係のないことだ」
マーリンは一瞬何か口ごもったが、そう言って、ベジータを認めようとはしなかった。

262:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:07 qm/c.RRk
【131話】
「ちょっとちょっとちょっと、あたしを無視しないでよ?!大体アンタとヤムチャはどういう関係なのよ?っていうかアンタ宇宙に帰ったんじゃないワケ?あ…、別に、ぜーんぜん興味なんてないんだけどね、ヤムチャとかアンタなんかに!」
ブルマはしつこくマーリンの耳元でガミガミと喚く。
こんなうるさい女のどこにヤムチャは惚れたんだろうか…と、マーリンは迷惑そうな顔を浮かべながら思った。
と、そこに、ヤムチャがやたらマーリンの近くに立つ。
「それはな…こういうことだよ、ブルマ」
ヤムチャはブルマにそう言うと、その太い右腕でマーリンの体をギュッと数秒抱きしめる。
「…ヤ、ヤムチャ…?何を…」
突然のことにマーリンは戸惑いの声をあげるが、ブルマたちはそれ以上に驚いた顔をしていた。
さすがのマーリンも、人前で抱かれることは恥ずかしいのだろう、普段はクールな表情が少し崩れていた。
そして、ヤムチャはそばに居たシルフを手で招くと、シルフを肩車し始める。
「よっと…俺たち、家族なんだ。こいつは妻でマーリン、こいつは息子でシルフ。これからたまに世話になると思うけど、よろしくな、みんな!」
「え……ええええええええええええええーーーーーーーー!??!?」
ブルマ以外の者たちも、このヤムチャの爆弾発言には驚いていた。
「ヤ、ヤムチャさん…結婚していただか?全然知らなかっただ…。悟空さは知ってたか?」
「あー、オラもついこの前知ったんだ」
「と、父さん…!あの人が地球に来ていることは聞いてましたが、ヤムチャさんの奥さんになっていたなんて聞いてませんよ…」
「わりいわりい、言わねえ方が驚くかなって…。でも、それって悟飯がそんな気にするようなことか?」
「あ、いや…そういうわけじゃないんですけど…」
どことなく顔が赤くなっている悟飯と、それを冷ややかな目で見つめるビーデル。
「悟飯くん、年上が好みなのねえ…」
「いや、ほんとにそういうあれじゃ……ねえ、ビーデルさん!違いますよ!?」
すぐにそれを誤解だ誤解だと言う悟飯だが、ビーデルはそっぽを向いてしまった。
そんなビーデルと悟飯を見て、なかなか絵になるカップルだな…とヤムチャは思う。

263:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:15 qm/c.RRk
【132話】
「恋愛というやつか…分からない」
ピッコロは一人そう呟くが、誰も聞いていない。
「ヤ、ヤムチャさん!どうして結婚していたことを教えてくれなかったんですか!子供がそれだけ大きいってことは…オレの子供より前ですよね…?」
クリリンがあたふたしながらヤムチャに質問する。
「いやー、はは…。そろそろ話してもいいかな。実はさ…これはもう何年も前の話になるんだけど…――」
ヤムチャはそこで、初めて仲間たちにマーリンとのことを説明した。
マーリンがサイヤ人に恨みを持っていて、地球にいると言われていたスーパーサイヤ人を倒しにここへやってきたということ。
そして、元はといえば勘違いから始まったヤムチャとの戦い、そしてヤムチャとの修行の日々。
大激戦とも言える、ベジータ、悟空との戦い…その結果と、その後地球を去ったという話。
最後に、ヤムチャが約2週間ほど前に、ドラゴンボールを使って地球へ呼び寄せたということを話す。
大雑把に説明したため、説明自体は5分ほどの軽いもので終わったが、関わった人物以外は全く知らなかった裏のストーリーを知り、一同は信じられない表情を浮かべ、唖然としている。
「ヤムチャ…やーっぱりアンタ、その子とあの時点で“出来てた”んじゃない!!!!!この変態!ロリコン!!」
ブルマは大の大人だというのに、ヤムチャの悪口をバンバンと言う。
ロリコンという単語の意味は分からなかったが、それを気分悪そうに聞くマーリン。
力もなさそうなこの女が何故あんなに威張っていて、そして何故誰もあの女に言い返さないのか不思議でしょうがなかった。
「お…おいおい、何を言ってるんだブルマ。先に気持ちが俺よりベジータに傾き始めたのはお前の方だろ?気付かないと思ってたのかよ…。だから俺はカプセルコーポから荒野に移って一人修行を始めたっていうのに…とんだご都合主義だな…。そして、俺はロリコンじゃないっ!」
ヤムチャはすかさず反論する。
ロリコンじゃないというところを若干強調して。

264:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:21 qm/c.RRk
【133話】
「そうですよー、ブルマさん。せっかくヤムチャさんに奥さんと子供が出来たって言うのに、その言い方は…」
「なによなによ!私が悪いって言うの!?大体クリリン…アンタもアンタよ!それになんなのよ、その髪型は!」
「えええ?そこでオレにきますか?しかも…髪型は関係ないじゃないですか…これ結構イケてると思ってるんですけど…」
クリリンが仲裁に入るが、ブルマのとばっちりを受けて落ち込んでしまった。
ヤムチャとブルマの間に嫌な空気が立ち込める。
睨み合う二人だが、周りの者は、やれやれまた始まったよ…と言わんばかりの呆れ顔だった。
「大根だかラジコンだかしらねえけど、人が集まらねえ内にとっとと受付しちまおうぜ。そのために早くきたんだしよー」
悟空が受付をするために並んでいる人だかりの最後尾に立ちながら、こちらに向かって言葉を投げかける。
「フン…。大体ヤムチャやアンタが出たって孫くんやベジータに勝てるわけないんだからね!」
ブルマは毒づくが、ヤムチャは全く気にも留めずに言い返す。
「確かにそうかもなあ。でも、出場しなければいつまでたっても勝てる可能性はゼロだ。けど、出場すれば…勝てる可能性は、少しはある…だろ?それが例え万一の可能性にしても、な。違うか?ブルマ」
ヤムチャがそういうと、ブルマは悔しそうに黙り込んでしまう。
「ふふ…大人になったな、ヤムチャ」
マーリンがその隣で声をかける。
「あ、ああ。……って、お、お前がそれを言うか!?」
そのヤムチャの突っ込みで、マーリンとヤムチャは大笑いをする。
ブルマはその様子を複雑な表情で見つめていた。
「もう、勝手にすればいいじゃなーい!精々恥じかかな………あれ?トランクスは?」

265:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:23 qm/c.RRk
【134話】
一方、ここは会場の裏…いわば普段は誰もいない場所だ。
こちらでも小さな小競り合いが起きていた。
「…で、何?いきなりこんなトコに呼び出してさ」
「なんでもねーよ。ただ、オマエに一つ、いい事を教えてやろうと思ってさ」
黒髪の少年と薄い紫の髪の少年が対峙していた。
どうやら薄い紫の髪の少年が黒髪の少年を呼び出したようだ。
黒髪の少年の方が少し上背があるように見える。
薄い紫の髪の少年は続けた。
「オマエのママ、オレのパパに喧嘩売ってるのか知らないけど、ああいうのマジでやめたほうがいいぜ?殺されるから」
「…お母さんが?っていうか、キミのパパ…お父さんって誰だよ」
「鈍感だなあ。ベジータって呼ばれていた人に決まってんじゃん」
「…ベジ…?ああ、あの変わった髪型の人か…」
「…!あ、あれはなあ…生まれつきあーいう髪型なんだよ!」
「ふうん…で、何が言いたいの?」
黒髪の少年はだるそうに受け答えする。
「いやだからさ…」
その淡々とした態度に半ば諦め気味の薄い紫の髪の少年は、ため息をついて続ける。
「…はー、もういいや!おい、オマエ名前なんていうんだ?俺はトランクスだ」
薄い紫の髪をした少年、トランクスが言う。
「さっきお父さんが言っただろ?…シルフ。宇宙最強のお母さんがつけてくれた名前だ」
黒髪の少年、シルフは目を輝かせながら誇らしく自分の名前をトランクスに告げる。
どうやらこの小競り合い(?)は、マーリンのベジータへの接し方が酷かったため、トランクスがシルフを経由してマーリンに警告をしていたようだ。
「宇宙最強?オマエのママが…?…おいおい、とんだ勘違いだぞ、それ」
「な…なんだと!」
今まで冷静だったシルフの態度が変わり、気迫のこもった声を上げる。

266:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:31 qm/c.RRk
【135話】
トランクスは一瞬びっくりしたが、すぐに話を続けた。
「オマエがどこの星からきたか知らないけどさ、地球にはまず悟飯さんがいるし、悟空さんもいる。そしてパパやピッコロさん…それに俺や、悟飯さんの弟の悟天っていうのも居るんだけど、そいつも普通の人間よりカナリ強いんだぜ?」
「…へー、ズラズラ名前あげられてもよく分からないけど、ゴクウっていう人はお母さんが前に倒したって言ってたよ」
「…え?マジで?」
トランクスの頬を一筋の汗が伝った。
超3化した悟空の強さは父、ベジータを遥かに凌ぐことは知っているし、その悟空をあのどこにでもいそうな女性が倒せただなんて信じられなかった。
それはつまり、マーリンはベジータ以上に強いということを意味する。
「へへ。ほんとだよ?」
だが、このシルフという少年の言葉も嘘だとは思えないし、トランクスの頭が混乱してきた。
「そんな馬鹿な…。お、おい、それっていつごろの話だ?最近?」
トランクスがうろたえながらシルフに尋ねる。
するとシルフは少し考えこみながら答えた。
「んー、ぼくが生まれる前だから、けっこー前だね。この星で言うと10年ぐらい前かな、多分」
それを聞くと、トランクスはホッとため息をつき、汗を拭った。
「なんだよ、そんな前の話か。そんなこといったら、クリリンさんの奥さんだってお父さんたちより強かった時期もあったし、全然参考にならないな」
「確かに前の話だけど、今もお母さんやお父さんが一番強いよ!すごい修行してたし!」
「お父さん…?ヤムチャさんのこと、か…まあ、何言っても無駄そうだしそう思っておけばいいじゃん。じゃ、俺も受付してくるから。またな」
トランクスはそう言いながらシルフに背を向ける。
「…すぐに分かるさ」
シルフはボソッとつぶやく。
当然トランクスにもそれは聞こえていたが、聞こえていない振りをして小走りで去っていった
「ちぇ…なんだよ、あの自信。ヤムチャさんやあの女の人がパパや悟空さんより強いわけないじゃん…。気もてんで大したことないし…」
トランクスはそう小声でつぶやきながら、受付場へと向かうのであった。

267:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:40 qm/c.RRk

【136話】
そして、戦士たち全員が受付を済ませ、予選のトーナメント表が貼り出された。
今回の予選は前回のような“パンチ測定式”ではなく、“組み手式”での予選だ。
理由はいたってシンプルで、前大会のような得体の知れない連中にパンチ測定器を壊されてしまっては、予選に時間がかかりすぎてしまうからである。
つまり、言ってしまえばベジータのせいだ。
人ごみの中、そのトーナメント表を眺めるヤムチャたち。
今大会はAからHまでの8ブロックで予選トーナメントを開き、各ブロックで最後まで勝ち残った者が本戦トーナメントへ進める。
当然ながら、一般人なんて目もくれない悟空たちだが、身内と予選の段階であたってるのではないかとヒヤヒヤしながらそのトーナメント表を見つめていた。
「悟空やベジータと当たってませんように……!」
クリリンが祈るように声を漏らしながら総勢128名の名前の中から自分の名前を探す。
その隣でヤムチャもドキドキしながら自らの名前を探していた。
「…んー…なかなか見つか…ら…あ、いた!76番だ。Eブロックだな!」
ヤムチャが自分の名前を見つけ、子供のように大きい声をあげる。」
そして、すぐさま同ブロックに身内がいるかどうかだけ確認する。
「む…当たっちまったか」
どうやら2戦目で今必死に名前を探しているクリリンとあたるようだ。
昔なら手ごわいと思った相手だったが、不思議とヤムチャに恐怖心はなかった。
「わたしは122番だ。予選でわたしとヤムチャは当たらないようだな」
マーリンが髪の毛をかきあげながらヤムチャに言った。
しかし、ヤムチャがマーリンのブロック…Hブロックを見てみると、そこには恐るべき名前があった…。
「115番…じゅ……18号!?マーリン、お前18号と決勝で当たるぞ!」
「………あの…すまない、誰?」
マーリンが人差し指で頭をかきながらボケると、ヤムチャは思わずその場でずっこけた。

268:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:42 qm/c.RRk
【137話】
「喫茶店で話したじゃねーか!ほら、俺がお前と初めて会った時に修行していたのは、18号とかを倒すためだったって」
「そんなこと言われても…わたしは顔や声もイメージできなかったし…その場で名前を全部覚えるというのは難しい…」
ヤムチャは仕方なさそうにふう、とため息をつくと、再び説明を始める。
「…18号はドクターゲロが作った人造人間で、だいぶ昔だけど、超サイヤ人になって悟空と互角以上の強さだったベジータが敵わなかったぐらいの相手だ。そして今はクリリンの奥さんでもある」
ヤムチャが指を立てながら説明すると、マーリンはふむふむと頷いた。
「なるほど…つまり、あの時点で戦闘力約500万だったソンゴクウより、遥かに強い人物…という認識でいいのだな?」
そう言ってマーリンは指の骨をバキバキと鳴らし、激しい戦闘を待望してなのか、口元が緩む。
「ああ、そうだな。“あの時点”の悟空よりは、ね…」
見慣れているヤムチャでさえそんなマーリンが怖く感じるぐらいで、思わず苦笑いをしながら答える。
さすがにマーリンはサイヤ人の血を引いているだけのことはあるなと感じざるを得ないヤムチャであった。
「で、そのジュウハチゴウは今どこにいる?」
顔と名前が一致しないので分かるはずがないのだが、マーリンはキョロキョロと辺り見渡す。
「んーと…あ、あそこだ」
ヤムチャは20メートルほど先で、一人人ごみから外れ壁に寄りかかっている、如何にも冷徹そうな目をした一人の女性を指差す。
「あいつ、か。不思議だな…何も力を感じない」
「そりゃそうだ、あいつは人造人間だから俺たちの言う“気”はないんだ。でも、エネルギー波とかは撃てるみたいだけどな…俺も詳しいことは良く分からん」
「気を持たないだと…?どういうことだ、それは生物学的におかしいのではないか?」
「だから、俺に言われてもわかんねえよ。あいつを作ったヤツは殺されちゃったし、今となっては謎のままだ」
マーリンは再び18号を凝視する。
誰に対しても冷たそうなその青い瞳は、どことなく自分と似ている感じがした。

269:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:46 qm/c.RRk
>>255-257さん
励ましの書き込み、ありがとうございます。
時間があればもっとペースを上げられるのですが…なかなか難しいところでして…。

それでは、おやすみなさい。

270:Classical名無しさん
09/01/29 19:49 PCJdX7B.
ペースは遅くても良いから最後まで書き上げてください
好きな作品は結末まで読みたいので
ぜひお願いします

271:Classical名無しさん
09/02/01 14:31 EEJQtV8A
ヤムチャwwww

272:Classical名無しさん
09/02/03 02:41 7oeHVI86
おおぉ遂に武道会にまできましたね!1ヶ月くらい前から
読みすすめてたから感慨無量だw最後まで応援しています!
お仕事頑張ってね!


それにしてもヤムチャがヤムチャらしくていいねえ。

273:Classical名無しさん
09/02/05 16:55 0MMhCp/2
クロフネ

274:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/06 01:33 cWK007Rg
【138話】
そこへ、漫画のようにどたばたと足音を立てながらヤムチャのそばへクリリンがが駆け寄ってきた。
おそらく自分の名前を見つけたのだろう。
「ヤムチャさん!俺とヤムチャさん予選で当たっちゃうみたいですよ…最悪ですよねー、本戦前に身内と当たるのって…」
どこか面白おかしそうにヤムチャに話しかけるクリリンに対し、ヤムチャも笑い返す。
「ははは、そうみたいだな…。まあ仕方ないだろ、こればかりは」
「ですよね…ったく、チャオズとか居れば超能力でなんとかなったかもしれないのに…」
ヤムチャと共に苦笑いをするクリリン。
ふと、マーリンからの視線に気付き、会釈をしながらクリリンは続ける。
「あ、マーリンさん、でしたっけ?初めまして、俺はクリリンって言います」
「…クリリン、か。覚えておこう。ヤムチャがいつも世話になっている」
そう言うマーリンに対し、クリリンはそんなことないとでも言わんばかりに顔の前で手を横に振る。
「いやー、それにしても、ヤムチャさんはこんなカワイイ子を放っておいて、この数年間何してたんですかねえ。もっと早くドラゴンボールで呼び寄せてあげればよかったのに」
何を想像しているのか分からないが、クリリンはやらしい目付きでヤムチャを見る。
お前と違ってひたすら修行してたっつーの、とヤムチャは心の中で幸せボケしてるクリリンに向かって突っ込みを入れておいた。
その時、何者かがいきなりクリリンの耳を掴むと、グイグイと引っ張っていく。
クリリンの耳を無造作に引っ張れる人物といったら一人しか居ない…先ほどまで壁に寄りかかってた女性、18号だった。
「てててててっ!!な、なんだよ~、18号!」
「いつまでも油売ってんじゃないよ、クリリンのくせに」
マーリンは初めてこの女性の声を聞いた。
地球にずっといるヤムチャでさえ久しぶりに聞いた気がする。
「何の用だよ、18号」
「勘違いするな。別にお前に用なんてない」
「じゃあなんで…ってててて…!」
そのまま18号は表情を変えずに無言でクリリンの耳を引っ張っていき、見えないところへと消えていった。

275:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/06 01:39 cWK007Rg
【139話】
マーリンは18号の行動に不思議そうに見入っていた。
「…オホン、よく聞けよマーリン。あれはな、“ツンデレ”と呼ばれるものだ」
すかさずヤムチャの余計な解説が入る。
「ツンデレ……?聞いたことがない」
「そりゃ、最近出来た言葉だからな。ちなみにマーリン、お前もツンデレっぽいところあるぜ。いや、むしろツンツンデレツンかな?」
ヤムチャは笑いを堪えながらマーリンに言う。
バカにされているような気がして、なんとなくヤムチャが腹立たしいマーリン。
「訳の分からんことを…そういうヤムチャは、よく分からないがロリコンというやつではないのか?」
ヤムチャは今日二度目のずっこけを見せた。
マーリンはそんなヤムチャが面白くて、つい笑ってしまう。
そして、これからはヤムチャと何かあるたびロリコンと言ってやろうと密かに決心していた。
自分ではそんなつもりないヤムチャであったが、確かにマーリンとはかなり年齢差がある。
いや、実際はそんなことはなく、マーリンの方が年上なのだが…。
実年齢だけ言ってしまえば、ヤムチャは42歳、マーリンは約48歳。
つまり、マーリンの方がヤムチャより年上なのだが、彼女は若い頃、星と星を行き来している間に長期的なコールドスリープ…いわゆる“冬眠”状態が頻繁にあったため、身体的な年齢はヤムチャよりずっと若く、26歳前後の年齢だということになるのだ。
ヤムチャも40歳を過ぎたとはいえ、見た目的には20代半ばから30代前半にも見えるぐらいの若さなので、そういった意味では外見的に中々釣り合っているカップルではあると言っていいだろう。
もちろん、ヤムチャにとっては肌が弛んでる40過ぎたオバサンよりは、ピチピチの若いお姉さんの方が嬉しいわけで、マーリンの冬眠状態が長かったのが好都合だったのは言うまでもない。

276:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/06 01:42 cWK007Rg
【140話】
(見た目はあれだけど、実際はマーリンの方が年上なんだぞ…気にするな気にするな!俺は断じてロリコンじゃない…!それにマーリンは初めて会った時みたいにもう見た目も別に幼くないし、
…いや、俺は何を言っているんだ?そしたら当時はロリコンだったって認めることになっちまうじゃないか!ええい、実際はあいつの方が年上だから、見た目とかは関係なくて……って、
あー!もう訳が分からなくなってきた!!)
ヤムチャは心の中で必死に自分に言い訳をしながら、支離滅裂な自分の考えに収拾がつかなくなってきた。
目の前でいきなり唸りだしたヤムチャをマーリンは不気味そうに見つめる。
その冷ややかな視線に気付き、ヤムチャは我に返った。
「……あ、あのさマーリン!実はな、お前用の胴着を用意してあるんだ」
ヤムチャは場の空気を変えるために咄嗟に話題を変える。
「何…?いつの間に…わたしが地球にきてから、ずっと一緒にいたのに…」
ヤムチャの言葉により、マーリンの目の色が変わった。
「お前が寝てる間に、何度か街の服屋にいって新調してもらったんだ。もちろん、デザインは全て俺が考えたものだけどな。ほら、このカプセルの中に入ってる」
そう言ってヤムチャはマーリンにカプセルを放り投げる。
それをパシっと素早くキャッチするマーリン。
「もうあけて見てもいい…?」
マーリンは早く中の服を見たいようで、うずうずしながらヤムチャに問いかける。
「待った待った。どうせ今カプセルをあけてもここじゃ着替えられないし、女用の控え室であけることだな」
ヤムチャはそう言って女性の控え室がある方向を指差す。
するとマーリンは不服そうな顔をしながら言った。
「女用ということはヤムチャとは別の場所なのか?面倒だな、同じ場所でいい」
「バ、バカか!俺以外にもたくさん男がいるんだぜ?そいつらに着替えてるところを見られることになるぞ」
「別にわた―」
「俺がイヤだっつーの!お前の裸が他のやつらに見られるってのは!」
ヤムチャは顔を赤くして断固拒否した。
むすっとしたマーリンだったが、仕方なさそうに女性用の控え室に向かう。
「ったく、あいつはもうちょっと恥ずかしがるべきだろ…」
ヤムチャは胸を撫で下ろし、ぶつぶつと呟きながら反対側の男性用控え室の方へと向かっていった。

277:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/06 01:47 cWK007Rg
【141話】
ヤムチャが控え室に入る頃には、既に選手の大半がそこに集まっていた。
あらかじめ胴着や戦闘服でここへやってきた悟空たちはいなかったが、大体80人ぐらいの選手が着替えたり準備運動したりして、予選に備えていた。
「さて、この胴着を着るのも久々だな…」
そう言ってヤムチャは自分が用意してきた着替えをカプセルから取り出す。
その胴着は、いつものように橙色の【亀】という文字が刺繍されている胴着でなかった。
その代わりに、腹部辺りに、大きくはっきりと【樂】の文字が刺繍されていた。
胴着の上は緑色、下は橙色、そして、同じ橙色のスカーフのようなものと、青いリストバンドに白い帯。
そう、これは悟空と武天老子に弟子入りする前までヤムチャが着ていた胴着である。
ヤムチャはパッパとそれに着替え、ギュッと帯を締めると、その胴着を着た自分の姿を鏡で確認した。
「うんうん、なかなかイケてるじゃないか」
一人で納得すると、ヤムチャは先ほどの会場に戻る。
そろそろ自分の試合が始まる時間だ。
参加者が多いだけに、午後からの本戦に間に合わせるため、トーナメント表を貼り出した10分後には試合をするとの事。
ヤムチャが予選会場に戻った頃には、既に戦いを始めているブロックもあるようで、激しい戦闘の音や掛け声が聞こえた。
『Eブロックのヤムチャ選手!そろそろ試合が始まります、おりましたら舞台へお上がりください』
ヤムチャの耳にアナウンサーの声が入る。
辺りを見渡してみるが、マーリンの姿は見当たらない。
おそらくまだ着替えているのだろう。
「まあいいや…マーリンが来る前に終わらせちまうかな…っと!」
ヤムチャはグッと足に力をこめ、軽く跳躍すると、クルクルと体を回転させながら舞台へ着地する。


278:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/06 01:49 cWK007Rg
【142話】
「オォーー!」
「なんかスゲーぞ、あいつ!」
「頑張ってー!マムチャ選手ー!」
ヤムチャのパフォーマンスを見て、周りの選手や観客から歓声があがる。
「おとうさーーーーん!頑張ってーー!」
シルフも舞台のすぐ近くでヤムチャを応援していた。
「今のはファンサービスだ。あと、俺の名前はヤムチャね…。マムチャって誰だよ…」
果たしてヤムチャにファンがいるのかどうか疑問だが、そんなおちゃらけてるヤムチャの前に、対戦相手が現れた。
ヤムチャより、一回りも二回りも体が大きく、全身白い衣装に覆われている…ように見える。
が…衣装に見えたそれは衣装ではなかった。
「ヤムチャ…前に聞いたことがあると思ったら、お前だったか。また俺と戦う羽目になっちまうなんて、運のない野郎だぜ」
「………へ?」
「どうやって甚振ってほしい?腕の骨を折って欲しいか?それとも足の骨か?殺さなければ勝ちらしいからな」
「……えっと、ところでお前怪我してないか?全身包帯巻いちゃって…」
「…これは俺の正装だ。まさかお前と対戦する機会がまたこうやって訪れるとは思っても見なかったぜ。それにしても久しぶりだな」
大男はいかにも自信ありげに仁王立ちしている。
どうやら、ヤムチャと以前戦ったことがあるらしい。
だが、ヤムチャのほうは覚えていないようで、ポカーンとしていた。
「あ…ああ。久しぶり……なんだよな…?お、お前は………えーと……あれだ、あの…なんだっけ………ゾンビ男…いや、違うな…ゾンビマン!キャプテン・ゾンビ!!」
ヤムチャは名前を思い出せなくて、この場で適当に命名した。
「デタラメ言ってんじゃねえ!ミイラくんだっ!」
…センスのかけらもねえな、とヤムチャは思う。
ヤムチャの命名を見る限り、人のことを言えないのはもちろんのことだが…。

279:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/06 01:51 cWK007Rg
【143話】
「お前…俺に負けたの覚えてないのか?占いババ様のところで戦ったじゃねーか」
「占いババ…?あ…、あー、いたいた。確かそんなのいた」
ヤムチャはようやく思い出したのか、手をポンと叩く。
「…まあいい…。すぐに黙ることになるからな」
「ほう、お前がくたばるからか?」
ヤムチャがミイラくんを挑発すると、今まで薄ら笑いをしていたミイラくんの表情が曇る。
「俺を怒らせてそんなに痛い目にあいてえか?」
「どうでもいいけど、ゴチャゴチャ言ってないで、試合でお前さんの実力を示せよ。それともお前は口喧嘩の試合でもしにきたのか?」
「…っ」
ミイラくんは歯を食いしばりながら拳を強く握っていた。
ヤムチャは相手をなめきっているのか、無防備に棒立ちしている。
『それでは、ヤムチャ選手、ゾンビ男選手!試合を始めてください!』
会場にアナウンスが響く。
その瞬間、ミイラくんは猛烈な勢いでヤムチャに突進していった。
「俺は…ゾンビ男じゃねえっ!ミイラくんだっ!!」
体重300キロ近くあろうかという巨体が、一歩進むたびにドスンドスンとどでかい足音をたて、その大きな拳がヤムチャの顔面に迫る。
このままでは間違いなくヤムチャの顔面にその拳が直撃し、顔は文字通りぺちゃんこになるだろう…もし、ヤムチャが普通の人間ならば。
だが…ヤムチャは笑っていた。

ドスンッッ!!

物凄い衝撃音が聞こえ、会場の者は思わず目をそむける。


280:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/06 01:52 cWK007Rg
【144話】
そして、数秒後に恐る恐る舞台上に目を向けると、そこにあった光景は…まるっきり想像と逆のものであった。
ヒットするかに思われたミイラくんの拳は空を切っており、逆にヤムチャの拳がミイラくんの腹部に深くめり込んでいた。
「あげ…はが……っ…!!?」
ミイラくんは声にならない声をあげて悶絶し、そのまま白目をむいてしまう。
「…大丈夫か?一応、おもいっきり手加減しておいたんだが…どうやらそれでも効きすぎちまったみたいだな」
ヤムチャはそう言いながら、ミイラくんの腹部からゆっくりと拳を離す。
「審判、どうなんだ」
ヤムチャは気絶しているミイラくんの体を支えながら審判に言った。
「あ……失礼致しました!息はあるようですので…ヤ、ヤムチャ選手の勝利ィィ!!」
観客や選手から歓声が上がる。
ヤムチャはその歓声にこたえるかのように、わずかに手を上げると舞台から降りていった。
「まあ、勝って当たり前なんだけどね…」
自嘲気味にそう呟くが、どうやらこの歓声にはまんざらでもなさそうだ。
「ヤムチャ」
後ろから自分を呼ぶ声が聞こえる。
ヤムチャが振り向くと、そこにはさきほど渡した胴着に着替えたマーリンの姿があった。
腹部には【樂】の文字が印字されている、ヤムチャとほとんど同じデザインだ。
違う点といえば、ヤムチャの胴着より露出度が高いところぐらいだろう。
「体ばかりでかくて、まるで大したことない相手だったな…。生意気な口を叩くからそこそこ腕が立つと思ったのだが」
マーリンは担架で運ばれてるミイラくんを見ながらため息をつく。
「ま…普通の地球人はこんなもんさ。で、マーリン…俺があげた胴着はどうよ?」
「ふふ…サイズもぴったりだし、このデザインも気に入っている。ありがとう…ヤムチャ」
マーリンは目線を少し逸らしながら、恥ずかしそうにヤムチャに礼を言った。
「はは、そいつはよかった!深夜お前が寝てる間にこっそりスリーサイズ測っておいて正解だったな…」
「何か、言った?」
「あ、いや、なんでもない…です」
ヤムチャは誤魔化すように自分のリストバンドを直すフリをしていた。
マーリンは機嫌がいいのか、ふうん、と大して気にも留めず他の舞台上の地球人が行っている試合を見つめている。

281:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/06 02:04 cWK007Rg
>>270さん
いつも応援ありがとうございます。
かなり描写を細かく書いているので、300話以上になりそうな感じですが…最後まで頑張ろうと思います

>>272さん
天下一武道会に来るまでに、かなりの話数になってしまいました…申し訳ない。
これから、ヤムチャやマーリン以外の人もバンバン登場するようになります。
仕事も頑張ります…適度に。
ヤムチャがヤムチャらしいと言っていただけて光栄です!
私のストーリーの中のヤムチャは、実は怠けていたわけじゃなくて、
セル戦から魔人ブウ戦の間まで、ずっと修行に励んでいた…という設定にしています。
なので、原作のヤムチャよりちょっと真面目で強めなイメージかもしれません。
というか、私はヤムチャを活躍させたいので、勝手にちょっと強めにさせていただきます(笑)

ところで、いつだか言っていた戦闘力表が完成しました。
が、どこにアップすればいいのか迷い中。
画像アップできる環境があればいいのですがね…。
どこかいい所ありますか?

282:Classical名無しさん
09/02/06 02:49 aZYSAK7g
連貼りお疲れ様です。時間があるときじっくり読ませていただきます。

URLリンク(www.age2.tv)
ここの1M二次元ローダーとかどうでしょうか?
結構長生きで7ヶ月ぐらい保持されます


283:Classical名無しさん
09/02/07 22:43 EwZfv87M
乙です。クリリン戦期待してます。

284: ◆Nt3ni7QiNw
09/02/09 12:42 Cy99rhsU
テスト

285: ◆Nt3ni7QiNw
09/02/09 12:47 Cy99rhsU
第九話「役立たずのヤムチャ達648人+(320人)」

「いいかげんしろ孫悟空。どこまで行く気だ」
町から遠く離れたところで戦うとして飛んでいる悟空達に年寄りの人造人間が言う。
「ここがいい。この場所にしろきさまらには選ぶ権利などないのだぞ」
俺達に選ぶ権利がないだと?人は誰でも平等だろーがとヤムチャ達は思った。
だが声出したら殺されそうなので黙っておくことにした。
スタタッ、Z戦士達と人造人間が地面につく。
(ちい・・・高原ではあるがまわりは岩山に囲まれている・・・
いざという時は岩にかくれて闘うという計算か・・・こいつに考えてやがめる・・・)
ピッコロが周りの状況を見て冷静に思った。
(周りに人々はいない。なんだあいつらけっこういい奴らじゃん)
ヤムチャ達はおもっいきり勘違いしていた。
次話「とびあがる天津飯!セリフがあまりないヤムチャ達648人+(320人)」に続く

286: ◆Nt3ni7QiNw
09/02/09 12:48 Cy99rhsU
第十話「とびあがる天津飯!セリフがあまりないヤムチャ達648人+(320人)」
「さあ、闘う前に教えろ・・・なぜオラたちのことを知ってるんだ・・・」
悟空がいう。だが天津飯は悟空がただ飛んできただけなのに
息をきらしていることに疑問を思った。頭に育毛剤をすりこみながら。
年寄りの人造人間が話した。悟空の事をずっと偵察していたこと、ピッコロやベジータとの
闘いま時も偵察していたということ、
悟空がレッドリボン軍を滅ぼしてからずっと研究をしていたということを。
それって、プライバシーの侵害じゃ・・・ヤムチャ達は思った。
そして年寄りの姿の人造人間は20号、太った人造人間は19号らしいということが分かった。
人造人間達はナメック星での闘いはスパイしてなかったらしい。
それを聞いて悟空はおめえらの負けだといって
ニヤリと笑い超サイヤ人に変身した。
「なるほど・・・たしかにかなりのパワーアップを果たしたようだな」
20号が言う。しかし人造人間達は悟空を余裕で倒せると言った。
「あ そう。じゃあ、さっそくその強さを見せてもらおうかな。そりゃっ!」
悟空が19号という人造人間に飛びかかった。
「うわっ!育毛剤が目に!」
ちなみに育毛剤が目が入った天津飯はあまりの痛さに飛びあがった。
次話「どうした孫悟空 ついでにヤムチャもどうした648人+(320人)」に続く

287:Classical名無しさん
09/02/09 20:31 DKjI19Ls
ヤムチャ1000人も再開してる。乙です7

288:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/10 01:50 6T/uSG6w
【145話】
「お父さん、あんな大きいやつを軽々気絶させちゃうなんて…やっぱり凄いや!」
シルフがヤムチャの足元にしがみつきながら言った。
「はは…ありゃ見かけ倒しだからな。シルフでも勝てるぞ、タブン…」
「え、ほんとに?」
「ああ、おそらくな。いいか、ああいうデカイのってのは大体大振りで攻撃を仕掛けてくるんだ。だから基本的にはカウンターを返すイメージで―」
ヤムチャがシルフに熱弁している間に、マーリンは静かに屈伸運動などの柔軟体操をしていた。
『Hブロック122番、マーリン選手、予選第一試合がまもなく始まります。おりましたら舞台の方までお上がりください。繰り返します―』
アナウンスが入ると、マーリンはヤムチャに背中を向けた。
「いよいよわたしの番か。瞬きする間もなく終わらせてやろう…」
マーリンはそう言って、いつもとは違う戦闘体勢の厳しい顔付きになる。
そのただならぬ表情が目に入り、思わずヤムチャがシルフへの熱弁を中断した。
「お、おいおい…思いっきり手加減しろよ?死んじまうからな…」
「分かっている」
心配するヤムチャだったが、マーリンもそれぐらいのことは心得ていた。
どうやって相手を倒そうか考えながら、マーリンは舞台への階段を上っていく。
舞台に上がってからも、マーリンは顎に手を当てながら、考え込んでいた。
対戦相手は既に目の前にいるが、それには目もくれていない。
『それでは、マーリン選手、イズール選手!試合を始めてください!』
「へっ、初戦の相手は女かよ!けっけっけ、しかもびびって戦おうとすらしてねえ。調子狂っちまうな」
見るからに脇役っぽい男が品のない声をあげると、ようやく対戦相手…イズールがマーリンの視界に入る。
そして、無言でイズールを睨み始める。
「イズーーールーー!手加減してやれよーー!」
「イズールの奴、美味しい相手もっていきやがって…羨ましいぜ」
「なあ、この試合お前はどうなると思う?」
「何いってんだ、言うまでもねえだろ。20秒…いや、10秒でイズールがあの女をノックアウトしちまうさ」
Hブロックの周りには他のブロックより人だかりが出来ていた。
このイズールというのは、どうやら一般人の間ではちょっとした有名人らしい。

289:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/10 01:52 6T/uSG6w
【146話】
その観客の声に応えるかのように、得意げにステップを踏みながらパンチの素振りを繰り出すイズール。
「ああ?何黙ってんだよ?…しらねーなら教えてやろうか?俺はこの若さで獅子牙流空手25段、次世代の格闘王と言われているイズールってもんだ。今日はミスターサタンを倒して文字通り世代交代してやろうかってところで…」
自慢げに話すイズールだったが、マーリンは全く話を聞いておらず、黙ってスッと人差し指をイズールに向ける。
「お、なんだ?俺に指なんて指しやがって…やっと戦う気になったか?っつーかお前結構イイ女じゃねえか…へへ、この際わざと負けてやるから試合のあと会場の裏でイッパツ―」
「不快だ、冗談は顔だけにしろ」

ッベチンッッッ!

弾けるような音が聞こえたと思うと、その瞬間突風が吹き、イズールが後方20メートルほど吹っ飛び、場外に落ちた。
前歯は2本とも折れていて、既に意識はない。
会場は何が起こったかわからず、静まり返る。
『な、なんと…本大会優勝候補と言われたイズール選手…ですが、勝手に後ろに吹っ飛び、場外に落ちたため、この試合はマーリン選手の勝利となります…』
「何が起こったんだ…まさかあの女が…?」
「いや、そんなはずはねえ!あの女は一歩も動いてないぞ!」
一時静まり返っていた会場だったが、暫くするとざわつき始め、やがてイズールの登場時以上に騒がしくなる。
「手加減しろって言ったのに…。まあ、死んでないみたいだしいいか…」
人ごみから少し離れたところで、ヤムチャがぼそりと呟いた。
「お父さん、今何が起こったの?全然分からなかった」
シルフが興味深そうにヤムチャにたずねる。
「…今のはな、デコピンだ」
「デコピン…あの、指でやるやつ?」
シルフは指でデコピンのモーションをしながらヤムチャに再度確認する。
「ああ、まさにそれ」
「でも、お母さん相手に触れたようにはみえなかったけど…」
「そりゃ当然触れてないんだから、見えるわけがない」
そのヤムチャの言葉で、シルフの頭に“?”マークが浮かぶ。

290:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/10 01:53 6T/uSG6w
【147話】
相手に触れず、デコピンをするという意味がイマイチ掴めなかった。
「うーーん…」
「シルフ、一ついいことを教えてやる。空気だって歴とした物質なんだぞ。当然、触れることも出来る」
頭を悩ませているシルフに、ヤムチャはヒントを出す。
「空気…物質……あ、わかった!高速でデコピンをすることによって、空気を前に飛ばして相手にぶつけたんだ!」
「その通り。いわゆる、軽い衝撃波みたいなもんだな」
そう言って、ヤムチャは誰かが飲んでポイ捨てしてあった空き缶を見つけると、十数メートル離れた所からマーリンと同じようにデコピンでパンパンとそれを打ち抜いて見せた。
「ま、こんな技もあるってわけ」
シルフは感動的な目でその様子に見入っていた。
「全く…あと何回あんなようなのと戦えばいいんだ……」
マーリンが不満を漏らしながらヤムチャとシルフのほうに歩み寄ってきた。
「あと3回勝てば予選通過だ。まあ、お前んとこは18号以外問題ないだろうな…」
ヤムチャがトーナメント表を見ながら答える。
「ヤムチャは、ジュウハチゴウと戦ったことはあるのか?」
先ほどからやたらと18号を恐れるヤムチャに、マーリンは疑問を問いかけた。
「いんや。ただ、18号より弱い20号とは戦ったこと…っていうか、殺されかけたことはある。あれはマジで危なかったな…」
「……。どんな風に…?」
「手で胸を貫かれた。心臓を貫通していたから、本当に死ぬかと思ったぜ」
「……」
「まあ、これは俺が油断してたっていうのもあるけど、あの時の俺じゃ20号とガチで戦っても勝てなかったろうな、絶対…。ピッコロも油断して殺されかけたって聞いたし」
マーリンは黙ってヤムチャの話を聞いていた。
「で、その20号をあっさりとやっつけちまったのが、20号が作り上げた自分より強力な人造人間…17号、18号なんだ」
「ということは…生みの親を…殺したのか」
マーリンは震えるような声で言う。
怒りなのか、悲しみなのか、はたまた別の感情なのか、その表情からは読み取れなかった。

291:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/10 01:56 6T/uSG6w
【148話】
「いや、それはちょっと違うな。あいつらは元々人間ベースの人造人間だから、普通に地球人として家庭はあったはず。
それを、20号、つまりドクターゲロに奪われて、本人の意思と関係なく改造されたから、人造人間化しても20号を恨んでいたんだと思う」
ヤムチャは詳しい話を知っているわけではなかったが、自分なりの推測でマーリンに人造人間たちの成り行きを説明する。
「人造人間は冷徹な殺人鬼だとヤムチャから聞いていたのだが、どうやらワケありのようだ…な」
マーリンは意外そうな顔を浮かべながら答えた。
「ああ…。……で、話を戻すけどさ!」
同情するかのように、顔を曇らせているマーリンを見て、ヤムチャは気を遣うように明るく話を戻す。
「さっきも言ったが、18号ってのは超化したベジータがスタミナ切れでコテンパンにやられたってぐらいだ。前に戦った悟空の倍…以上…強いと思っていい」
人造人間は気を持たないため、戦闘力のように数値化するのは難しい話だが、超化した昔のベジータの戦闘力を仮に900万以上だとすると、それより僅かに上…おおよそ1000万以上はあると言っていいだろう。
時代が時代なら、全宇宙最強を名乗ってもいいレベルの強さだ。
「まあ、大丈夫だとは思うけどな…。一応、注意しとけ」
それに対し、マーリンは小さく頷くだけだった。
会場は予選だというのに、既にお祭り騒ぎのように盛り上がっていた。
中でも、各ブロックに一人、あるいは数人いる鬼のように強い謎の戦士たちの試合の行方に観客や選手は注目を集めている。
もちろん、悟空たちのことだ。
『それでは、Eブロック2回戦を始めたいと思います!ヤムチャ選手、クリリン選手!おりましたら舞台にお上がりください!』
Eブロック審判からアナウンスがコールされた。
ヤムチャの目付きが少しきついものになる。
「クリリン…さっきの地球人だな」
「ああ…俺にとっては最初の壁みたいなもんだな、この試合は」
そう言いながら、ヤムチャは今まで一度もしなかった本格的な準備運動をこなし始める。

292:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/10 01:59 6T/uSG6w
【149話】
「じゃ…行ってくる」
ヤムチャはマーリンとシルフに背を向けて、舞台の方へと歩いていった。
「お父さん…頑張って!」
シルフは親指を立ててヤムチャに声援を送る。
ヤムチャはチラッと振り返ると、シルフに親指を立て返した。
既に相手のクリリンは舞台の上に立っている。
ヤムチャはその姿を確認すると、一度の跳躍で15メートルほど先の舞台の上へと飛び乗った。
「待たせたか?クリリン」
「いえ、俺も今上がったばっかりですから」
クリリンはいつものように明るい表情だったが、戦いを前に緊張しているのか、目付きだけは笑っていなかった。
『予選の2回戦ながら、これは良い試合が見られそうです!両者ともに、初戦の相手を圧倒的な強さで捻じ伏せた者同士の対決です!おそらく、Eブロック一の好カードでしょう!』
アナウンサーの声にも力が入っていた。
その説明を聞いてか、野次馬たちが続々とEブロックの舞台に近づいてきた。
「お、クリリンとヤムチャか。楽しみな試合だ」
いつの間にか、マーリンの隣に悟空がいた。
「…クリリン…と言ったか、あの背が低い男」
マーリンは悟空に話しかけているのか、独り言なのかどうかわからないような言い方で言った。
「…ああ、オラの親友だ。結構つえーぞ、あいつは。前まではヤムチャよりクリリンの方が強かったけど、ヤムチャは腕を上げたみたいだし、いい勝負かもな、この試合」
その悟空の予想を聞いて、マーリンは思わず表情がにやける。
「いい勝負かも…?ふふ…まあ見ていろ、ソンゴクウ。すぐに分かる」
そのマーリンの自信ありげな言葉を聞き、疑いとも期待とも取れない微妙な表情を浮かべながら悟空は舞台上の二人の姿に注目した。
『えー、調べたところによりますと、お二人とも過去に天下一武道会出場経験者のようです!そして驚くことに、両者とも武術の神様と言われたあの武天老師のお弟子さんだそうです!
これは白熱したバトルが予想できます!』
アナウンサーの解説が入ると、一段と場が騒がしくなる。
武天老師と言えば、格闘家を名乗る者で知らない者はいないと言われるほどの達人だ。
その達人の弟子同士が、予選の段階で戦うことになるなんて、その場に居るものとしては見ないわけには行かないというのが素直な心境だろう。

293:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/10 02:00 6T/uSG6w
【150話】
だが、そんなザワメキなど、耳に入っていないかのようにヤムチャとクリリンは集中していた。
「お前と本気で戦ったことって、何気に一度もないんだよな、クリリン」
ヤムチャが手首と足首をグリグリと回しながらクリリンに話しかける。
「そうですね。同門生なのにまともに戦うのが初めてなんて、なんか変な感じがしますよ」
クリリンも柔軟体操をしながらヤムチャに言った。
しばらくの沈黙が二人に流れる。
言葉こそないが、二人は目で会話するかのように、見詰め合う…というよりは、睨みあっていた。
「……最初から、飛ばしてくるつもりだよな?」
ヤムチャがニヤリと笑いながら言う。
「…そのつもりですよ、ヤムチャさん」
クリリンもニヤリと笑いながら答える。
それは、決していつものヘラヘラした笑いではなかった。
二人ともサッと構えを取る。
『それではァ!!ヤムチャ選手!クリリン選手!試合を始めてくださいッッ!―』
アナウンサーが全てを言い終わる頃には、既にクリリンの姿は肉眼では見えない速度で動いていた。
「っつああああッッ!!」
と、ヤムチャの右斜め後ろにパッとクリリンの姿が現れる。
蹴りのモーションに入っていて、腹部に強烈な蹴りを叩き込もうとしていた。
振り向いて肉眼で確認してからガードしていては、ほとんど間に合わない速さだ。
だが、ヤムチャは完全にそのクリリンの気を読んでいた。
「甘いッ!」
クリリンの蹴りのリーチが最大になる前に、ヤムチャはその蹴りを振り向かずして右手で受け止めた。
こんな簡単に受け止められるのが予想外だったのか、クリリンの顔に焦りの色が浮かぶ。
ヤムチャは蹴りを受け止めた際に、一瞬…ほんのコンマ数秒クリリンの体が硬直した所で胸ぐらをがっしりと掴んだ。
そして、その体を力任せに場外に向かってぶん投げる。

294:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/10 02:03 6T/uSG6w
【151話】
時速数百キロで宙に放り出されたクリリンの体が、室内会場の壁にぶち当たりそうになった…が、直前で武空術で留まりなんとかその場をしのぐ。
それを見てヤムチャはチッと舌打ちをした。
だが、クリリンはそれでも怯まずそのまま武空術を使い、高速でヤムチャに向かって頭から突進していく。
「っと!危ない!」
口ではこう言ったものの、ヤムチャは危なげなくそれをかわす。
そして、クリリンは再び舞台に着地すると、腰にぐっと力を込め、そのバネを利用してヤムチャに向かって突っ込み、無数のパンチを繰り出した。
ヤムチャはそれを数発受け止めると、隙が出来たところでクリリンの顔面にジャブ気味の素早いパンチをシュっと2発打ち込み、クリリンは顔を押さえながら後方に数歩後退する。
「どうした、クリリン。まだ俺は一発もダメージを受けてないぞ」
「…く、…くそッ!くらえっ…はっ!」
ヤムチャの挑発にクリリンはその場でエネルギー弾を打つ。
「いまさらこんなものが通用するかっ!」
ヤムチャはそう言うと、クリリンのエネルギー波をグローブでボールをキャッチするかのように手の平で包み込むと、それを思い切り握りつぶし、エネルギー弾はパンと音をたてて弾けた。
「な…なんだってえ!」
エネルギー弾を無効化されたことに、思わずたまげるクリリン。
ブランクがあるとはいえ、ヤムチャ相手にここまで自分の力が通用しないなんて、予想だにしていなかった。
少なくとも、昔はヤムチャより絶対に強かったのだ。
クリリンにだってプライドはある、この試合は同門生として、地球人としてヤムチャには負けられない。
「…まだまだァ!」

ドガガガガガ………ガギッ!!!ガガッ!

クリリンは諦めずにヤムチャに猛攻を叩き込むが、ヤムチャの体をその拳でとらえることはできないでいた。
上下左右、あらゆる方向から攻め込んでいて、決して単調な攻めではない。
だが…ここ最近ひたすらマーリンと組み手をしていたヤムチャにとって、クリリンの動きなどまるでスローモーションを見せられているかのように遅く感じていたのだ。

295:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/10 02:05 6T/uSG6w
【152話】
どんなに変則的な攻めでも、動きが遅ければ、単純にそれを避けるのはなんら難しいことではない。
もはや、クリリンが何をしても通用しないレベルにまでヤムチャは達していた。
「はいッッ!」
ひたすら攻撃を繰り出すクリリンだが、逆にヤムチャのストレートを頬にもろに食らってしまい、再び後方にぶっ飛ばされてしまう。

ズザザザザザァァァ……

体が地面に擦れながら、クリリンの体はギリギリ場外に落ちないところくらいまで慣性で移動した。
その摩擦で、【亀】の文字が刺繍されている胴着が数箇所破れ、穴があく。
「はぁ…はぁ…」
クリリンは息を切らしながらヤムチャを睨みつける。
ヤムチャも試合開始から相も変わらず、同じく真剣な目つきでクリリンを睨む。
「悔しいけど…勝てない…!このままじゃヤムチャさんに負けちまう…。こうなったら…………」
クリリンはヤムチャに聞こえないように、ブツブツと自分に何かを言い聞かせながらゆっくりと起き上がった。
「ん…なんだ…?何かする気だな、あいつ」
ヤムチャはただならぬクリリンの様子に、体全身に気を込めて警戒心を強めた。
「ヤムチャさん…悪いけど、この試合…最後には俺が勝たせてもらいますよ!」
クリリンは不敵にも、ヤムチャに向かって勝利宣言をかます。
「…何かしてくるんだろ?こいよ、クリリン」
ヤムチャは構えを取りながらクリリンを誘導する。
クリリンはゆっくりと歩きながら、ヤムチャに近づいていく。
そんなクリリンをじっと見ながら、ヤムチャはなおも警戒を緩めない。

ゴゴゴ…

強い気のせいで、空間が歪み地面がわずかに揺れる。
次の瞬間、クリリンがニヤっと笑ったと思うと、クリリンの気が今までで最大の大きさに膨れ上がった!
次の攻防で勝負をかける気だ。
そして、クリリンはバッと両手の手の平を広げ、自分の額にかざす。

296:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/10 02:10 6T/uSG6w
【153話】
「…太陽拳っ!」

カッッ!

クリリンがそう叫ぶと、辺りは一面白銀の世界に包まれる。
この状況では、ヤムチャにクリリンの姿は全くと言っていいほど見えない。
クリリンはまさに、この瞬間のために気を全開まで上げたのだ。
「もらったァッッッ!!!」
クリリンの強烈な蹴りが、目を瞑っているヤムチャの顔面を目掛けて放たれる。
一撃KOとはいかないだろうけれど、完全に不意をついたので、ヒットすればヤムチャといえ場外まで吹っ飛ぶはずだ。
クリリンは勝利を確信していた。
が…勝利を確信していたのは、クリリンだけではなかった。
クリリンの視界に、目を瞑りながら口元が緩んでいるヤムチャの顔が映る。

ブンッッッ!!

蹴りは、むなしく空を切った。
「…そう、お前には太陽拳しかないはずだ。あの状況ではな…」
「な……にぃ…っ!?」
クリリンが渾身の力で放った蹴りを、ヤムチャは立ったままその場でブリッジをするかのように、体を反り返らせて華麗に避けてみせたのだ。
ブリッジをした状態のヤムチャに、その真上に浮かんだ状態にあるクリリン。
そして、空中に残されたクリリンを、そのままサッカーのオーバーヘッドを決めるかのような体勢で、ヤムチャが蹴りをクリリンの背中に叩き込む。
「げぶ…し……ッ!」
無防備だったクリリンの体は、それこそサッカーボールのように無抵抗にぶっ飛び、場外の壁を貫通して、その外で更に50メートルほど進んだ辺りでようやく止まった。
失神しているのか、それ以降ぴくりともクリリンの体は動かなかった。
気を探ると、とくに死に掛けているような弱弱しい状態でもなかったため、命に別状はないだろう。
「肉弾戦でもダメ、気功波の類も効かないとあっちゃ、お前は太陽拳に頼るしかないよな…。全部読めていた」
ヤムチャの声はクリリンに聞こえていないが、なおもヤムチャは続ける。

297:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/10 02:15 6T/uSG6w
【154話】
「太陽拳は目くらまし…つまり、相手が目を開けていないと通用しない。だったら、最初から目を瞑ってしまえばいい。そうすれば、目がくらんでパニックになることもないからな。
太陽拳を回避したあと、落ち着いて気を探れば、ただの無防備に飛び上がっているお前の姿が俺にはくっきりと見えていたったわけさ。心の目で、な」
そう言うと、ヤムチャは舞台からゆっくりコツコツと降りていった。
「もっとも……あの蹴りが俺にヒットしたとして、それで俺を倒せたとは思えないが…」
ヤムチャは舞台の階段をちょうど降り終わるぐらいに、付け足すようにそう呟く。
「おい」
審判とすれ違い際にヤムチャは声を掛ける。
「あ…は、は、はい…!」
びびりながらヤムチャの声に審判、兼ねアナウンサーが反応する。
余りにも凄すぎる戦いに、場内は既に静まり返っていた。
アナウンサーも、実況なんて当然できたものではない。
「結果」
ヤムチャはそれだけ言うと、マーリンたちの方へ小さくガッツポーズをしながら歩み寄っていった。
「ヤ………………ヤムチャ選手の、勝利ィィィ!!!」
そのアナウンサーの声を合図に、ドッと歓声があがった。
「とりあえず、一安心といったところなのかな?ヤムチャ」
マーリンがそんなヤムチャを、軽いハイタッチで迎え入れる。
「ああ。どうにか、勝てたみたいだ」
ヤムチャが勝利をかみ締めるかのように答える。
どうやら結構嬉しいらしい。
「…あのクリリンという者も、地球人にしてはかなりの達人なのだな…見た目以上に機敏な動きだった。まあ、ヤムチャが相手では仕方ないだろう」
「お父さんかっこいい!もう最高!」
シルフは父の戦いっぷりを見て、興奮気味に叫ぶ。
悟空はというと、マーリンの隣で半ば唖然としながら突っ立っていた。
その様子にマーリンが気づく。
「ソンゴクウ。何か、言うことはないのか?」
「…へへ……さすがに、オラもちょっと言葉に詰まっちまったな…」
以前なら、少なくともクリリンとヤムチャはあそこまで差はなかったはずだ。
だが、今日見た光景は悟空の予想を遥かに超えた次元だった。
自分より強いか弱いかではなく、悟空は前と比べて格段にレベルアップしていたヤムチャの強さに驚いていた。

298:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/10 02:22 6T/uSG6w
【155話】
驚いている悟空に、マーリンは追い討ちを掛ける。
「言ったはずだ。わたし“たち”は、ソンゴクウ…お前を倒す、とな…この意味が分かるか?」
そのマーリンの言葉は、はったりや強がりではなく、確かな自信とそれを裏付けるだけの実力があるからこそ言えるものだった。
それに勘付いているのか、はたまたまだ余裕だと思っているのか、悟空はそれ以上何も言わずにただ少し笑うと、ヤムチャの前を通り、自分のブロックの舞台の方へと戻っていく。
ヤムチャと悟空は言葉を交わさないまま、すれ違うように通り過ぎた。
「…さてと、あと予選の見ものはお前と18号の対決ぐらいか。他のはどうでもいいや…どうせ悟空やベジータたちが進んでくるだろうし」
ヤムチャはそう言って、近くにあった椅子に腰をかけた。
「地球の大会なのに、勝ち残ってくるのがほとんど異星人とは皮肉なものだな…」
「はは…それを言うなよ。でも確かに俺ぐらいか、予選を勝ち残れそうな地球人って」
ヤムチャの目に遠くで自分が吹っ飛ばしたクリリンが、担架で運ばれているのが目に入る。
悪い気はしながらも、ヤムチャはクリリンのプライドを考え、敢えて謝ろうという気はなかった。
倒された相手に謝られるというのは、ヤムチャの中ではトップ3に入るぐらいの屈辱だったからだ。
「そういえば…俺対クリリン、お前対18号……これって夫婦対決じゃん!マーリン、お前気付いてた?」
「いや…」
ヤムチャは今更そんなどうでもいいことに気付いて、何故か嬉しそうにする。
「で、何度も言うけど、18号からは気を読み取れない。つまり、肉眼で追ったり、空気の流れを感じ取ったりして動きを読まなきゃいけないわけ。そこが勝負のポイントになるだろうな」
「気を捉えることができないというのは、確かに厄介だな…」
マーリンはその場で少し不安そうな表情を見せながら、考え込む。
「ポイントは3つ。周りの空気の変化を感じ取ること…これは今言ったな。相手の動きをなるべく止めること…相手に自由に動かれると、試合が長引いて不利だ。
最後に、油断しないこと…見た目はか弱い女だが、パワーはフリーザ以上だからな。強敵だと思って挑め!このくらいか…」
ヤムチャは自分なりに18号対策を練り、マーリンにアドバイスを与えた。

299:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/10 02:24 6T/uSG6w
【156話】
マーリンは目を瞑り、相槌を打ちながらそれを聞き、頭の中でイメージを浮かべる。
「ヤムチャが対戦したら、3つめのポイントである“油断”をして負けそうだな…ふふ」
「……ほっとけ!」
ヤムチャは以前、自分が最後に出場した天下一武道会で、試合の詰めで油断して神様に敗れたのを思い出した。
「俺だってなあ…あの時、繰気弾がヒットした後になあ…追い討ちをかけていればなあ……勝てたんだぞ!」
「…一体、なんの話をしているんだ…?」
…虚しい無言の間が二人の時間を奪う。
それから、第二試合、準決勝、決勝へと試合は進んでいった。
当然ながら、大きな波乱もなく、ヤムチャとマーリンは順調に決勝まで勝ち進んでいく。
『…場外…ッ!ヤムチャ選手、Eブロック優勝です!』
一般人ではさすがに相手にならないのか、ヤムチャはクリリン戦以外は問題なく勝ち、本戦への切符を手にした。
当たり前と言えば当たり前なのだが、とりあえず無事予選を通ったことに胸を撫で下ろすヤムチャ。
「さて…そろそろマーリンの決勝だな」
ヤムチャはHブロックの舞台上に目をやると、既に18号とマーリンは舞台の上に上がっていた。
「…」
「…」
両者とも口を開かず、腕を組みながら睨みあっている。
「うほ、女同士の決勝だってよ!どうなってんだあのブロックは」
「お前どっちがいい?あの濃い金髪の女と、白に近い金髪の女」
「俺はどっちかっていうと左のねーちゃんがいいな!」
「そうか?変わった胴着着ているプラチナブロンドの方が美人じゃね?気は強そうだけど」
「胸は胴着着ている女の方がデカイから俺はあっちだな」
「優勝候補のイズールは勝手に転落して負けちまったし…どうなってるんだ!?」
明らかに不純な目付きで舞台の周りには男たちが集まっていた。
言うまでもなく、マーリンと18号はそんなものは目にも耳にも入っていない。
(この女…一体なんなんだ。データにはないが、以前孫悟空に勝ったというだけのことはあって、動きを見る限り普通じゃなかった…油断できないね)
(もっとも注意すべき点は、気を感じ取れないこと…ヤムチャに言われたことだけ注意すれば大丈夫のはずだ)
お互いに警戒し、何かを探り合っているかのように目と目を合わせるマーリンと18号。

300:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/10 02:26 6T/uSG6w
【157話】
『本大会、予選の決勝まで残った女性選手はこの二人のみとなります!それでは、決勝戦!!18号選手、マーリン選手!試合を始めてくださいっ!』
アナウンスがコールされる。
「…いくよ」
18号はそう言って構えを取ると、マーリンも無言で構える。
構えはゆっくりだったが、攻めは突然だった。
「そーらッ!」
18号が掛け声と同時に、猛スピードでマーリンの胸部に右手で殴りかかる。
それをマーリンは5メートルほど大きく跳躍して避けると、18号はすぐさま上方にいるマーリンに向かって連続で無数のエネルギー波を放った。
マーリンがその無数のエネルギー波を、超高速移動でわずかに体を30センチから1メートルほどだけ動かし無駄なくかわすと、18号の放ったエネルギー波は室内闘技場の天井を貫通し、建物がその衝撃で揺れる。
マーリンはすぐさま下を見るが、既に18号の姿はそこにはない。
ヤムチャに言われたとおり、冷静に自分の周りの空気に神経を張り巡らせる。
と、自分の左方の空気がほんの僅かに乱れていたのを感じた。
「そこだッ!!」
武空術で宙に浮いたまま、自分の左側…何もない空間にマーリンがパンチを放つと、ドスッと鈍い音をたてながら、何もない空間に攻撃を仕掛けようとしていた18号の姿が現れた。
「…………ッ!」
18号は攻撃を出しかけていたため、半ばカウンターのような形になったマーリンのパンチがもろに腹部にヒットし、苦痛で表情が歪んだ。
破れかぶれに18号はマーリンにハイキックを繰り出すが、いとも簡単にマーリンに受け止められてしまう。
すぐに次の攻撃を繰り出そうとする18号だったが、それが…この試合の全てだった。
マーリンは一度受け止めた18号の足を、がっちりと強く掴んで離さない。
「…これでもう、身動きは取れない」
「…!な、なんだって!」
マーリンは冷たく小声で囁くと、足を押さえつけた状態で、再び18号の腹部目掛けて拳を下ろした。

ドス…!ゴッ…バキッッ!ドスッ!

「ぐっ……か…はッ……」
身動きが取れない18号はその拳をくらうしか術はなく、マーリンは何度も執拗に18号の体を殴打する。

301:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/10 02:29 6T/uSG6w
【158話】
必死に暴れて足をマーリンの手から外そうとするが、パワーはマーリンの方が遥かに上のため、どうやっても外れなかった。
胸部、背部、腹部、顔面、人造人間とは言え、ベースは人間なので18号に徐々にダメージが蓄積していく。
体力が減らないとは言え、痛みの感覚はあるのだろう、時折胃液を吐きながら苦しそうに18号は遠ざかっていきそうな意識を保とうとしていた。
やがて18号の動きが鈍くなってきたところで、ようやくマーリンは18号の足を離し、更にフラフラの18号に躊躇なく狼牙風風拳のラッシュをかける。
一度崩れた体勢を立て直すのは難しい。

ズガガガガガガッガガッ!

18号は防御する術もなく、空中でサンドバッグのようにマーリンに打ちのめされた。
もうほとんど18号が動けなくなったのを確認すると、マーリンは狼牙風風拳をやめ、高速で18号の後ろに回りこみ、背後から首に手刀を一撃くらわせると、18号の意識は完全に途切れてしまう。
意識がくなったことで武空術が解け、重力で落下しそうになる18号の服をマーリンは片手で掴むと、そのままゆっくりと地面に降りていった。
そして、丁寧に18号を床に寝かせると、黙っている審判に目で訴える。
『……し、失礼しました。18号選手…戦闘不能!マーリン選手の勝利となります……!』
今度ばかりは、観客や選手から歓声は起こらなかった。
余りにも凄すぎる戦闘と、マーリンの冷徹非情な戦いっぷりにに、黙って息を呑むしかなかったのだ。
第一、速過ぎて何が起こっているかよく分からないというのが一般人の本音だろう。
表情を変えずに、無言のまま舞台の階段から降りるマーリン。
その周りには、目には見えないが触れることを許さないような近寄りがたいオーラが出ていた。

302:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/10 02:32 6T/uSG6w
【159話】
「……マーリン」
ヤムチャはマーリンの肩を掴むと、何も言わずに目で語りかける。
「やっぱり…やりすぎたか?」
「普通の人間なら、ありゃ死んでるぞ…」
ヤムチャは大きくため息をつきながら言った。
「お前の仲間は、全員普通の人間ではない」
「いや……まあ、そう言われたら否定はできねーけどさ」
「それに…これはヤムチャから言われた3つのポイントとやらを、全て忠実に守った結果だぞ?」
「俺が言ったポイント…?俺なんて言ったっけ?」
ヤムチャは首を傾げる。
今度は逆にマーリンがはぁ、とため息をついた。
「空気の変化を感じ取れ、相手の動きを止めろ、油断せずにボコボコにぶちのめせ…そうだろう?」
言われてみれば、マーリンの動作は全てヤムチャの言葉に忠実に従ったものであった。
姿を捉えられなくなったら、空気の変化を感じ取って動きを見切り、高速で動かれると厄介なため足を掴んで動きを止め、女だからと言って最後まで油断せずに攻撃をし続けた。
「…まあ、そうかな……うん」
「で、わたしのとった行動は、問題あったの?ないの?」
「……ないです」
「ふふ。分かればいいのだよ、ヤムチャ」
勝ち誇ったかのようにマーリンはかわいく笑う。
先ほどまで非情に徹し、無表情で相手を甚振り続けたのが嘘のような笑顔だ。
だが、ヤムチャはどこか腑に落ちない様子だった。
「っていうかさ…。…ボコボコにぶちのめせ、なんて言ったっけ、俺…」
それは、言ってなかった。
「にしても、余計なアドバイスだったな…全然余裕じゃないか。案外18号も大したことないのか…?」
針小棒大にアドバイスをしたつもりではないし、少なくとも一昔前、悟空たちより強かったのは事実だ。
しかし、先ほどの戦いを見る限り、今のヤムチャには18号が前ほど大した相手ではないように思えてきた。

303:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/10 02:50 6T/uSG6w
>>282さん
ありがとうございます、これを借りてやってみます!

>>283さん
クリリン戦はもうちょっと描写を増やしたかったのですが、
今のヤムチャとクリリンではかなり差があるため一方的になってしまいました。

304:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/10 02:58 6T/uSG6w
・SaiyanKiller2の戦闘力一覧表
URLリンク(age2.tv)

問題点が…
画質を上げるためにビットマップで保存したら容量オーバーになったためJPGに…。
そして、URLをクリックしただけでは縮小されていて見れないです。
カーソルを画像に合わせると、右下に拡大アイコンが出ますのでそれを押して頂ければご覧頂けます。

異論がある方もいるかもしれませんが、私はこの設定でストーリーを書いていくつもりです。
ちなみに、作品が進むことによって戦闘力が上昇(あるいは下降)したりするかもしれないので
まあ、参考程度にでも見ていただければ…m(_ _)m

305:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/10 03:00 6T/uSG6w
1000人のヤムチャたちに期待しつつも、体力の限界なのでお布団入ってきます。

おやすみなさい!

306:Classical名無しさん
09/02/10 03:18 QDUCXbis
怒涛の更新だー。乙です
戦闘力表の ヤムチャの戦闘力=アクセスカウンターというネタが面白いw

307:Classical名無しさん
09/02/12 03:29 ciIhpI7w
ヤムチャと言えば本戦の一回戦で予想外の強さのキャラと戦う宿命だから
一回戦の対戦相手が楽しみだ

308:Classical名無しさん
09/02/14 23:43 7S2KR/nA
携帯から戦闘力表はみれますか?

309:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/15 00:24 Akahxuyc
>>306さん
ありがとうございます。
たまヤムのサイトのアクセス数が、ただいまのヤムチャの戦闘力となっているのを見て以来、
ずっとこのネタを何らかの形で使いたくてしかたありませんでした(笑)

>>307さん
分かっていますね!

>>308さん
今言われてみてテストしましたが、画像は表示できます。
機種によっては見れないかもしれませんが…。
でも、表示できたとしても、文字が小さすぎて読めないかも…。

さて…明日もお仕事ですが、今からまったりと書いていきますね。

310:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/15 00:26 Akahxuyc
トーナメント表も作って、アップしようかな。

311:Classical名無しさん
09/02/15 00:41 7ca.uprE
文字が小さくてわかりませんでした。

312:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/15 01:00 Akahxuyc
>>311さん
ですよね、申し訳ないです…。
PCで閲覧する方のことしか考慮できていませんでした…。

313:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/15 01:14 Akahxuyc
【160話】
「ひゃー…あいつほんとにつええな。見てる限りだと、あれでもてんで本気なんて出しちゃいなそうだし…」
マーリンと18号の戦いを遠くで見ていた悟空が感心したように言った。
「何を言っている、カカロット。あれは相手が弱すぎるだけだ」
ベジータはその発言が気に食わなかったかのように、悟空に反論する。
「そんなことねーよ、ベジータ。18号だって一時期オラたちより強かったじゃねぇか」
「そんな何年も昔のことはどうでもいい。どちらにしろ、あの女を倒すのはお前じゃない。この俺だ」
ベジータは己のプライドの高さのせいか、マーリンを倒すことにかなり固執していた。
1年前…界王神界で魔人ブウと戦っているのさなか、ようやく悟空を越えられないことは認めたベジータだったが、そのプライドの高さは変わっていなかった。
いくらマーリンと戦った当時、ベジータがスーパーサイヤ人になれなかったとはいえ、それは相手も同じこと。
一度負けたとは言え、いつまでもあんな小娘になめられたままでは流石にたまったものではない。
いつの間にか、殺気染みた気を放っているベジータ。
初めて地球に来た時よりは、かなり性格が落ち着いてきたベジータだったが、カッとなると何をしでかすか分かったもんじゃない。
悟空はそんなベジータを宥めるように口を開く。
「まあまあ…ベジータ…熱くなるのはいいけど、勢い余って殺したりすんなよ?別に今はワリィ奴じゃねえんだしさ」
「……ふん、俺の知ったことか。なんせ、こっちは下らん予選会なんてやらされてイライラしているんだ」
それはただの八つ当たりじゃん…と、悟空はベジータに突っ込もうとしたが、これ以上機嫌が悪くなったら面倒なのでやめておいた。
こうして、全ての予選が終了し、本戦に進める8人が決定した。
それから10分後、クジによる抽選で決定された本戦のトーナメント表が大きく貼り出される。

第一試合 ヤムチャ VS 孫悟飯
第二試合 孫悟空 VS マジュニア
第三試合 ベジータ VS マーリン
第四試合 Mrサタン VS Mrブウ


「…何………………これ………?」
そう声を漏らしたのは、もちろん…ヤムチャだった。

314:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/15 01:24 Akahxuyc
第26回 天下一武道会 トーナメント表
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315:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/15 01:27 Akahxuyc
【161話】
永遠の一回戦ボーイの異名は伊達じゃない。
過去に3回出場した天下一武道会のトラウマが、少しずつヤムチャの頭に蘇る。
いつもそうだった。
この大会に出るたびに、当時の地球最強クラスの相手が常に初戦の相手となる。
そして、今大会…第26回天下一武道会もその歴史は繰り返された。
「やれやれ…初戦で全宇宙最強の男が相手とは俺もとことんついてないな。今回も一回戦負けか?」
言葉こそ自虐的なものだった……が、その顔は明らかに今までのヤムチャの顔ではなかった。
最強の男である悟飯が相手だというのに、何故かその表情は不安や絶望と取れるものではなく、むしろ自信があるように見える。
「ヤムチャ、気になったのだが…ソンゴクウの息子…ソンゴハンというのはそこまで強いのか?」
マーリンはずっと疑問に思っていたことを口に出す。
「ああ、強いな。はっきり言っちまうと、悟空以上だと思う」
「…なんだと?スーパーサイヤ人3であるソンゴクウを更に上回る戦闘力だというのか!?」
「んーとさ…戦闘力、って要するに気の大きさだよな?それなら、間違いなく悟空以上あると言えるな」
ヤムチャの話によれば、推定戦闘力1億5000万以上のスーパーサイヤ人3・ソンゴクウ……それより更に次元の高いところにその男…ソンゴハンは立っているという。
もはや、それがどの程度のレベルなのか、実際本気で悟空や悟飯が戦っているところを見たことがないマーリンにとっては、見当もつかなかった。
「しかし…どうやってソンゴハンはそこまで強大な戦闘力を手に入れた?ソンゴクウと同じように、スーパーサイヤ人3にでもなれるのだろうか…」
「いや、そうじゃない。あいつのスーパーサイヤ人は2までが限界だった」
「…?なのに、ソンゴクウ以上の強さ…?」
スーパーサイヤ人2と3では、まるで強さの次元が違うのは、2週間前の悟空の変身を見れば明らかだ。
普通に考えれば、変身が一段階多い悟空の方が、悟飯より強い、と考えるだろう。
だが、ヤムチャは孫悟飯の方が間違いなく強いと断言していた。
不思議そうな顔をしながら質問するマーリンに、ヤムチャが答える。
「確かに、悟飯はスーパーサイヤ人3にはなれない…。けど、あいつにはとっておきの変身がある」

316:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/15 01:33 Akahxuyc
【162話】
「とっておきの?……変身……サイヤ人……まさか…大猿か!?」
かつて幾多の戦場を駆け回っていたマーリンは、月が新円を描く時に限り、サイヤ人が巨大化した猿に変身するのを極稀に何度か目撃したことがある。
たまに見かけるといっても、既に民族としてのサイヤ人は滅びた後の話なので、その姿はほとんど単体だった。
大猿といえども、パワーや破壊力は物凄いが、群れ対群れで争う戦場においては単体だとそこまで脅威ではなかった。
が、もしあの大猿が何百何千の群れで蹂躙していたら…と思うと未だにぞっとする。
マーリン自身は幼い段階で尻尾を切ってしまい、それ以来生えてこなくなったので一度も変身したことはないが、大猿がどういうものかというイメージはしっかりと頭に入っていた。
「はは、バカ言え。大体あいつには尻尾がないだろ。ちなみに、悟飯がその変身を使っても、外見はほとんど変化がない」
結構まじめに考えたのに、ヤムチャはあっさりとそれを否定する。
外見はほとんど変化せずに、力はスーパーサイヤ人3以上…考えても答えが出ないマーリンに、苛立ちが募ってきた。
「…いったい、何だと言うのだ!もったいぶらずに早く教えろっ!」
「やれやれ…まだ分からないか?悟飯はな……俺たちと同じように、潜在能力を開放されているんだ。あの年寄りの方の界王神様によって」
「………!」
外見はほとんど変化がなく、スーパーサイヤ人3を超える変身…ようやく謎が解ける。
「なるほど…そういうこと…」
「そう。だから、あいつは途轍もなく強い」
ヤムチャは続ける。
「スーパーサイヤ人を“超化”と称するのなら…そうだな、この変身は仮に“究極化”とでも名付けておこうか」
ヤムチャが何故か得意げに、勝手に命名した。
「究極化…か。確かに悪くない響きだが…」
マーリンは難しそうな顔をして頷く。
「だろー!とすると…俺は、アルティメット地球人になるわけね…ハハハ…。ここの【樂】の字、【究】にした方がカッコよかったかな…?」
そんなくだらないことで半分真剣に悩んでそうなヤムチャに、マーリンは呆れたように首を振り、下を向いて右手で顔を覆うのであった。
「ヤムチャさん」
呼びかけと同時に、ヤムチャは後ろから不意に肩を叩かれる。
その振り向くと、ついさっきまで話題にしていた悟飯がいた。

317:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/15 01:35 Akahxuyc
【163話】
橙色の胴着を着ていて、首から下だけ見れば、悟空と見分けがつかないような体格をしている。
「お、悟飯か」
「初戦の相手、よろしくお願いします」
そう言って悟飯はヤムチャに握手を求めてきた。
ヤムチャも数秒だけ間を空けて、手を差し出す。
「…ああ、よろしく。あと悟飯、その髪型なかなかイカしてるぜ」
「え…?は、はい…どうも」
ヤムチャは何を思ってか悟飯に向かって軽くウインクすると、悟飯は引きつった作り笑顔を見せて、その場を後にした。
「…今のが、ソンゴハン?」
悟飯が去ってからしばらくすると、マーリンが小声でヤムチャに言った。
「うん。っていうか、お前、前に会ってるぞ」
「そう…なの?」
「悟空と戦う時に、緑色の肌で白いターバン着た奴と、ちっこい子供が遠くで見てたろ。そのちっこい子供が悟飯だ」
思い出すように上を向きながら、マーリンは悟空との戦いの記憶を遡る。
「うーむむ…あまり記憶にない。あの時、わたしはソンゴクウばかりに意識が偏っていたから…」
ふーん、と相槌を打つと、ヤムチャは結んでいた帯を一度ほどき、更に強く結びなおした。
そしてグルグルと肩を回したり、大きく深呼吸をしたりして、落ち着かない様子だ。
「ふふ…ヤムチャ、緊張しているのだな?」
「そりゃ、しない方がおかしいだろ。でもまあ…慣れたかな、どうせいつも初戦はこういう相手だからさ」
ヤムチャは愚痴をボヤくような言い回しでマーリンに言う。
「まあ…よいではないか。遅かれ早かれ、いずれは倒さなければいけない相手なのだし…」
「まあな…」
「それに…いつも修行で、お前の稽古相手を務めている者を、誰だと思っている?」
「………へ、よく言うぜ、こいつ」
ヤムチャはそれを聞いてニヤリと笑う。
マーリンもヤムチャに釣られて笑う。
「さ…そろそろ本戦が始まるぜ。外に出るぞ」
「うん、分かった!」
こうして二人は本会場である外の武舞台に向かって、そして、優勝に向かってゆっくりと歩きだした。

318:Classical名無しさん
09/02/15 01:35 AvrGKdIs
このトーナメント表見るとヤムチャよかサタンを応援したくなってしまった。
サタン!サタン!

319:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/15 01:50 Akahxuyc
【164話】
パンパン!…パン!

午後1時過ぎ、雲一つない青空に、3発の花火が上がった。
天下一武道会、本戦開始の合図だ。
『実にぃぃぃぃ…!!約、一年ぶりッ……!皆さま、長らくお待たせいたしました!
これより、世界最強を目指し、ここに終結した者たちの熱い…実に熱い戦い!第回26回、天下一武道会を開催いたしまーーーすッッ!!』
審判、兼ね実況、兼ね解説を全てこなす、黒いスーツにサングラスをしたお馴染のアナウンサーが開会の言葉を述べると、冒頭から会場に異常とも言えるほど大きな歓声が上がる。
世界で一番盛り上がる大会だけあって、観客席はギュウギュウ詰めで明らかに過密化していた。
リングは一昔前と比べるとだいぶ広くなっており、そう簡単に場外負けというのは起こらないだろう。
観客席は武舞台と同じ高さで、前よりかなり低くなっている。
これならエネルギー波などをまっすぐ放っても、高さ的に観客に当たることはない。
1年前、ベジータが観客を数百人殺すという事件が起こったせいで、観客席にも安全が配慮されたようだ。
その事件の記憶は、魔人ブウの記憶を地球人の頭から消す時に、同時に消しているが、“何者かによって観客を大量に殺された”という曖昧な記憶だけは残っていたようだ。
『午後1時を回りましたので、予定通り、早速第一回戦……始めたいと思います!!』
観客席からは先ほどより更に大きな歓声が上がり、アナウンサーの声すらかき消されそうになる。
『えー、…第一試合!!…“蘇る狼”…ヤムチャ選手ー!“戦う学生”…孫悟飯選手!!入場ですッ!』
ざわめきが収まらない中、ヤムチャと悟飯がゆっくり歩きながら武舞台の中央に向かう。
ちなみに、この“蘇る狼”や“戦う学生”というフレーズは、アナウンサーが勝手に定めたものではなく、予選を勝ち抜いた選手たちと直接話して個別に決めさせたものである。
『過去に3度も予選を勝ち抜き、本戦に出場したことがあるベテランヤムチャ選手!
対するは、天下一武道会で優勝したことがある、孫悟空さんの息子、孫悟飯さん!前大会はハプニングがあり、残念ながら試合を見ることはできませんでしたが…その実力は未知数です!!』
両者、開始位置につく。

320:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/15 01:52 Akahxuyc
【165話】
「ヤムチャさまーーーーーーーー!!!頑張ってくださーーーい!!」
「おとうさーーーん!頑張れーっっ!!!」
観客席から、一際目立つ、プーアルとシルフの大きな声援がヤムチャの耳に入る。
「はは…ありがとな…プーアル、シルフ…!」
ヤムチャはそう小さな声で呟くと、目の前にいる敵…悟飯の目を睨む。
「よう、悟飯。まともに戦うのは初めてだな」
ヤムチャは緊張をほぐすように、親しげに悟飯に話しかける。
「そうですね、ヤムチャさん…。かつてお父さんのライバルだったそうですから、油断はしませんよ!」
悟飯はそう言うと笑いながらヤムチャに向かって戦闘の構えをとった。
「ははは…過去形かよ、切ないぜ…。ところで、俺考えたんだけどさ、悟飯」
対するヤムチャはまだ構えずに、腰に手を当てながら悟飯に笑い返した。
「…?」
悟飯は神妙な顔つきになる。
ヤムチャは笑いながらも、どこか真剣に悟飯に語りかけた。
「俺とお前がセルや魔人ブウのような闘い…いわゆる、なんでもありの殺し合いをしたら、まず俺はお前に勝てないだろう。やらなくても分かる」
「な…何が言いたいんです?」
じれったく話すヤムチャに、温厚な悟飯の表情も曇ってきた。
「まあ聞けよ。かと言って、武道会のルールに則ってお前に“参った”なんて言わせるのはもっと無理だ。じゃあ10秒ダウンさせる…?そんなことはもっともっと無理だ。俺の攻撃だけでお前がダウンするはずもないだろうしな」
「……」
悟飯は困ったような顔をするが、さすがに少し苛立っているようで、わずかに気が膨らみ始めていた。

321:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/15 01:55 Akahxuyc
【166話】
武舞台の外側には、テントで日陰になっている場所があり、そこに出場する選手たちは溜まっていた。
マーリンは嫌がっていたのだが、ヤムチャにここにいるようきつく言われたので仕方なく悟空やベジータたちと一緒に並んで試合を見る羽目になった。
「ヤムチャのやつ…何を考えているんだ。ベラベラと喋りやがって」
悟空の隣で白いマントをたなびかせているピッコロが、武舞台を見ながら言う。
「くだらん。あの地球人と悟飯の試合なんて、やらなくても結果が分かりきっている」
ベジータが馬鹿にしたように言うと、壁に寄りかかっているマーリンが無言でベジータをキッと睨む。
「…なんだ、何か言いたそうだな」
「………」
マーリンはヤムチャに、絶対に喧嘩はするなとも言われていたので、ベジータのことがムカつきながらも無視をする。
「孫、どうした?さっきから黙りやがって」
ピッコロが先ほどから何も喋らない悟空に、不思議そうに問いかけた。
「…いや、なんでもねえんだけど…ヤムチャがちょっと、気になってな」
チラッと一瞬ピッコロの方を向く悟空だったが、再びその視線は武舞台に戻った。
「ヤムチャ?ああ、予選でクリリンに勝ったようだな。だが、実力が上がっていたとして…さすがに悟飯相手では次元が違いすぎる。あいつのパワーはお前以上だ」
ピッコロは切り捨てるように悟空に言った。
だが、悟空は相変わらず難しい顔をしている。
何故そこまで難しく考える必要があるのかとピッコロは悟空を納得しない表情で見ていたが、ピッコロのその心境を察するように悟空が答えた。
「いやさ、ピッコロ。オラも最初はそう思ってたんだ。けど…」
「けど…?」
「オラの勘が正しければ……―」
「なんだ…?なんだと言うんだ」
悟空はそのあとに何かを言い掛けたが、その後の言葉に確信が持てないのか、はっきりとは喋らず口篭らせている。
もしかしたら、言いかけたのではなく何か言ったのかもしれないが、歓声が騒々しくてピッコロに悟空の声は聞き取れない。

322:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/15 01:58 Akahxuyc
【167話】
『それではァァアァァ!!第一回戦……ヤムチャ選手対、孫悟飯選手!!!試合…開始ぃっ!!!!!!』
アナウンサーの試合開始の声と共に、お坊さんのような格好をした天下一武道会の役員が、大きな鉦を鳴らした。
舞台上の二人に緊張が走る。
だが、まだヤムチャと悟飯は動かない。
いや、あるいは警戒をして動けないのかもしれない。
普通に考えれば、悟飯が一発でもヤムチャに攻撃を与えれば、一撃KO…いや、下手したら死に至るぐらいのダメージは与えられるだろう。
だが、悟飯の中の野生の勘というか、戦いを続けてきた者の独特の直感というか、とりあえずこのヤムチャはいつものヤムチャとは明らかに違うということだけは頭で分かっていた。
それが、“何”を意味しているかまでは分かっていなかったが。
「…悟飯、戦いにおいて、一番怖いものってなんだ?」
ヤムチャは試合が始まっているというのに未だに悟飯に語りかける。
「……なんでしょうね。“怖いもの知らず”という状態が、戦いにおいて一番怖いとぼくは思います」
悟飯はここにきて初めて笑いながら、ヤムチャの問いに答える。
この状況を楽しんでいるのか、もしくはヤムチャを揶揄して笑ったのかは定かではない。
「へえ、なるほど。まさに今のお前ってわけか」
「…ぼくだって怖いものぐらいありますよ」
それを聞いて、ヤムチャもようやく笑う。
しかし、悟飯の笑いとは少し違うものだった。
まるで何か企んでいそうな…どこか不気味な笑みだ。

「…ヤムチャじゃねぇ」
そのヤムチャの笑みを見てやっと確信が持てたのか、悟空はそっと独り言を呟く。
その声にピッコロがすぐさま反応した。
「ヤムチャじゃない、だと?ヤムチャじゃないとしたらあれは誰なんだ」
「いや…ちげぇんだ、ピッコロ。あれはヤムチャだけど…ヤムチャじゃねぇ。オラには分かる…」

323:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/15 02:05 Akahxuyc
【168話】
ここで、ようやくヤムチャが構えを取る。
そして、若干早口になりながら続けた。
「悟飯…お前は確かに強い。気だけを比べたら、俺なんか比較にならないし、悟空以上のパワーをお前は持っている。だが……かと言って、お前は俺に絶対勝てると言えるか?」
その言葉を聞き、悟飯は数秒ポカンとしたような顔をしたが、やがてすぐに先ほどの表情が戻る。
「面白いことを言いますね。…ぼくが、ヤムチャさんに絶対勝てると言えるか、って?……」
悟飯はそう言ってジワジワと体の力を解放していく。
「…やっと、気を解放し始めたな」
かつて、少なくとも魔人ブウをも余裕で倒せるだけはあった、あの途轍もないパワーが悟飯の体にグングンと宿っていった。
魔人ブウを悟空が倒してから修行はしていない悟飯だったが、1年経った今でもそのパワーは未だに圧倒的だ。
「はぁぁぁ………」
悟飯の気はどんどん大きくなっていく。
気を溜め始めてから間もないとは言え、既に戦闘力に換算して、3000万以上のパワーが悟飯の体に溢れていた。
しかし、ヤムチャはこの瞬間…気を溜めるときに、体が無防備になるのを狙っていたのだ。
「…今だ!お前の力を見せてやれ、ヤムチャ!」
寄りかかっていた壁から離れ、拳を強く握りながらマーリンがそう叫ぶのとほぼ同時に、ヤムチャの口も動く。
「んじゃ、ボチボチこっちから仕掛けていくかなッ!」

ボフゥゥゥゥンンンンンッッッ!!!!!

ヤムチャがそう言って、一瞬だけ歯を食いしばると、ヤムチャの周囲50メートルほどの範囲に突風が吹く。
悟飯とは、比べ物にならない速度でヤムチャの気は一瞬にして膨れ上がる…!
「な……?!」
悟飯や悟空たちには今まで感じたことがないほど、爆発的なまでにヤムチャの気が上昇した。
少なくとも、このヤムチャの気は、まだ完全に気が入っていない悟飯を明らかに超えている。
そして、どことなく悟飯と似ている気だった。

324:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/15 02:09 Akahxuyc
【169話】
「ば…バカな……!!?」
ピッコロは信じられない光景を目の前にし、思わず声が裏返る。
ベジータもヤムチャの変化を感じてか、見向きもしなかった武舞台をやっと見始めた。
そして、これを既に予知していたのか、大して驚かなかった悟空だったが、その表情は強張り、冷や汗が垂れる。
「気ぃつけろ悟飯!!そいつはいつものヤムチャじゃねぇ!絶対油断すんなっ!!」
「え…!?あ、は、はい」
焦りながら受け答えする悟飯だったが、悟飯はそのヤムチャの変化に驚き、一時的に気を練るのをやめてしまっていた。
だが、そんな悟空の忠告は逆に裏目に出る。
悟空の声に一瞬でも気を取られてしまった悟飯を、ヤムチャの中の狼は見逃さなかった。

―ドンッッッ!

大きな打撃音の直後、悟飯の体が奇妙な体勢で数十センチ上に浮いたのが見えたコンマ数秒後に、赤いオーラを纏ったヤムチャの姿が悟飯の前に現れた。
その衝撃で、地面が揺れる。
「…気を溜めるときに体が隙だらけになるのは悪い癖だ、直したほうがいい」
「―あ…ぐ……いッッ…!!?」
悟飯は気を完全に込めていなかったのに加え、油断もしていたので意識が飛びそうになるぐらいの激痛が腹部に走った。
ヤムチャは一瞬で悟飯との距離を詰め、悟飯のみぞおちに強烈なアッパーパンチをお見舞いしていたのだ。
宇宙一の戦闘力を誇る悟飯とはいえ、完全に気を込めていない状態で今のヤムチャのパンチをみぞおちにくらったとあれば、さすがにノーダメージとはいかない。
「気のコントロールが遅いな、お前は。マックスパワーを溜めるのにどれだけ時間がかかるんだ?」
ヤムチャは厳しい目付きでそう言うと、腹部にめり込んだ拳を離し、今度は逆の拳で悟飯の顔面を強打を繰り出す。
悟飯はそれを咄嗟に見切って腕でガードし、直撃は免れるが、勢いを殺しきれなかったのか、グラグラと後ずさりをするような形になった。
ヤムチャの攻撃を防ぐために、受け止めた腕がズキズキと痛む。
ガードの上からでも、決して小さくはないダメージが悟飯の体に蓄積していた。
このままではまずい。
そう思って慌てて本気で気を高めようとする悟飯だったが、初っ端のみぞおちへのダメージが大きく、体に上手く力を入れられないでいた。

325:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/15 02:11 Akahxuyc
【170話】
悟飯は決して油断したつもりはなく、最低でもヤムチャに“負けは絶対にない”だけの気はあの時点で溜めてあったはず。
あれだけの気を溜めれば、ヤムチャを圧倒できる…どこかそんな先入観があった。
もちろん、つい最近までのヤムチャから現在を推測すれば、悟飯の読みは間違っていない。
むしろ、戦闘力3000万なら以前のヤムチャを葬り去るぐらいなんともないほどの気だ。
だが、そんな勝手な決め付けこそが、悟飯の油断そのものだった。
体勢が立て直せない悟飯に、ヤムチャは追い討ちをかける。
「…狼牙…風風拳ーーーッ!」
「くっ…!!」
「ハイハイハイハイハイーーっ!」
既に、悟飯とヤムチャの姿は肉眼では見ることができずに、会場には衝撃音と、ヤムチャの掛け声だけが聞こえる。
何十何百発とヤムチャの拳が繰り出され、時折その拳は悟飯の頬や体をかすめた。
「……いつまでも…調子に乗らせないぞ!…っらぁあ!」
悟飯がガードの最中にほんの僅かなヤムチャの隙をつき、鋭いパンチを放った。

ズンッッ!

ヤムチャの胸部に悟飯のパンチが突き刺さる!
その攻撃をくらったせいか、ヤムチャの攻撃がようやくとまった。
「手ごたえ…あったぞ……!」
そう言って、悟飯はにやけながらヤムチャの顔を見る。
だが、そこに映ったのは悟飯以上ににやけたヤムチャの顔だった。
「…これは、パンチのつもりか?悟飯」
「……!?」
ヤムチャはガードもせず、その胸で悟飯のパンチを受け止め、悟飯の放った拳を指差しながら言った。
「今はお前より俺の気の方が高い状態だ。なのに、そんな腰も気持ちも入っていない当てるだけのパンチで、俺を倒せる気でいたのか?」
驚いたことに、ヤムチャはほとんどダメージをくらっていない。

326:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/15 02:15 Akahxuyc
【171話】
いくら自分が全力の気ではないとは言え、このヤムチャの強さは明らかにおかしい。
悟飯はその不気味さに思わずまた体が硬直してしまった。
「……どうなっているんだ…一体…」
「悟飯ーーーー!!何やってる、早くヤムチャから距離を取れ!!そして気を溜めろっ!!!このままだと負けっぞ!!」
悟空が再び悟飯に向かって叫ぶ。
だが、ヤムチャはその悟空の言葉を聞いても全く動揺しておらず、むしろ悟飯が距離を取るのを待っているかのように何も手を出さなかった。
「は……はい!」
悟飯は後ろに大きくバックステップし、ヤムチャから十二分に距離を取る。
ヤムチャとしては、離脱した悟飯に本来追い討ちをかけたいところだったが、何故かそうしない。
意図があってのことなのか、それとも悟飯をなめているのか…少なくとも、この試合を見ている者には誰も真意は分からなかった。
少なくとも、マーリン以外の者には。
「はぁ………はぁ………」
悟飯は腹部を押さえながら大きく呼吸を繰り返すと、ようやくヤムチャに先制攻撃された腹痛が多少治まってきた。
多少治まったとは言っても、完全にダメージが消えるのには今しばらく時間がかかるだろう。
早くても、この試合中…ヤムチャと戦っている間は消えそうにない。
「フルパワーまで気を高められれば…絶対に負けないっ!」
悟飯は腹を押さえながら悔しそうにそう声を出し、万全ではない状態ながらも、再び気を溜め始めた。
先ほどと同じことにならないよう、ヤムチャへの警戒は当然忘れずに。
「ちっ…やっぱり狼牙風風拳は、格上に通用しないかよ」
ヤムチャはこの技に拘りがあるのか、試合の流れとしてはヤムチャが押しているというのに、どこか悔しそうな表情を見せていた。
「だが、先制攻撃が思った以上に効いたようだな…」
そして、ヤムチャはバッと手の平を顔の前に上げる。
「悟飯、お前が気を溜めている間に、こっちも存分にこの時間を使わせてもらうぜ!」
そう言ってヤムチャは手の平に気を集中し始める。

327:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/15 02:22 Akahxuyc
【172話】
悟飯は、覚えていた。
父とマーリンが戦っている最中、ピッコロとその戦いを観戦していた自分に、マーリンが使っているフワフワした気弾を自在に操るの技について、ヤムチャが目の前で解説をしてくれたことを。
その情景が、ふと悟飯の遠い記憶から蘇ってきた。
「…あのモーション……そ、繰気弾かっ!」
悟飯が気を溜めながら叫ぶ。
「へえ…覚えていてくれたんだな。一回しか見せてねえのに、さすが優等生」
そう言って、より一層手に気を集中するヤムチャ。
数秒後、ヤムチャの手の平の上にボッと音をたてながら、白い気弾が現れた。
「さて…こっからが勝負だぜ、悟飯」
試しに、その気弾をビュンビュンと自分の体の近くで操作するヤムチャ。
「完璧に思い通りに動く。なかなか調子がいいみたいだ」
ヤムチャはそう言いながら、勢いよくテスト操作していた気弾を、自分の手の平のすぐ上に戻し、状態を落ち着かせる。
だが、そんな様子を見ても悟飯は一切動揺しなかった。
「…へへ、ヤムチャさん…繰気弾で時間をかけたのは失敗でしたね。ぼくに気を溜めさせるチャンスを与えてしまったんですから」
「……かもな…。だが、この繰気弾はちょっと特別でね。だから、まだ作るのにちょっと時間がかかるんだよな」
「…。そんなハッタリ染みた事が、この試合で通用すると思いました?」
「…そうかい。なんとでも言うがいいさ」
両者の距離は30メートルといったところ。
悟飯の気は、既にヤムチャの気を大きく上回っており、例え繰気弾が悟飯にまともにヒットしたとして、大きなダメージを与えることは難しいだろう。
悟飯の気がヤムチャより小さい状態の時に、そのまま試合を続けていればまだ勝敗は分からなかったかもしれないが、既にヤムチャの気は悟飯に劣ってしまっている。
まともに打ち合っては、ヤムチャに勝ち目はなかった。

328:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/15 02:27 Akahxuyc
【173話】
「あの地球人の馬鹿、不意打ちでいい気になりやがって…あの勢いで攻め続ければ結果は分からなかったが、どうやら勝負あったようだな」
ベジータが馬鹿馬鹿しそうにそう言うと、ベジータを無視していたマーリンがようやくその言葉に反応する。
「さっきから鬱陶しい。黙って見ていられないのか?気が散るのだよ、お前のような奴がそばにいると」
マーリンはうざそうにベジータをあしらう。
「ほう、俺の言っていることが何か間違っていたか?」
そのマーリンの煽りに対して、嫌味とも取れるような言葉を薄ら笑いを浮かべながら返すベジータ。
だが、マーリンは逆にベジータを笑った。
「ふ…一つだけ言わせてもらうとすれば、馬鹿なのはヤムチャではなくベジータ、お前だったようだな」
「な…なんだと!」
「騒ぐな。試合を見ていろ、そのうち分かる」
マーリンとベジータがそんなやり取りをしているうちに、悟飯の気は最大近くまで溜まっていた。

「はぁぁぁあぁぁあっぁあぁぁぁぁあぁぁ!!」
見た目に変化はないが、悟飯の気の上昇は止まらない。
既に悟飯の戦闘力は2億近くまで上がっていた。
星のひとつやふたつ程度なら、簡単に破壊できてしまえるレベルの気が悟飯の体に充満している。
「悟飯の奴…ムキになっちまってんな…」
悟空が険しい表情をして言う。
「ソンゴハン…本当に凄い男だ。ヤムチャが言ってた通り、ソンゴクウ…お前のスーパーサイヤ人3以上のパワーを感じる」
そばにいたマーリンも悟空の言葉を聞いて口を出した。
「ああ…気はオラより悟飯の方がつえぇ。それだけに、この試合が心配だ…悟飯の攻撃をくらって、ヤムチャが無事ならいいんだけどよ…」
悟空はヤムチャの身を心配していた。
だが、マーリンはそれを聞いて笑いながら言い返す。
「ふふ…一つ訊くが、何故ヤムチャは先ほど追撃出来る場面で敢えてそれをしなかったのか、説明が出来るか?」
「……繰気弾を作るためじゃねぇのか?」
「…ふふふ」
マーリンはただ笑うだけで、悟空にその答えは話さなかった。


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