09/01/02 23:47 gMLrBu0Y
強さ最上主義のDB世界でヤムチャを活躍させるためには・・・
神龍にお願い「強さの基準を野球にしろー!!」
で、ベジータ&ナッパ+サイバイマンvsZ戦士連合軍で野球対決
操気弾の使えるヤムチャは変化球マスターとなり大活躍
201:Classical名無しさん
09/01/05 00:28 bDhsJWIs
つづきは?
202:Classical名無しさん
09/01/08 02:05 L/X0lwIQ
保守
203:Classical名無しさん
09/01/08 08:31 kwejSYmM
saiyan2の作者さん、ありがとう!
前作を読んだときこの二人がちゃんと出会えるのか不安だったから、
アフターストーリーを読めて、ホッとしています。
これからも楽しみに待っています!
204:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/09 01:19 RtIHakkU
あけまして、おめでとうございます。
今年もなにとぞよろしくお願いします。
かなり久々の書き込みとなってしまいましたが、その間にたくさんの書き込みが…。
争いに関してですが…揉め事にならないように、私が想定している、個々の戦闘力のまとめ表みたいなのを
作ろうかと思ったのですが、それこそ批判をモロにくらいそうなので結構迷っています。
うーん、どうしよう。
皆さんどう思いますか?
強さの概念には、個人個人のイメージがありますからね…。
それこそセオリー通り悟飯が最強だと思っている人もいれば、超3悟空の方が強いと思っている人もいそうですし、
はたまた王子信者…?いや、我らがヤムチャ様が最強?
思いは様々です。
イメージが全て、と言ったらそれまでなのですが。
>>203さん
こちらこそ、読んでいただいてありがとうございます。
私自身、ヤムチャとマーリンをもう一度会わせたいという気持ちがあり、続きを書こうという決断に至りました。
所々既に矛盾が出てしまっているのですが…目を瞑って頂けると幸いですw
205:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/09 01:23 RtIHakkU
【82話】
その様子を、遠くでマーリンは界王神たちと見つめていた。
「ヤムチャ様…かわいそう」
「本当にあんなことして強くなるのかな…」
プーアルとシルフから見ても、あの動きは普通ではないらしい。
界王神も恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
「……カイオウシンとやら。わたしも、あれと同じのを受けるのか…?」
「…ええ、多分……」
マーリンの問いに界王神が答えると、はぁ、と二人同時にため息が出る。
「それより、わたしから頼みがあるのだが…聞いてくれるだろうか?」
マーリンは界王神の方を見つめ、ヤムチャに聞こえないように静かに話しかける。
「なんでしょう?マーリンさん」
「瞬間移動で、ヤムチャの修行が終わるまでわたしを違う星に移動させて欲しい」
マーリンの突然の頼みに、界王神は少し戸惑う。
「構いませんが…どうしてですか?」
「わたしは今から修行をする予定なのだが、この場でやってはヤムチャの邪魔になってしまうかもしれない。それに、わたし自身も誰も居ない場所で一人で修行した方が集中できる…」
界王神からしたらサバサバした性格のように見えたマーリンだったが、ヤムチャを気遣う意外と優しい一面もあるギャップに驚いていた。
「なるほど…分かりました。移動しましょうか」
笑顔で界王神は答える。
206:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/09 01:24 RtIHakkU
【83話】
「すまない、感謝する…」
マーリンは界王神に礼を言うと、プーアルに近づいていった。
「プーアルとやら。先ほどの重力発生装置を借りてもいいか?」
「あ、はい!どうぞ!マーリンさんも修行の方、頑張ってくださいね!」
マーリンはプーアルからカプセルを受け取ると、コクリと頷いた。
「シルフ。お前はプーアルとここに残っているんだ。くれぐれも、ヤムチャの邪魔をしないようにな…」
「分かってるよ、お母さん。だけど、あんまり無理しないでね?」
シルフは先ほどから苦しそうに修行しているマーリンを心配していた。
「ああ、気をつける」
マーリンは優しく微笑むと、シルフの頭を撫でたあと、再び界王神のもとへと歩み寄っていった。
「準備はできましたか?この辺りで地球に近い環境の星と言えば、惑星クリケットですが……」
「そこでお願いしてもいいだろうか」
「分かりました。それでは行きますよ…!カイカイ!」
二人の体が白く光ったと思うと、次の瞬間にはマーリンと界王神の姿は消えていた。
207:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/09 01:26 RtIHakkU
【84話】
―所変わって、別の星に突然二人の人影…つまり、マーリンと界王神が現れる。
それと同時に、マーリンの体にズンと今まで感じていたものより強い重力が圧し掛かった。
もちろん界王神にも同じように重力が圧し掛かる。
周りを見渡すと、一面の砂漠の地平線が広がり、近くには大きなオアシスがあった。
どことなく、地球でヤムチャと共に修行した場所に環境が似ている。
意識を集中し気を探ると、かなり弱い気ではあるが、この星を支配する民族らしき者たちの気も遠くで感じられた。
この近辺には何も居ないようだ。
「惑星クリケット…と言ったか。なかなか良い星だな。地球より少し重力が高いみたいだが…」
「ええ。ここは地球の5倍ぐらいの重力ですからね。ですが、気中の窒素と酸素の濃度の割合、それから気温は地球とほぼ同じです」
マーリンはこの星の重力を確認するかのように、一歩一歩慎重に歩き始めた。
そしてシュシュシュ、と数十発パンチや蹴りの素振りをして見せる。
「なるほど…修行の環境には問題なさそうだ。ありがとう、カイオウシン」
「いえ、私に出来る手伝いはこのくらいですからね。礼には及びませんよ」
界王神は控えめな態度でマーリンに言った。
「…では、ヤムチャさんのパワーアップが完了したら、またここに迎えに来ます」
「分かった。わたしも、早速スーパーサイヤ人になるための修行に取り掛かる」
マーリンはその場で目を閉じると、静かに意識を集中し始めた。
「はい、素晴らしい戦士の誕生を期待していますよ。それでは……カイカイ!」
界王神はその場から消え去った。
わざわざ『カイカイ』と言わなければ、瞬間移動出来ないものなのだろうか…とマーリンは素朴な疑問を抱いていた。
208:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/09 01:30 RtIHakkU
【85話】
ゴゴゴゴ…
気を集中しているため、体の周囲100メートルほどの範囲で、重力を無視しているかのように、小さな岩の破片などが宙に浮く。
数十秒ほど経つとその岩の破片は、上から吊るされていた糸が切れたかのように無造作に地面へと落ちる…この現象が既に100回近く繰り返されていた。
これは、マーリンが精神を集中していることによって、そのとてつもない気が発生し、大気が不安定になり近くの空間が歪んでいるため起こっている。
マーリンはかつてないほど修行に集中していた。
ヤムチャと地球で買った服は既に脱いであり、自分の戦闘服に着替えている。
やはり、長年着ていた服の方が気持ちの面で落ち着くのだろう。
「……わたしは…勝たなければ……っ…」
苦しそうな声で独り言を漏らすと、彼女の長い髪の毛がゾワッと逆立つ。
「あと少し…!あと少しで……なれるっ…!」
そして、逆立った髪はわずかに金色の光を帯びたかと思えば、元の髪の色に戻ったりと点滅を繰り返していた。
「おそらく、この感じだ……このままの状態を維持をしなければ…!」
しかし、それも意識を長く集中することが出来ず、数十秒ほどでとまってしまう。
「はあ…はあ……あと後一歩が厳しいが、ここまでくれば時間の問題だろうな………」
疲労のせいで立っているのも辛いのだろう。
マーリンは地面に手をつき、四つんばいになると、肌が触れている部分の地面が流れる汗で段々と湿っていく。
そのままの体勢で少し休憩すると、マーリンは地面に置いていたスカウターを手に取る。
そして抜いていたバッテリーをセットし、電源を入れた。
どうやら内蔵されている時計が見たかったらしい。
「あれから…約9時間ほどか。ヤムチャは順調なのだろうか…」
209:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/09 01:32 RtIHakkU
【86話】
「………あの」
「………」
「……あのー」
「………」
「あの、大界王神様!!」
「…は、な、なんじゃ?そんな大声出して…」
ヤムチャの大声が界王神界に木霊する。
「今…寝てましたよね?」
「ば、バカモン!界王神ともあろうものが居眠りなんぞするわけないじゃろ!」
大界王神は胡坐を組みながら、片方の手の平を開き、その手を真っ直ぐとヤムチャに向けていた。
そしてもう片方の手は、ページをめくるためだろうか、雑誌のような物の上に置いてある。
首は斜めになり、口からは涎が垂れかけていた。
「………………」
疑いの眼差しでヤムチャは大界王神に視線を送る。
「…フン。それよりお主は余計な事を考えず精神を集中せい!その方がパワーアップの効果も高い」
「……わ、分かりました…」
疑いの気持ちは持ちつつも、ヤムチャは静かに目を閉じる。
…数分後、チラッと片目を開けて、大界王神の方を見ると…やはり眠っていた。
「…もういいや」
こんないい加減なことで果たしてパワーアップするのだろうか…ヤムチャの脳裏にそんなことがよぎる。
半ば諦めかけていたヤムチャであったが、大界王神の言葉を信じ精神を集中し続ける。
精神を集中している間に、ヤムチャは色々なことを思い返していた。
210:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/09 01:37 RtIHakkU
【87話】
初めて悟空たちと会った時、盗賊でワルだったヤムチャは、カプセルを奪うために悟空たちと対峙していた。
一度は狼牙風風拳で悟空をぶっ飛ばしたものの、結局とどめはさせずに退却。
今思えば、これ以来悟空とは一度も戦っていない。
ありそうで意外となかった対決と言えるだろう。
そもそも、唯一まともに戦える場である天下一武道会において、初戦敗退しか経験したことがない。
悟空は常に決勝まで残っていた為、もし自分が勝ち進んでいれば、いくらでも戦える機会はあったはず。
その頃はまた次回倒せばいい…また次回頑張ればいい…そんな風に思っていたヤムチャだったが、それ以来悟空を初めとする戦士たちは、天下一武道会に参加しなくなった。
魔人ブゥが現れる直前に、再び天下一武道会が開かれたが、その頃の悟空たちとヤムチャでは、圧倒的過ぎると言っていいぐらいの差が付いてしまっていた。
その為、ヤムチャは参加を断念するしかなかった。
悟空たちと勝負したい気持ちはあった…しかし、実力の差が開きすぎ、これでは勝負にすらなりえないと踏んだのだ。
自分の仲間が参加している中、自分だけ不参加というのは武道家として苦渋の選択ではあったが、あれはあれで正解だったのかもしれない、とヤムチャは思っていた。
無謀な挑戦と、僅かな可能性に賭ける勇気は違う。
どうせやっても今の自分では敵わない…ならやらなければいい…だけどいつかは必ず…。
ヤムチャはそうやって自分の行動を正当化し続けていた。
しかし、ヤムチャは分かっていた。
そんな気持ちのままでは、その“いつか”は永遠にやってこないということに。
そして、マーリンと約束した諦めずに戦うということを守れていなかったことに…。
211:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/09 01:39 RtIHakkU
【88話】
ヤムチャはたまにあることを考える。
悟空はサイヤ人だからずば抜けて強いと言うのもあるが、仮に悟空が地球人だったとしたら…自分は悟空に勝てるだろうか?
おそらく、勝てない。
というか、悟空が純粋な地球人だろうと、ベジータやピッコロはもちろん、現れる強敵全てに負けないのではないだろうかとすら思う。
つまり…自分は全て先入観で『サイヤ人だからあいつは強い』『地球人だから自分は勝てない』という風に決め付けているだけなのかもしれない。
もし悟空が地球人であっても、自分なりに修行や戦闘スタイルを工夫して、今と同じように、常に頂点を目指し続けるはず。
そして、今と同じように、実際頂点に立っているはず。
あくまで仮定の話でしかないが、ヤムチャが導き出した結論として言えることは、“地球人だから勝てない”というのは言い訳にならないということ。
確かにサイヤ人は強い。
体質的にも、地球人より有利であることは変わりない。
だが、自分はそういった問題以前に、気持ちの面で悟空に負けていたのではないか?
それが結果的に、実力の伸び具合の差…そして、今の実力差にそのまま反映しているのではないか?
そう思うと、今の自分と悟空との差の全てが納得行く。
そして、自分の中の自信は確信へと変わる。
今の気持ちは、悟空に負けないだけのものはあるということ。
それはつまり、悟空に勝てる要素は0ではないということに繋がる。
少なくとも…今の自分には、間違いなくそれが言える!
212:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/09 01:43 RtIHakkU
【89話】
仲間たちの中で、ヤムチャは武道家として最も惨めな人生を歩んでいた。
ご存知の通り、天下一武道会では全て初戦敗退。
サイヤ人の来襲に備えて修行したのに、その手下であるサイバイマンに自爆で殺される。
ドラゴンボールで生き返って、3年後に現れる人造人間に備えて必死に修行するも…20号に胸を貫かれ、瀕死の状態となる。
セルジュニアには腕を折られてなすすべすらなかった。
その後はほとんど戦っていない。
ヤムチャは思う。
自分ってなんなんだろう、と。
本来の自分なら、馬鹿馬鹿しくてとっくに修行なんて辞めてしまって、遊び呆けているだろう。
しかし、自分はまだ修行を続けている。
そう、マーリンと出会った事によって、自分の人生は大きく変わったのだ。
一度は悟空たちに追いつくことを諦めかけたが、それでも修行は続けていた。
それが最低限、自分に出来る全てだから。
女を愛しいと思ったことなんて殆どない。
自分にはプーアルがいるし、寂しさもさほどない。
長年付き合っていたブルマは、どういう風の吹き回しか、地球に住むようになったベジータと2年ほどでくっつき、子供まで作る。
普通はショックを受けて良いはずなのに、どういう訳か、不思議と不服はなかった。
むしろ清清しい気分である、といっても過言ではない。
その時はっきりとヤムチャは思った。
自分の中で、マーリンに対する想いはブルマを遥かに越えているということに。
そして再度自分の気持ちに気付く。
自分はマーリンのことを、本当に愛しいと思っているんだということに。
213:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/09 01:46 RtIHakkU
【90話】
―。
「フム…これは中々……」
大界王神が独り言を呟く。
そんなような事を思い返しているうちに、ヤムチャの潜在能力はどんどん解放されていった。
その声が聞こえ、ヤムチャの目がぱっと開く。
「…あ、今何かおっしゃいました?」
「いや、なんでもない」
ヤムチャは眠っていたわけではないのだが、意識が現実に戻ると、かなりの時間が経っていることに気付いた。
「それよりヤムチャよ、あと3時間ほどでパワーアップが完了する。もう少し辛抱せい」
「分かりました」
大界王神の隣には、山積みにされた大人向けの雑誌が何冊も無造作に置いてあったが、ヤムチャは突っ込むことすらしなかった。
(ヤムチャの奴…地球でそうとう修行を積んだのじゃな。修行の際解放されずに体に蓄積されたパワーが、見る見るうちに解放されていくわい…)
大界王神が想定していた以上に、ヤムチャのパワーアップに時間がかかっていた。
本来なら終わって良いはずなのに、ヤムチャからは力が湧き出るように解放され続ける。
「凄いですよ…ヤムチャさんは」
遠くでヤムチャの様子を見守っていた界王神は声を漏らす。
「そりゃそうだよっ!なんたってぼくのお父さんだからね!」
シルフは自慢げに話す。
「潜在能力、って隠されていた力って事ですよね?」
プーアルが界王神に尋ねた。
「ええ…そうです。凄いですよ本当に。あれだけ力を隠していたとは…さすがにご先祖様は見る目が違う…」
界王神は感心の余り、薄っすらと冷や汗すらかいていた。
「ヤムチャ様に、そんな力が…」
皆が見守る中、なおもヤムチャは隠された力を解放し続ける。
214:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/09 01:48 RtIHakkU
それでは、寝ます。
東京の方では明日みぞれが降るとかいう噂が…。
おやすみなさい!
215:Classical名無しさん
09/01/15 02:04 RMz2yFrk
更新乙です。戦闘力に関しては公開してくれた方が個人的にはよいです
216:Classical名無しさん
09/01/19 20:12 CfCS2fuI
保守
217:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 00:27 qGq8L4NM
>>215さん
ありがとうございます。
では、近いうちに戦闘力表を作っておきますね。
参考までに言わせて頂くと、フリーザを倒し、地球に帰ってきてから
少し修行をした悟空で、戦闘力500万弱という設定です。
これはSaiyanKiller作者さんが設定されたもので、それを基準に一覧表を作りたいと思います。
一部(公式?)ではフリーザ戦での悟空の戦闘力が1億を超えているという話もありますが、
SaiyanKiller作者さんと同じく、私はその数値に反対です。
これは個人のイメージもあると思うのですが、皆さんが思い通りの戦闘力数じゃなくとも、
どうにか納得して作品を読んで頂けると嬉しいです。
218:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 00:28 qGq8L4NM
【91話】
一方、マーリンも、空白の時間に修行をしなかったわけではない。
むしろ、かなり過酷なトレーニングをこなしていた。
それにも関わらず、現実は甘くなかった。
当時は悟空互角…いや、むしろ自分は勝負に勝つだけの実力があったはず。
それでも気を抜かず、地球から去った後の空白の時間にマーリンは常に悟空より多く辛い修行をしたつもりだ。
だが、久しぶりに会った悟空に圧倒的な差をつけられていて、自分の考えが浅はかであったことを知る。
何故、あれほどまでに差が開いてしまったのか。
やはり、スーパーサイヤ人に変身できないという事実が大きな要因だろう。
“海皇拳”を使えば、スーパーサイヤ人に匹敵する強さになるが、あれは体への負担も大きすぎるし、長時間持たないという欠点がある。
それに、スーパーサイヤ人は第2形態と第3形態があるらしい。
“海皇拳”はノーマルのスーパーサイヤ人と同等クラスになる変身ではあるが、スーパーサイヤ人2、スーパーサイヤ人3には到底及ばない。
一瞬で決着が付くとは思えないし、長時間持たない“海皇拳”では勝負になりえないだろうとマーリンは睨んでいた。
そう考えると、悟空に勝つにはまず、自分がスーパーサイヤ人になるというのが最低条件になる。
219:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 00:29 qGq8L4NM
【92話】
「クソッ…時間がないというのに……ッ!!」
ゴゴゴ…
大地が震える。
ヤムチャの話だと、今では子供でもサイヤ人の血さえ引いていれば、スーパーサイヤ人になれるらしい。
しかし、マーリンはなかなかスーパーサイヤ人になれずにいた。
そんな自分に、正直焦りを感じずにはいられない。
いや、“最初”は…焦りだった、といったほうが正しいだろう。
今となってはその焦りはやがて苛立ちに変わりつつあった。
いつまで経っても変身できない、自分に対しての苛立ちに。
時間が経てば経つほど、スーパーサイヤ人になれない苛立ち…即ち、怒りがマーリンに昂じる。
そして、その怒りは今、ピークを迎えた。
「わたしは…ならなければ…っはぁあぁ…!!」
ボワッ!!
マーリンが気合を込めた次の瞬間、自分自身が何かに変化したような感覚が起きた。
長い髪の毛が、重力を無視したかのように逆立ち、興奮状態のような落ち着かない気分になる。
マーリンはそのままの状態を維持すると、手の平を開いたり閉じたりし、それをジッと見つめていた。
220:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 00:31 qGq8L4NM
【93話】
そして、腕に軽く力を込めると、手の平の上にエネルギーを集中し始める。
「繰気弾…」
小さくそう言うと、マーリンの直径1センチ…ほんのビー球サイズほどの小さな気弾が現れた。
「この近くには、誰もいないはずだな…」
念のため、辺りの気を探るが人が居る気配はない。
戦闘力を0にまでコントロールしている者がいる可能性も0ではないが、幸い辺りは地平線のため、目で見ただけでも人がいないのは一目瞭然であった。
マーリンは確認を終えると、その気弾を思い切り前方に投げつける。
ギュゥゥウン!!
風を切るような音と共に、気弾はグングンと前に進んでいく。
予想以上にスピードが速かったのか、マーリンは慌てて気弾を止めた。
既に1キロほど先に気弾は進んでいた。
マーリンは目が良いため、気弾がフワフワと空中で静止しているのが見える。
「この星の形を変えることになるかもしれないが、お試しに威力を見せてもらうぞ…それ!」
その気弾をマーリンが手で操作すると、真下に向かって急降下を始めた。
そして、気弾が地面に当たった刹那…
ドゴォォォーンン!!!!!!
白い光が一瞬だけ見えたと思うと、凄まじい爆発が起こり、鳴り響いた爆音が聞こえ、数秒遅れて突風が吹いた。
爆発の半径500メートルほどが蒸発する。
「……ふふふ…あはははは!!これだ…!」
思わず笑いがこぼれるマーリン。
そうでもないのかもしれないが、笑ったのはとても久々な気がする。
221:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 00:33 qGq8L4NM
【94話】
今の繰気弾は、まるで本気ではなかった。
それでいて、あの破壊力、あのスピード…全てが想像以上だ。
「1割の力でこれか…。素晴らしい…素晴らしすぎるぞ、スーパーサイヤ人の力…!」
マーリンはスーパーサイヤ人にになれたことに、歓喜していた。
そして、安心したせいか、急に体にどっと疲れが出る。
マーリンは修行を始めてから、今に至るまで、何も口にせず、ひたすら神経を集中し続けていたのだ。
とりあえず、喉が渇いたので、近くのオアシスで水を飲むことにした。
スーパーサイヤ人の状態を維持したまま、マーリンはオアシスへと向かう。
毒物の匂いがしないことを確認すると、ゴクゴクと勢いよく水を飲むマーリン。
鉄分が多いのか地球の水より若干苦いが、乾いた喉をオアシスの水が潤してくれた。
ふと自分の容姿が、水に映っていることに気が付く。
髪の色は完全に金色に変わって逆立ち、目はサファイアのような輝きを帯びていて、自分で言うのもなんだが神秘的だと感じた。
だが、顔付き…というより、目付きが若干悪者っぽい顔になっている。
「少し髪が長すぎるな…戦闘に影響が出るかもしれない。あとで切っておくか…」
長い髪の毛に人差し指をクルクルと絡ませながらマーリンは独り言を呟くと、スーパーサイヤ人を解いた。
それから10分ほど休憩すると、マーリンは先ほどプーアルから渡されたカプセルを取り出す。
疲れはほとんど取れていないが、勝つためには休むわけにいかない。
「スーパーサイヤ人になれてからが、本当の修行だ…」
ボタンを押下し、カプセルを放り投げると、重力発生装置が姿を現す。
ハッチを開け、装置の中に入ると、中心部にある重力メーターは5Gを指していた。
それは、この星の重力をそのまま指していた。
「なるほど…とりあえず、300倍の重力程度から徐々に慣れていくか…」
マーリンがボタンを操作すると、メーターは300Gを指す。
そして、腕立て伏せや腹筋などの基礎トレーニングを始めた。
今は徹底的に体そのものを鍛えて、実戦練習はヤムチャと組み手で鍛えれば良い。
体にかなり無理がきていたが、マーリンは苦痛で唸りながらも決して修行の手は休めなかった…。
222:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 00:35 qGq8L4NM
【95話】
「…パワーアップは終わりじゃ、ヤムチャ」
その大界王神の呼びかけで、ヤムチャは静かに目を開ける。
目を開けると、目の前にマーリンを除いた全員揃っていた。
シルフとプーアルが心配そうにこちらを見つめている。
「大丈夫…?お父さん…」
こくりと一度頷くと、ヤムチャはゆっくりと立ち上がった。
「これが…今の俺なのか……?」
ヤムチャは自分の体をすみからすみまで見ながら言った。
少し動かしただけでも分かる、今までとは明らかに違う体全身の感覚。
「どうじゃ?気分は」
大界王神はニヤニヤしながらヤムチャに話しかけた。
「…不思議な感じです。まるで俺が俺じゃないかのような…よく分からない気分だ…」
ヤムチャは真剣な表情で大界王神に言葉を返す。
「じゃろうな。今のお主は以前のお主とははっきり言って別人じゃ。もしかしたら、あのベジータぐらいならなんとかなるかもしれん」
「…え?ベジ……!?」
ベジータならなんとかなるかもしれない…その言葉に思わずヤムチャは声が詰まってしまう。
そして、ヤムチャは言い直すように改めて口を開いた。
「ベジータなら…なんとなかるかもしれない?…この俺が、ですか?」
「そうじゃ。しかし、何をそんなに驚いておるんじゃ?」
大界王神は不思議そうにヤムチャを見つめていた。
「そりゃ驚きますよ…自分がベジータに勝てるかもしれないだなんていきなり言われたら…」
「おかしいのう…お主たちは悟空を倒すつもりじゃなかったのかね?ベジータを倒せずに悟空が倒せるのか?」
「……!」
ヤムチャはハッとした。
223:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 00:36 qGq8L4NM
【96話】
大界王神は続ける。
「それに…かもしれない、というだけじゃぞ。ベジータは天才じゃ、そう簡単に勝たせてはくれまい」
確かに、大界王神の言うとおりだ。
自分たちはあくまで悟空を倒すつもりだったはずである。
ならば、悟空より弱いベジータを倒せる程度の実力は、最低限なければならない。
そのベジータも、悟空には敵わないが、かなりの実力者であることはヤムチャもよく知っている。
「…まあええわい。とりあえず、ヤムチャ、気を入れてみろ」
大界王神は少しヤムチャから離れると、ヤムチャに向かって言った。
「…はい!」
ヤムチャは厳しい目付きになると、全身の筋肉に力を入れ、気を練り始めた。
「んぐぐ……ッ!」
界王拳は使わずに、自分の発揮できる最大限の気を解放する。
「はッッ……!」
ボンッッ!!
爆発音のような凄まじい音をたてて、ヤムチャの周りに衝撃波のようなものが巻き起こる。
平らだった地面はへこみ、所々ヒビが入って歪な地形に変わっていく。
大界王神たちは吹っ飛びそうになるが、界王神が気のバリアのようなものを作り、どうにか踏ん張った。
224:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 00:38 qGq8L4NM
【97話】
「スゴイ…!元から凄かったお父さんの力が、更に上がっている……」
気を完全に読めないシルフでさえ、ヤムチャの飛躍的なパワーアップは感じ取ることが出来た。
「……な、なんなんだ…この、溢れんばかりの力は…」
ヤムチャは予想以上に膨れ上がっている自分の力を疑った。
大界王神は巻き上がった砂埃でゴホゴホと咳き込んでいたが、どこか満足げな表情を浮かべながら言う。
「そんなもんじゃないぞい。その状態で、界王から習った体の力を倍化させる技を併用してみるんじゃ」
「界王拳のことですね?…いきなり30倍試してみるか」
ボウッ、とヤムチャの体を赤いオーラが包む。
しかし、ここでヤムチャにとって予想外のことが起きた。
「…ん……あれ?これ、30倍だよな…?」
いつもなら苦労するはずの30倍界王拳なのだが、体の負担が予想以上に軽い。
「これなら40倍はいける……いや、50倍…!」
そう独り言を呟いて、ヤムチャは未体験ゾーンの50倍まで界王拳を引き上げる。
以前の自分だったら体全身の筋肉繊維がボロボロになるぐらいの負担があるはずだが、今のヤムチャには大した負担にならなかった。
50倍まで界王拳を上げても、まだちょっときつい程度だ。
「本当にかなり力があがっている…。いいのか、こんなことがあって…」
極端なまでにパワーアップした現実を、ヤムチャは受け入れるのを躊躇っていた。
225:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 00:39 qGq8L4NM
【98話】
「ヤムチャよ…一つ言っておくぞ。お主の仲間たちの潜在能力を、同じように引き出しても、ここまでパワーアップはせん」
大界王神が改まったようにヤムチャに向かって言った。
「それは一体…?」
「ずっと修行を続けておったろ、お主。その時に力は解放されず、体内に潜在パワーとして蓄積されていたんじゃ。それを今わしが引き出したんじゃよ」
「…そ、そうなんですか」
「つまりじゃな…それだけのパワーアップを果たしたのは、お主の努力の賜物であって、それ以外の何ものでもないんじゃ。分かるか?わしはキッカケを与えたに過ぎん」
「俺の…努力…」
いくら修行しても、悟空たちのようにヤムチャの力は伸びなかった。
修行すること自体、無駄なんじゃないかと何度も思ったことがある。
しかし、それでもヤムチャは修行をずっと続けていた。
その努力が今…長い月日を経て、ようやく今報われたのだ。
もちろん、ヤムチャの努力があったからこその話なのだが。
「はは…ははははっ!!こりゃいいぜ!!」
ヤムチャは50倍界王拳の状態で地面を蹴って高く跳躍すると、高速でビュンビュンと空を飛び始めた。
「軽いッ!今までの何倍も何十倍も体が軽い!しかもまだ余裕があるッ!」
ヤムチャはそう言って、力を持て余すかのようにはしゃぎ出した。
そんなヤムチャを見て、半ば呆れながらも笑みを浮かべる大界王神。
どうやら想像以上に力が伸びたようだ。
226:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 00:41 qGq8L4NM
【99話】
ヤムチャのパワーアップが完了して一段落すると、界王神は何かを思い出したかのように口を開く。
「あ、それでは…私はマーリンさんを迎えに行ってきます。カイカイ!」
その場から界王神が消えたが、1分もしないうちに戻ってきた。
その肩にマーリンを連れて。
「お母さん、おかえりー!ねぇねぇ、お父さんがスゴイパワーアップしたんだよ!」
シルフは駆けつけるようにマーリンに近づいていった。
そのシルフの言葉を聞き、マーリンの視線はヤムチャをとらえる。
「よう、マーリン。久しぶりだな…いや、そうでもないか」
ヤムチャは修行が長く感じたのか、マーリンと会うのが久々なような気がしてならない。
そんなヤムチャをジッと見つめていたマーリンだが、その口元が緩む。
「…ふふ、どうやら成功したようだな。気質自体が前とは違うものになっている」
「ああ。やっぱり、分かるか?まだまだこんな程度じゃないけどな」
ヤムチャはニヤリと笑う。
マーリンもそれを見て不敵にも笑い返す。
「わたしもお前にいいものを見せてやれそうなのだよ……ハッ!」
高い掛け声と共に、マーリンの髪の毛が逆立ち、長いプラチナブロンドの髪が一瞬で金髪へと変わる。
金色に輝くマーリンからは、傍に立っているだけで尻餅をつきそうな気迫さえ感じられた。
一同はその変貌に驚く。
「これ…さっきの男と同じ変身だ……!」
シルフは超化したマーリンを見て、悟空の変身と同じものだと瞬時に悟った。
「…!……こいつは驚いた。こんな短期間でスーパーサイヤ人になれるなんて…。しかも、お前それ―」
ヤムチャの次の一言で、更に驚くべきことが発覚した。
227:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 00:46 qGq8L4NM
【100話】
「…スーパーサイヤ人2じゃないか!?」
マーリンの体の周りにはビリビリと電流のようなものが流れている。
これは、スーパーサイヤ人2以上になると起こる特有の現象だというのを、ヤムチャは知っていた。
「なるほど…これがスーパーサイヤ人2、か。1と2の違いすらわたしにはよく分からないが…特に問題はないだろう」
マーリンは自分自身の体を見つめながら言った。
スーパーサイヤ人になったばかりの頃は、かなりの興奮状態で理性がほとんどぶっ飛ぶという話を1年前に行われたバーベキューの時に悟空から聞いたことがあった。
しかし、驚いたことに、マーリンはスーパーサイヤ人になった状態でかなり冷静に意識を保っている。
悟空たちのように、長い間スーパーサイヤ人を経験しているのならそれも頷けるのだが、たった数時間前にスーパーサイヤ人…しかも1を飛ばして2になった者が、そこまで自身をコントロールすることが可能なのだろうか。
サイヤ人ではないヤムチャには未知の領域で分からないことだったが、目の前に居る愛しき女性…マーリンは只者ではないという現実を再確認した。
(ていうか、一応“穏やかな心”の持ち主なんだな、マーリンって…)
マーリンには失礼だったが、心の中でヤムチャはそっとそう思う。
「さ、さすがは俺の弟子、ってところかな…」
強がっているヤムチャだったが、若干顔が引きつっているようにも見える。
「ふふ、よく言う…」
マーリンは軽くそれを受け流すと、超化を解いて普通の状態に戻る。
「さて…次はわたしの番か」
大界王神の元へとゆっくり歩みだすマーリン。
しかし、大界王神はマーリンの接近に気付いているのにも関わらず、何故かそっぽを向いていた。
228:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 00:47 qGq8L4NM
【101話】
「あの…気付いているだろう?」
明らかに自分を無視している大界王神を相手に、横から声をかけるマーリン。
「お主…そんな服を着たままわしの術を受けようというのか?」
大界王神は深刻な顔付きになっていた。
「服…?ああ、確かに惑星クリケットで修行している途中で戦闘服に着替えたが…それに何か問題があったのだろうか…」
「大有りじゃい!そんな服を着ていたら、胸やクビレのラインがよく見えんではないか…オマケに露出も少ないとあってはモチベーションも下がるわい…」
「…………そう」
マーリンは大界王神が何を意図して言っているのかよく分からなかったが、物凄く下らないこじ付けをしているのだけは、なんとなく想像が付いた。
冷たい視線で大界王神を見つめるマーリン。
同じように界王神、シルフ、プーアルも冷たい視線を大界王神に送る。
ヤムチャだけは彼の言っていることにちょっと納得していた。
「あ、そうかい。そういうことなら別にいいんじゃよー?わしはこのまま昼寝でもしようかなー?」
大界王神はその場で寝転がると、肘を地面につきながら昼寝の体勢に入ろうとした。
「…着替えればいいのか」
マーリンは折れたのか、ため息をつきながら大界王神に言った。
「そーいうことじゃ」
「分かった…」
マーリンは力なく頷くと、少し離れた木陰まで武空術で飛んでいく。
時間の無駄だと思ったのだろう。
229:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 00:48 qGq8L4NM
【102話】
ヤムチャから偉い人と聞いていたので、まさかこんな不意打ちがくるとは思いもしなかった。
ぶっ飛ばしてやろうかと思ったぐらいであったが、そんな事をする時間すら惜しいとマーリンは感じていた。
マーリンは木陰に入ると静かに服を脱ぎ始める。
遠くでその方向を凝視する大界王神だったが、木が邪魔で着替えを見ることが出来ない。
「わし…神眼で覗いちゃおうかな」
「ダメです」
「相変わらずかたいのう…面白くない奴じゃ」
「かたいとか面白くないとか、そういう話じゃありませんよ…これ」
「フン。ギャグの通じん奴め」
「…どう見ても本気だったじゃないですか」
「いいや、ギャグじゃ」
いつの間にか界王神同士で言い争いが起きていた。
それを聞いていたとシルフは、これが宇宙で一番偉い人たちの言い争いとはとても思えなかった。
マーリンが着替え終わった頃に、ヤムチャはプーアルを肩に抱きながら、さりげなくその木陰へと移動していた。
230:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 00:49 qGq8L4NM
【103話】
「とんだ災難だったな」
苦笑いしながら言うヤムチャ。
「全くだ。もしあれがカイオウシンという偉人でなければ普通にぶっ飛ばしていた」
アタッシュケースに戦闘服を詰め、カプセルのボタンを押しながらマーリンが言った。
「はは、おっかねーな。それよりマーリン…髪、切ってやろうか?」
「…え?」
「いや…ほら、長いじゃん、髪。見る分には綺麗でいいんだけど、戦闘だと結構邪魔にならないか?」
予想外だったのか、ヤムチャの突然の提案に悩むマーリンだったが、ちょうどさっき、自分でも髪を切りたいと思っていたところだったのを思い出した。
「…分かった。ヤムチャ…上手く切れる…?」
「ははん、実は俺…若い頃は美容師を目指してたんだぜ?4日で挫折したけど」
「それは、大丈夫と言うのだろうか…ふざけて変な髪形にしたらお前の顔の原型が変わるかもしれないからな…」
マーリンは拳をボキボキならしながら脅しをかけるが、ヤムチャは既にプーアルが化けたハサミを持っていて、やる気満々だった。
渋々ヤムチャの散発提案を承認するマーリン。
「セミロングでいいか?」
「セミ…なに…?」
「んと、肩に届くぐらいの長さって意味だ」
「結構短くなるな…もう少し残したいのだが…」
「じゃあ、胸辺りまででいいかな」
「うん」
大雑把そうに見えたヤムチャだったが、意外と慎重な手付き且つ、素早くマーリンの長い髪の毛を捌いていく。
231:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 00:51 qGq8L4NM
【104話】
「出来た!短くするだけだったし、俺でも結構スムーズに出来たな」
「ほーう…楽しみだ」
切り始めてから2分ほど経つと、ヤムチャが嬉しそうに叫ぶ。
ヤムチャはかなりゆっくり切ったつもりだったが、常人視点だとありえない速さだ。
超人故に出来る早業である。
「プーアル、鏡に化けてやれ」
「はい!変化!」
プーアルは手鏡に変身すると、フワフワとマーリンの目の前まで飛んでいった。
「…どうですか?マーリンさん」
恐る恐るプーアルがたずねる。
「上出来、だな…意外と」
どうやらマーリンは自分の髪に満足したようだ。
前が長すぎたため、結構ばっさりと切っているが、見た目的には特に違和感もない。
今は初めてヤムチャに会った時と同じぐらいの髪の長さになっている。
もしかしたら、ヤムチャはそれを意識してこの長さにしたのかもしれない。
毛先もしっかりと見栄え良く揃えてあり、なかなか様になっているように見えた。
「んじゃ…修行頑張れよ。ただ座っているだけだけどな」
「ああ、上手くいくといいんだが…」
先ほどのエロジジイの顔が頭に浮かんで、何か変なことをされるんじゃないかと少し不安そうな表情を浮かべるマーリン。
「心配か?大丈夫大丈夫。お前は潜在能力の塊だからな、きっと凄い戦士になるぞ」
そっちの心配じゃないんだけど…と思ったマーリンだったが、口には出さずに再び大界王神の元へと向かう。
232:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 00:53 qGq8L4NM
【105話】
「待たせてすまない。はじめてくれるか」
マーリンは先ほどの気持ちを心の奥にしまい込み、再び大界王神の前に立つ。
大界王神はそれを見て、大きく頷くと、ジロジロと体をなめ回すように見つめはじめた。
「…うーむ。やはり、お主はいい体格をしとるの。顔立ちもわしの好みじゃ。まあ、そこに座れ」
「……」
マーリンは言われた通り、大人しくその場に座り込む。
しまい込んだはずの気持ちが、再び頭に浮んできた。
果たして、自分はこのきついきつい修行(?)に耐えられるのだろうか。
ある意味今までで一番辛そうな修行に、不安が頭によぎるマーリンだったが、既に大界王神の修行は始まっていた。
「ほれ、集中せい!余計な雑念が混じるとパワーアップ効果も減るぞ」
自分は雑念の塊の癖によく言うヤツだ…マーリンは静かにそう思った。
ヤムチャは腕を組みながら先ほどの木陰に寄りかかり、その様子を見つめていた。
いつの間にか隣に界王神も立っている。
「そういえば、俺の時は儀式に5時間かけていたけど…今回はやらないみたいですね」
ヤムチャは界王神に話しかける。
「ああ…あれは気分の問題だと思いますよ、多分」
「ていうことは……別にやってもやらなくても良いってこと…ですか?」
「おそらく…」
思わず、界王拳を10倍ぐらいまで上げて、ドスーンとずっこけるヤムチャであった。
233:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 00:55 qGq8L4NM
【106話】
それから3時間ほどが経った。
「88……んくっ…89…!」
ヤムチャは重力発生装置に入り、500倍の重力で基礎トレーニングを始めていた。
既に腕立て伏せと腹筋100回を終え、現在は背筋100回に取り組んでいた。
出来るだけ気は使わず、生身に近い状態で体を徹底的に虐めている。
以前なら、500倍の重力なんて気を入れた状態でも厳しかったのに、今はギリギリトレーニングが出来るレベルにまで力が上がっていた。
一方、マーリンと大界王神は無言で座っていた。
ヤムチャの時は雑誌を見ながら手を翳(かざ)しているだけだったが、今回はそんなものは見ずに、じっとマーリンを見つめ続けていた。
「お主……辛い過去を経験したんじゃな」
「…!?」
何を思ったのか、唐突に大界王神が口を開く。
「故郷をサイヤ人に奪われ、両親も幼いうちに亡くし、皮肉にも父親はその故郷を奪ったサイヤ人だった…。それ故に以前はサイヤ人に尋常じゃない恨みを持っておった。…今は違うみたいじゃが」
「どうして…それを知っている…?ヤムチャから聞いたのか?」
マーリンは少し動揺した。
「いや、聞いとらんよ。人の心の中がなんとなく分かるんじゃ、これだけ長く生きとるとな…」
大界王神はニコニコしながら言う。
その笑顔が以前なら気味が悪かったが、今では何故か優しく感じられた。
何も聞かずして心を読めるだなんて、超能力の類以外では聞いたことがない。
マーリンは初めて、この目の前にいる老人…大界王神が凄い人だと思い始めた。
「確かに…わたしの過去を遡ると、余り良い道を歩んできたとは言えないな…」
どこか暗く、自嘲気味にマーリンは言った。
234:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 00:57 qGq8L4NM
【107話】
物心ついた頃から、彼女は戦場に居た。
それが当たり前となり、永遠とも思えるような戦いの日々が繰り返されていた。
今ではすっかりなくなったが、戦いにおいて生きるためとは言え、無差別に命を奪っていた時期もある。
そして、宇宙に散らばっていたはぐれサイヤ人を根こそぎ排除してきたという事実も。
昔のマーリンの心は冷徹で、その手は血塗れていた。
地球にやってきてヤムチャと出会ってから、心身ともに全てが変わるわけだが。
忘れかけていた昔の記憶が、少しずつ頭に蘇る。
いや、罪の意識があったため、忘れようとしていた、といった方が正しいかもしれない。
その罪滅ぼしのためか、地球を去ってからは“侵略された星を取り戻す仕事”をこなす様にしていた。
これなら悪者は完全に相手であるため、心置きなく戦える。
かつてサイヤ人に侵略され、破滅の運命を歩んだ自分の星とその星を重ねて、それを守るかのように。
「わ…わたしは……」
上手く言葉に出来ず、出掛かった言葉が詰まる。
「大丈夫じゃよ。もう以前のお主ではない。本当に運が良かったのう、偶然とはいえ地球に降り立ったのは」
「…地球は…ヤムチャは、本当にわたしの運命を大きく変えてくれた」
「そう思っているなら、なおさら自分の運命を恨んじゃいかん。お主が重ねてきた行動や出来事の一つ一つが、結果的にお主をここに導いたのじゃから。言わば必然的じゃったの
かもな…お主が地球に行くというのは」
どこか深い話をされて、感傷に浸るマーリン。
「話し込んでしまったな。さて、再開じゃ」
「ああ、頼む…」
次第に、マーリンは大界王神を信じ始めた。
235:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 00:58 qGq8L4NM
【108話】
「98…99…100ッ!……ふう、早くも全身が筋肉痛だぜ」
背筋100回が終わり一息つくと、ヤムチャは地べたに寝転がった状態で床を蹴り、クルクルと体を回転させながら派手に立ち上がった。
トレーニングは既に3週目を迎えていて、汗で全身がびしょ濡れになっている。
こんな部屋に居ては、何もしていなくても体に負荷がかかるのに、その状態でトレーニングをすることは過酷を極めた。
500倍の重力といったら、常人なら何も出来ずペチャンコに押しつぶされてしまうレベルの高重力である。
体重60キロの人間だったら、その500倍…3万キロ、つまり30トンになるということだ。
体が強くなったとは言え、さすがに飛ばしすぎたか…とヤムチャは思った。
「少し休もう…」
部屋の重力を元に戻すと、体がフッと軽くなったように感じた。
手を羽ばたけば武空術なしでも空を飛べそうな勢いだ。
マーリンの様子も気になった頃なので、ヤムチャは数時間ぶりに重力発生装置から出た。
「ヤムチャ様、お疲れ様ですー!」
プーアルがタオルを差し出しながらヤムチャに近づいていった。
「ああ、すまん」
ヤムチャは礼を言うと、タオルを受け取り体中の汗を拭う。
と、マーリンの方を黙って見つめているシルフに気付き、ヤムチャは汗を拭きながら声をかける。
「シルフ、どうだ?母さんの様子は」
「なんか、凄い集中しているみたいだよ。さっきから微動だにしない…」
そう言われてマーリンを見てみると、確かに完全に精神を統一している。
動いているのは風によって僅かに棚引く髪の毛ぐらいだった。
それを見てヤムチャは意外そうな顔を浮かべる。
「なんだよ、マーリンのヤツ。さっきまであれだけ胡散臭そうにしていたのに」
チェッと舌打ちするヤムチャだったが、言葉とは裏腹に、トラブルもなく修行が進んでいるようでほっと胸を撫で下ろす。
236:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 00:59 qGq8L4NM
【109話】
「そういえばシルフ、お前もマーリンみたいに強いの?」
何気なく、ヤムチャがシルフにたずねた。
「ぜんぜん…。お母さんは、『お前はわたしよりもヤムチャよりも強くなるはず』って言ってるんだけどね…とてもそこまで強くなれる気がしないよ」
ヤムチャの言葉でシルフは暗い表情になってしまい、何か悪いことを聞いてしまったかのような気がした。
「で、でも…お前はまだ小さいし、多分近いうちにグーンと力が伸びると思うぜ?マーリンの言うように、俺たちを超えるぐらいのな。サイヤ人の血も引いてるしさ」
「そうかなあ…」
「そうさ。まあ、5歳6歳でもスーパーサイヤ人になれる化け物もいるわけだが…そういうのは例外で…」
すると、シルフは何かを考え始めたが、すぐに答えが出たみたいだ。
「お父さん…大会が終わったら、ぼくに稽古つけてよ!」
一瞬驚くヤムチャだが、すぐに笑いながら答える。
「はは、そういう所はマーリンそっくりだな、お前。俺の稽古は厳しいぜ?」
「うん…大丈夫だから!見てよ、ぼくだってロウガフウフウケンできるんだから!」
ヤムチャから少し距離をとると、自慢げにブンブンと拳を振り回すシルフ。
確かにスピードはまずまずといったところだが、実戦で使えるレベルには到底なかった。
「仕方ねえなあ…まずは狼牙風風拳より、基礎トレーニングで肉体の鍛錬をする。それから精神統一と、俺の肩揉み。どう?やれそう?」
「うんっ!約束だからね!」
目を輝かせてシルフはヤムチャに抱きつく。
やれやれと呟くヤムチャだったが、内心は自分自身もシルフの成長を楽しみにしていた。
237:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:03 qGq8L4NM
【110話】
それから…時間は流れ、マーリンが座りだしてから丸一日が経とうとしていた。
やりすぎて何セット目かすら分からなくなったトレーニングを終えると、ヤムチャが重力発生装置から出てくる。
重力は500倍では物足りないらしく、650倍まで上げていた。
「そろそろ…あいつも終わる頃かな」
ヤムチャはマーリンの方に視線を向ける。
相変わらず、目を瞑ったまま岩のように全く動かないマーリン。
よほど集中しているのだろう。
ヤムチャとマーリンは不眠で修行に打ち込んでいたが、プーアルとシルフは疲れたのか眠っている。
「そろそろええぞ…マーリン」
とうとう大界王神が口を開いた。
マーリンのパワーアップが終わったのだ。
その言葉を聞き、ゆっくりと目を開けるマーリン。
長い間目を瞑っていたため、眠っていたわけではないのだが数秒間景色が霞んで見える。
ぼんやりと見える大界王神の顔。
マーリンは完全に視力が回復すると、黙ってその場に立ち上がった。
そして自分の手先から足先まで、ゆっくりと見渡す。
「違う。手、足、いや、体全体の感覚そのものが違う」
「そりゃあ、わしがパワーアップさせてやったんじゃから当たり前だ。ほれ、早速スーパーなんちゃらの要領で気を入れてみい」
「む…普通にスーパーサイヤ人に変身すればいいのだろうか?」
238:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:04 qGq8L4NM
【111話】
「安心しろ、スーパーサイヤ人にはならん。そもそも、スーパーサイヤ人なんて邪道じゃわい!1000年に一度の戦士だかなんだか知らんが、元々邪悪な心が基に生成された変身に
過ぎん」
やたらとスーパーサイヤ人を批判する大界王神。
過去に何かあったのだろうか。
「とりあえず…やってみるぞ」
マーリンが大きく息を吸い込んだ。
その息遣いが聞こえそうなぐらい場に静寂が走る。
そして、一気に気を高めだすマーリン。
地面が僅かに揺れたと思うと、その揺れは徐々に激しさを増し、最終的には立っているのすら厳しいほどの揺れに変わる。
「はあああああ…ッ!!!」
ボフゥゥゥウゥゥンンッッッ!!!
ヤムチャの時と同様に爆音が轟き、かなり離れていたヤムチャまで足に力を入れて踏ん張らなければ吹っ飛ばされそうになるぐらいの突風が吹く。
一瞬でマーリンの範囲数十メートルにクレーターができ、凄まじい地面の揺れにプーアルとシルフも慌てて目を覚ました。
「あれが…お母さん…!?」
「す、凄いな…!見た目はほとんど変化ないのに…桁違いの強さになってやがる」
ヤムチャが小さく独り言を漏らす。
かなりのパワーアップを果たしたヤムチャだが、マーリンのパワーアップはそれ以上だった。
元の戦闘力が高い分、パワーアップの割合もその分大きいのだろうか。
スーパーサイヤ人の状態でもないのに、マーリンの体に途轍もない力が駆け巡る。
「信じがたいことだ…。スーパーサイヤ人の状態より、遥かに力が漲っている。わたしにここまで力があったのか…」
ヤムチャの体から冷汗が流れる。
いつの間にか、少しだけ身体も震えていた。
239:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:07 qGq8L4NM
【112話】
「……手の爪の先端まで力が漲ってくるようだ」
マーリンは大喜びしていいはずなのだが、余りに凄まじいパワーアップに、つい喜ぶことすら忘れてしまっていた。
「それにしても、このマーリンの気…どこかで感じたことがあるようなないような…」
遠くから見つめているヤムチャはふとその事で考え込むが、答えは出てこない。
すると、大界王神が呼ぶ声がする。
ヤムチャはすぐに駆け寄った。
「オホン。これにてわしらの役目は終わりじゃ。後は下界で大会まで修行を重ねることじゃな」
「はい!」
「無論、そのつもりだ」
ヤムチャもマーリンも大満足といった様子で、勢いよく答える。
大界王神は続けた。
「それからヤムチャよ。お主は以前、地球人は不利、サイヤ人は有利…そんな風に考えておったな?」
「え、ええ…まあ…そうだったかな…」
ヤムチャは不意を撃たれたのか、あやふやに答える。
大界王神の読心術によって、ヤムチャの頭の中は全て見透かされていたのだ。
「確かにサイヤ人のような圧倒的な力強さはないが、地球人は決して弱くはない。それに、サイヤ人にも負けん武器もある」
「と言いますと…?」
「まあ、それはいずれ分かるじゃろ…近いうちにな」
大界王神はホッホッホと意味深に笑う。
サイヤ人にも負けない武器…一体なんのことを言っているのだろう?
「地球まではわたしが送ります。地球の大会、是非見物させてもらいますよ」
ヤムチャ、マーリン、シルフ、プーアルの4人とも界王神の肩につかまる。
240:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:09 qGq8L4NM
【113話】
「本当に…本当に、お世話になりました!」
ヤムチャは一度肩から手を離し、最後に深く一礼する。
マーリンもそれを見て、口を開いた。
「わたしからも礼を言う。大会が終わったら、何らかの形であなたたちに礼をさせてくれ…」
マーリンの発言に対し、一瞬やらしいことを閃いた大界王神だが、最後は界王神らしく決めようと思い格好をつける。
「礼は地球の大会を見れるだけで十分じゃ。見せてくれよ…お主たちの暴れっぷりをな」
にこやかな表情でヤムチャたちに手を振る大界王神。
「それでは、地球へ移動しますよ!準備はいいですね?…カイカイ!」
4人と1匹がその場から消える。
つい数秒まで賑わっていた界王神界に、かつての静寂が戻った。
「頑張るんじゃぞ、ヤムチャ、マーリン…」
大界王神は届かない心の声をそっと口に出す。
「しかし、ヤムチャもマーリンも想像以上に力が上がったのう…。特に、あのマーリンというムスメ…以前ここにきた孫悟飯の息子のようなパワーじゃ。悟空たちが驚く顔が目に浮か
ぶわい」
そう言いながら、既に入れてあるお茶を寂しそうに飲み干した。
241:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:15 qGq8L4NM
【114話】
同時に、地球に4人と1匹の影が現れる。
「さ、地球に着きましたよ」
ヤムチャたちが辺りを見渡すと、そこは界王神界に行く前までいた荒野だった。
実質二日ぶりぐらいなのだろうけど、やけに懐かしい気分になる。
「わざわざ送っていただいてすみません、界王神様」
「いえいえ。情けない話ですが、この星々間の移動ぐらいしか私に手伝えることはありませんので…」
恥ずかしそうに笑いながらそう言うと、界王神は続ける。
「また、機会があれば会いましょう、皆さん!それでは……カイカイ!」
界王神はそう言うと、跡形もなく姿を消した。
しばらく間を置いてから、マーリンが口を開く。
「実に不思議な連中だった。瞬間移動は出来るし、パワーアップまでしてくれるとは…全く、ヤムチャに会うと相変わらず驚くことばかり起こる」
すると、ヤムチャは困ったような顔で答えた。
「でも、さすがに今回の事は俺にも予想外だった。まさか界王神様が直々にコンタクトをとってくれるなんてな…。モチロン、嬉しい誤算ではあるけどさ」
途轍もないパワーアップを果たした二人だったが、まだ戦いでその力を試していないため、いまいち実感が沸かないというのが正直なところである。
出来れば今すぐにでも己の力を戦闘で試したい。
しかし、二人とも彼是50時間以上睡眠をとっていないことに気付いた。
不思議なもので、今まで平気だったのに、そう考えた途端、極度の睡魔が二人を襲う。
話し合いの末、ヤムチャの提案により、二人は一旦修行は休憩して睡眠をとることにした。
ヤムチャの住処である洞窟に入り横になると、2人は1分もしないうちに深い深い昏睡へと堕ちていった…。
242:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:17 qGq8L4NM
【115話】
―
「ケッ…抵抗しても無駄なのは分かっている。早く殺せよ。それでお前の気が済むならな」
闇の中に男と女が立っている。
男は傷だらけだったが、女はほとんど無傷だった。
どうやらこの女がとことん痛めつけたらしい。
ズァッ!!
そして、止めを刺すためか女性の手からエネルギー波が放たれた。
言うまでもなく、男の体は粉微塵にバラバラになる。
唯一…体の一部である尻尾だけが、原形をとどめて無残にも地面に転がっていた。
「勘違いしているようだな。お前の死を持っても、わたしの怒りは消えないのだよ」
女性は捨て台詞でそう言い放つと、砂煙の中一歩、また一歩とその残骸に向かって近づいていった。
エネルギー波によって、地面のあちらこちらに火の粉が飛び散ったため、夜なのに昼間のような明るさになる。
その炎の明るさが、女性の顔がはっきりと照らし、映し出す。
それは…紛れもない若き頃の自分の顔だった。
ビュンッ!
その時、自分の顔の僅か数十センチ隣を弱弱しいエネルギー波が通過した。
当たってはいないのだが、エネルギー波が通過した際、一瞬真空状態になったためか、彼女の頬に軽い切り傷が出来た。
「お前は…サイヤ人を見くびりすぎだ」
と、バラバラになったはずの男の声が聞こえる。
辺りを見渡すと、エネルギー波を受ける際にわずかに体をずらしたのか、その体は上半身だけだった。
「…ククク…サイヤ人を倒しまくっているらしいが、お前自身がサイヤ人にやられる日もそう遠くは」
「死ね」
全て言い終わる前に、先ほどの倍はあろうかという威力のエネルギー波を男に向かって放つ。
再び爆発が起きると辺りは業火に包まれ、今度こそ男の体は跡形もなくバラバラになった。
その死に様を見て、女性は狂気に満ちたように、どこか不気味な薄ら笑いを浮かべている…。
そして、その世界は闇へと戻っていった。
243:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:19 qGq8L4NM
【116話】
誰かが呼ぶ声がする。
僅かに暖かい感触を首筋に感じる。
どうやら体を揺すられているようだ。
「おい、大丈夫か…?」
目の前に男がいる。
いや…自分はこの男の名前を知っている。
「……ヤムチャ?」
「お前…だいぶ魘(うな)されていたぞ。心配していくら呼んでも起きないしな…ったく、相変わらず寝起きの悪さは天下一品かよ!」
笑い飛ばすようにヤムチャは言うと、小さい皿を差し出す。
上には何かの肉が乗っていて、食欲をそそる甘辛い匂いがする。
「食え。朝飯だ。俺たち丸一日ぐらい眠っていたらしいぜ」
「…ここは…」
キョロキョロと辺りを見渡すと、美味しそうに鍋を食べるシルフとプーアルがいた。
ようやくマーリンの記憶が現実と一致する。
「そうか…わたしはカイオウシンという者に会って、修行して…疲労で寝てしまったのだったな」
「はは、いつまで寝ぼけてんだよ」
ヤムチャは何が面白いのか、爆笑しながら言った。
「すまない…数年前の出来事がそのまま夢に出てきて…」
そこで、一旦マーリンの口がとまる。
「ん…?出てきて、なんだ?」
「いや…なんでもない。もういいんだ…もう、終わったはずなんだ」
ヤムチャが突っ込むが、マーリンはそれ以上語ろうとしなかった。
ヤムチャもあえて、それ以上追求することをしなかった。
「さて…飯が食い終わったら修行を始めるか。ていっても、この短期間で何が出来るのやら…」
ヤムチャはスプーンを口にくわえながら、あと10日で何が出来るか考え込む。
かなりのパワーアップを果たしたとは言え、ヤムチャは自惚れることなく、まだ自分は悟空に勝てるレベルでないと踏んでいたのだ。
244:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:21 qGq8L4NM
【117話】
スプーンを口から出し、それを空っぽの皿に投げるようにおくと、ヤムチャはマーリンに言った。
「マーリン。今から新技の開発をするにも、大会までに間に合うかどうか微妙なところだ。だから、俺は基礎トレーニング以外はお前と組み手して、実戦での感覚を鋭くした方がいい
と思うんだが、お前はどう思う?」
それを聞いて、むむ…っと腕を組みながら考え込んだマーリンだったが、やがてヤムチャと同じ結論に至る。
「そうするしかないか。やれやれ…果たしてヤムチャに今のわたしの相手が務まるかな?」
マーリンは冗談っぽく笑いながらヤムチャに言う。
もちろん、これはマーリンに自信があるからこそ言えることでもあるが。
「へっ…!そんな事言いながら、俺の強さにビビって小便漏らすなよ」
「ふふ…わたしが漏らすのは、ため息の方じゃないかな?」
一方、強がりを言うヤムチャだったが、確かに今のヤムチャより、マーリンの方が力は上だった。
しかし…これはヤムチャにとって、これ以上にない恵まれた修行になる。
自分より弱い者、もしくは同等レベルの者との組み手と、自分より格上相手との組み手では訳が違う。
当然、それに気付いていないヤムチャではなかったからこそ、力の差が分かりつつも組み手をしようと結論になったのだ。
一方、口ではこんなことを言っているマーリンだが、内心は自分も早く力を試したくて、うずうずしていた。
食事を済ませると、後片付けはシルフとプーアルに任せ、ヤムチャたちはさっそく修行に取り込むことにした。
「んじゃ、基礎トレーニングから始めるぞ」
ヤムチャとマーリンは重力発生装置に二人で入る。
「とりあえず、重力500倍ぐらいから慣れていこうか。気はある程度使っていいが、体に負荷が掛かる程度にな。使いすぎたら楽過ぎてトレーニングにならないし」
「分かった。しかし、500倍程度では物足りないだろうな」
「当然、日に日に重力は上げていく。一日100G上げていくつもりだ。つまり、明日は600倍、明後日は700倍…大会5日前には1000倍の重力にするつもりだ」
マーリンはふーん、となんとなしに相槌を打つ。
245:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:23 qGq8L4NM
【118話】
「じゃ、腕立て、腹筋、背筋をそれぞれ100回ずつで午前は3セットな。休憩は1セット終わってから5分間だけ取ること。で、3セット終わったら昼飯食って、午後からはひたすら組み手だ。
で、日が沈む頃に組み手は中断して、さっきの基礎トレーニングをもう3セットやる。どうだ?」
ざっくりと聞いた感じ、かなりきつそうなスケジュールだ。
トレーニングをこなしている自分を頭の中で想像すると、マーリンは昔ヤムチャにこっ酷く扱(しご)かれた修行の日々を思い出した。
かつての苦い思い出により、一瞬顔が引きつったマーリンだったが、ブンブンと首を振って、それを無理矢理振り払う。
少なくとも、今の自分はあの頃の自分とは比較にならないほど強くなっている…はず。
そう自分に言い聞かせるが、何故か嫌な予感が消えない。
「ヤムチャも同じことをやるなら、わたしだって出来るはず…」
「甘いな、マーリン。その思い上がりが今に痛い目を見るんだぜ」
その言葉で、マーリンのこめかみがピクリと動く。
「…言ってくれるな、ヤムチャ。こうなったら意地でもやってやる…!」
ヤムチャの一言で、マーリンの闘争心に火がついた。
腕を数回グルグルと回すと、いつでもやれるぞと言わんばかりにマーリンは腕立て伏せの構えを取る。
「ヤムチャ、早く重力を上げろ!」
先ほどまでの不安はどこにいったのか、マーリンは重力を上げるように急かす。
「やれやれ…まあ、その方がお前らしいっちゃらしいけどな」
ヤムチャはそう言うと、中心部の機械で重力を500倍に設定すると、自らもマーリンの隣で腕立て伏せの構えを取る。
二人はその構えを取ったまま、数秒目があったが、やがて地面を見つめだす。
ジワジワと重力が上がっていく…100倍…150倍…300倍……500倍!
ずっしりとした重みが二人にのしかかった。
246:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:25 qGq8L4NM
【119話】
二人は勢い良く腕立て伏せを開始した。
気はある程度の負荷が体に掛かるくらいまで引き上げるだけで、それ以上は気を高めずに行うトレーニング。
マーリンとヤムチャは平等になるように、気を同じくらいの大きさに合わせた。
最初は同じくらいのスピードで進めていた二人だが、徐々にマーリンがペースを上げる。
「ふふふ…早くも…42…ペースが…43…遅くなってきたな…44、45…ヤムチャ」
すると、ヤムチャは気にしていないかのように、マイペースに動作しながら答える。
「32…動作が速けりゃ…33…いいってもんじゃないんだぜ?…34…遅い方が体に負荷がかかって修行になるんだ…35…お前は腕立て伏せの世界チャンピオンになりたいのか?
……それとも、己の体を強くしたいのか、どっちなんだ?…36…37…」
「~~!!」
ヤムチャに一本取られて悔しかったのか、マーリンは腕立て伏せを体地面スレスレの一番きつい所で十数秒止めて見せる。
そして、その状態から体をゆっくりと数センチずつ上げていった。
「………ッ53!!ふふっ…どうだ、ヤムチャにはここまでする根性は…54…」
無理をしたことによって息が上がってきたマーリン。
あごから汗が滴り落ちる。
ヤムチャはその様子を見て、面白そうに笑った。
「はは…どうでもいいけど…38…最初からカッコつけてバテるなよ?100回だからな、100回!…39」
「………」
自分を褒めてくれなかったヤムチャに、少しだけ冷たさを感じたマーリン。
しかし、言われてみれば、無理をしたせいで腕に負担がかかったのか、最初より体が重く感じられる。
気を入れれば、楽に体が持ち上がるのだろうけれど、それは自分のプライドが許さない。
ヤムチャも自分と大体同じ大きさの気でトレーニングをしているため、苦しさは同じはずなのだ。
それなら、なおさら負けるわけにはいかない!
「まだまだっ…!」
マーリンとヤムチャは張り合うように、500倍の重力の中基礎トレーニングに励んでいった。
247:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:27 qGq8L4NM
【120話】
太陽が一番高い位置に上がる頃、ようやくヤムチャたちが重力発生装置から出てくる。
「ふーう…体中いてえな…。でも、重力が1Gになった時に感じるこの体の軽さは最高だぜ!」
ヤムチャは汗をダラダラ流しながらも、気持ち良さそうに外の空気を吸う。
一方、マーリンには結構ギリギリだったようで、手はぶらんと垂れ下がり立っているのも辛そうだった。
それもそのはず、気の強さが同じなら後は筋肉の強さと持久力で疲労度が変わる。
当然、男で筋肉の量が多いヤムチャの方がマーリンより楽は楽なのだ。
もっとも、マーリンはこのことには気付いていないが。
「さて、だいぶ参っちまってるみたいだけど、午後からは組み手だからな。まあ飯でも食ってゆっくり休んどくことだ」
「…ああ、分かっている」
力なく言葉を返すマーリン。
どうやら疲弊しきっているみたいだ。
そこへプーアルがフワフワと飛びながら近づいてきた。
「ヤムチャ様、マーリンさん、お疲れ様です!シルフさんと一緒にカレーを作りましたので、どうぞ温かい内に召し上がってください!」
それを聞いて、マーリンの目の色が変わる。
「おう、ご苦労だった、プーアル。さっそく飯にしようぜマーリ……ってあれ?」
ヤムチャが名前を呼びかけた時には、さっきまで隣に居たマーリンがいつの間にか消えていた。
と思いきや、彼女は50メートルほど離れた場所にある鍋の前に既に座り込み、皿に溢れんばかりのカレーを盛りつけている。
あまりの速さにあっけに取られながらマーリンを見つめるヤムチャ。
その視線にマーリンも気付き、キョトンとした顔をする。
「…?どうした?早く食べないと冷めてしまうぞ」
「…そんなすぐには冷めねーよ、っていうか移動するのはえーよ!」
突っ込みをいれるヤムチャだったが、お構いなしにマーリンはカレーを口にする。
言うまでもなく、その日カレーを一番食べたのはマーリンであった。
248:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:30 qGq8L4NM
【121話】
「…お前さ、……何杯食った?」
腹も膨れたのか、満足そうにに壁に寄りかかってリラックスしているマーリンを見て、ヤムチャは言う。
「いちいち数えていないが…5杯ぐらいかな?」
「…その2倍だよ。その細い体の何処にこれだけの食いもんが入るんだか…」
鍋いっぱに入っていたカレーはすっからかんとなり、マーリン以外は一杯しか食べていない。
ヤムチャはまじまじとマーリンの腹を見つめる。
食べ終わってからさほど時間は経っていないのだが、既に消化が進んでいるようで、マーリンの腹はほとんど出っ張ってなかった。
胃腸の機能がよほど優れているのだろう。
「力も蓄えたことだし、フルパワーでヤムチャの相手が出来るな。ふふ…死ぬなよ、ヤムチャ」
「はは…大会の前に死んだとあっちゃ、今までの初戦敗退より惨めだな…」
ニヤニヤとしながらヤムチャを見つめるマーリン。
対するヤムチャは苦笑いをしていた。
二人とも冗談っぽく笑っているが、この後ヤムチャは本当に死にそうになるくらいマーリンに甚振られることになる。
――。
ドドド…ガガガガッッ!
空中に、二つの影が見える。
その影は高速で移動し、ぶつかっては離れ、離れてはぶつかってを繰り返していた。
肉と肉、骨と骨が激しく衝突する音と、風を切る音が、轟音となり静かな荒野に響き渡る。
「ハイハイハイーやッッ!!」
一瞬で数十発と繰り出したヤムチャの拳が、全てマーリンの顔面スレスレで空を切る。
「遅いッ!…はっ!」
何十発目かのヤムチャの手刀を手の甲でガードすると、一瞬ヤムチャの動きが止まる。
マーリンはそこで無造作に体から気を放ち、ヤムチャはその風圧で後方に吹っ飛んだ。
どうにか倒れず踏ん張るが、ヤムチャの表情は強張っていた。
「ち…っ!!」
かなり力を上げたヤムチャなのだが、やはりマーリンにはまだ及ばない。
249:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:35 qGq8L4NM
【122話】
「…はぁ…はぁ……、さすがに…強いな。肉弾戦で正面からまともにぶつかりあってちゃ何をしても歯がたたねえ……!」
「そんなことはないぞ、以前よりかなり技のキレが上がっている。パワーアップ受ける前のわたしではおそらく敵わなかった…」
両者は距離を取り、一時休戦なのか、気を練ることをやめた。
「俺のどこが悪い?マーリンから見た感じだと」
ヤムチャはプライドを捨てたのか、弟子であるはずのマーリンにアドバイスを求める。
しかし、自分の動きとは意外と分からないもので、客観的に見てもらった方が良くない点は分かりやすいのだ。
「うー…ん…そうだな…例えば……」
マーリンは首を傾げながら考え始める。
「わたしが思うに、ヤムチャはこれといった決定打がないのが惜しい。ある程度は追い込んでくるのだが、そこからのパンチ力がヤムチャには足りないのではないかな…?」
「決定打……ねえ。確かに言えてるかもしれない。よく見てるな、お前」
ヤムチャは感心したように言う。
「それから、状況に関係なく肉弾戦に拘り過ぎではないか?力で劣る相手には、わたしが以前ソンゴクウにとった作戦のように、業で翻弄して相手に隙を作り、そこをピンポイントで攻める方がヤムチャもやりやすいはず…」
「なるほど…。トリッキーになれってことね」
ヤムチャはマーリンの説明に首肯する。
これはまさにマーリンの言うとおりだった。
ヤムチャの戦闘スタイルといえば、牽制の狼牙風風拳で相手の体勢を崩し、隙ができたところに単発で強めのパンチや蹴りを入れるというスタイルが多かった。
しかし、これでは狼牙風風拳が相手に通用しなければ、相手の体勢も崩れないし、隙もできない。
つまり、ヤムチャにはそれ以上攻めようがないというわけだ。
結果的に、ヤムチャは雑で無謀な攻めを繰り返すことになり、それが自分の隙となってしまう。
そして、気づいたら防戦一方になってしまい、何もできずに負ける。
大げさに言うならば、ヤムチャは猪突猛進で隙だらけだった。
「俺は攻めパターンが限られていたのか…だから格上には善戦すら出来なかったわけだな…」
250:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:37 qGq8L4NM
【123話】
力のない子供が、力のある大人に単純に真っ直ぐ突っ込んでいっても、結果は目に見えている。
そんな当たり前のことすら気づけなかった自分が、少し情けない気すらした。
以前、マーリンに『お前の攻撃は分かりやすい』などと偉そうなことを言っていた自分がなんだか恥ずかしくなってきた。
「……このやり方じゃ、俺は悟空や悟飯どころか、ベジータやピッコロにすら勝てない…か」
言葉こそ自嘲的なものだったが、ヤムチャは落胆とも絶望ともつかない表情で、むしろ何かを見据えているような顔つきだった。
「でも…今、自分の悪い点に気づけたわけだからな。まだ改善のしようがあるってわけだ…この残り10日の間に!」
ヤムチャはマーリンには気づかれない程度に僅かにはにかんだ。
それに気づいたのか気づかないのか、マーリンも僅かに笑う。
「ふふ、そうだな。そこを少し自分で考えながら、戦術を練ってみるといいかもしれない、ヤムチャは…」
マーリンはヤムチャにそう告げると、再び構えを取る。
「組み手の続きをやるぞ!次はわたしが言ったことを踏まえて、かかってくるんだ!」
ヤムチャは数秒だけマーリンを見つめて黙考するが、すぐに吹っ切れたのか、やがて自らも構えを取る。
「ああ…!バリバリやらせてもらうぜ、マーリン!……っうらぁぁあ!!!」
掛け声とともに、界王拳を使わずして戦闘力100万近くはあろうかという、ヤムチャの体がマーリンに向かい、躍進する。
まるで、獲物を追う狼のようなその目つきは、若き頃…自信に満ち溢れていた頃の輝きを取り戻していた。
「こい、ヤムチャ!」
再び二人の肉体と肉体は激しくぶつかり合い、お互いの体を傷つけあう。
だが、それとは対照的に、二人の気持ちは傷付くことなく、むしろ修行を重ねることによってより一層強くなっていった。
251:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:40 qGq8L4NM
【124話】
――そして、時日は流れ、大会前日の夜…。
辺り一面に湯気が立ち込め、ボンヤリとだがくっきり人の形が見える。
ヤムチャたちは前に訪れたことのあるオアシスにいた。
前と同じように気のエネルギーで水を加熱して、人口の温泉を作って温まっている。
「ふー…実に心地よい…。それにしても、わたしの湯加減は最高ではないか?ふふ…褒めてくれていいのだよ、ヤムチャ」
気持ちよさそうに大きなため息をつくと、マーリンは歌うようにヤムチャに話しかけた。
マーリンは大胆にもオアシスの端っこに寄りかかりながら、両手のひじを地面に掛けている。
誰も見ていないが、当然上半身の大事なところも丸出しとなっていた。
「あ、あ、ああ…最高、最高だよ。だからずっとそこにいろよ?こっちにくるんじゃないぞ?」
ヤムチャは何度も念を押すように言った。
マーリンの目の前には、肩まで潜って自分に背を向けてるヤムチャがいた。
ほとんど肌なんて見えないが、少し耳たぶが赤くなっているのは、お湯で熱いせいなのか、それとも……?
そんなヤムチャを、なんとなくかわいく思えてきたマーリンだった。
「いよいよ…明日だな」
ヤムチャは背中を向けながらマーリンに喋りかける。
「ああ…。わたしたちは、やれるだけのことはやった。あとは明日、後悔しないように精一杯戦うだけだ」
「うんうん、俺は俺で色々戦法を考えたしな…って…うわ……!」
いつの間にかマーリンがヤムチャの真後ろまできていて、その手がヤムチャの肩にそっと乗せる。
冷たいわけではないのに、ヤムチャはヒヤッとした感覚だった。
そして横目でチラッとその手を見ただけなのだが、白くて実に綺麗な肌をしていた。
「お、おい、急になんだよ!裸なんだぜ?俺たち!」
ヤムチャは動揺しながらも、ちょっと嬉しそうに叫ぶ。
252:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:43 qGq8L4NM
【125話】
「ふっふっふ…そいつはすまなかったな?」
その慌てようが実に面白くて、マーリンはそう言いつつ更にべったりとヤムチャにくっついた。
マーリンの上半身がヤムチャの背中に覆いかぶさるように触れる。
「ぎゃああああ!!!!」
叫ばずには言われなかったのか、先ほどより更に大きい声でヤムチャは喚き散らす。
それを見て、あっはっはっは!と大声で笑うマーリン。
しばらくしてからようやくヤムチャは落ち着き、話を元に戻した。
「今日は一切修行はせずに休んだから、体のコンディションはバッチリのはずだ。天界の塗薬も塗ってあるから、体のアザもほとんど治ったしな」
自分の体の状態を確認しながらヤムチャは言う。
マーリンもそう言われて、自分の体を見渡してみた。
確かに今まであった修行で出来た青いアザは消えていて、白い肌だけが見える。
「なあ、ヤムチャ…」
マーリンはヤムチャのすぐ後ろで囁く。
「うん?」
いつもより近くで聞こえるマーリンの声に、ヤムチャは少しだけドキドキしてきた。
「負けるなよ…お前の仲間たちに…もちろん、ソンゴクウにもな!」
「…ああ。負けない。お前も負けるんじゃないぜ」
いつもと変わらない声だったが、はっきりと分かる力強い声。
「ふふ、誰に言っているのだ?当たり前だろう」
マーリンはその声を聞いて安心した。
「見ろ、マーリン。星が綺麗だぞ!」
ヤムチャは空を指差す。
マーリンが空を見上げてみると、そこには無数の星が光輝を放っていた。
「…美しい夜空だ。わたしの星の光も見えるかな…」
「ああ…。目を凝らせば、きっと見えるはずさ」
二人はくっ付きながら、しばらくその夜空を見つめていた。
いつの間にか、お互いの手を強く握りながら…。
253:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:45 qGq8L4NM
【126話】
―。
まだ午前8時だというのに、既に会場には数万人の人だかりが出来ている。
そのほとんどは、先着100名限定と言われているミスターサタンの直筆サイン入りTシャツが目的のようだ。
同時刻、会場の外れに一台の車が止まる。
「…久しぶりだな、選手としてこの大会に足を運ぶのは」
そう言いながら、運転席から姿を現したのは、全身スーツでびしっと決めているヤムチャだった。
「何度も言うが…ずいぶんと肩が凝りそうな服装だな、ヤムチャ…」
助手席からマーリンがそっと降り立つ。
マーリンはヤムチャにこの前買ってもらった服を着ていた。
なんだかんだで気に入ってるらしい。
後部座席からは、シルフとプーアルが飛び出すように出てきた。
「い、いいんだよ!あとでどうせ着替えるし…」
ヤムチャは若干不満そうに言うと、車をカプセルの状態に戻した。
「それから…この遅い乗り物に乗った意味も教えてもらいたい。途中まで普通に飛んできたのに…わざわざ会場の少し手前でこれに乗り換えたのは何故だ?」
「だってさあ…車に乗って来た方が、傍から見てかっこよくないか?」
「………」
そんな他愛もない話をしながら歩いているうちに、ヤムチャはふと視線の先に、人ごみの中歩く悟空たちの姿をとらえた。
「お、あれは悟空たち!おい、マーリン、シルフ、プーアル。悟空たちに合流するぞ」
ヤムチャはそう言って、若干小走りで悟空たちのもとへと駆け寄っていった。
他の者もそれについていく。
254:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/20 01:47 qGq8L4NM
更新遅れてすみませんでした。
本日は少し多めに更新ということで勘弁してください。
仕事の都合上、1月はあまり時間がとれないもので…。
それでは、おやすみなさい。
255:Classical名無しさん
09/01/20 22:02 FsDadAPM
いきなり更新が進んでてびっくりした。乙です
256:Classical名無しさん
09/01/25 09:16 fe0/JHYc
日曜で時間が取れる!
一気に読ませて頂きます。連貼り乙です
257:Classical名無しさん
09/01/25 19:38 im3n8bGs
マジでいつも楽しみにしてます。
次の更新期待してます!
258:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 00:55 qm/c.RRk
【127話】
「やあ、みんな!悟空とピッコロ以外は久しぶりだな!」
見渡せば見渡すほど、懐かしい顔ぶれが並んでいる。
悟空、悟飯、悟天、チチ、牛魔王、ビーデル、クリリン、18号、亀仙人、ウーロン、海がめ、ベジータ、ブルマ、トランクス、ピッコロ。
ヤムチャはいつものお調子者キャラで仲間たちに挨拶を交わす。
「オッス、ヤムチャ!」
悟空は一番に挨拶を返すが、ベジータとピッコロと18号はいつも通りヤムチャを無視していた。
悟空は続ける。
「今は気を抑えてるみてえだけど、オラには分かる。この短期間で相当鍛えてきたな…おめえら」
「はは…まあな」
本当は修行だけじゃなくて潜在パワーを引き出してもらったおかげの方が大きいんだけど…とヤムチャは心の中でつぶやく。
他の者もヤムチャの声に反応し、その方を向いたが、やがてその視線はすぐヤムチャの背後に居る見覚えのない者…マーリンに移っていた。
「ピッコロさん……あの、ヤムチャさんの後ろにいる人…」
「ああ、間違いない。以前孫に勝利した女だ」
ピッコロと悟飯は周りに聞こえないように静かに言葉を交わす。
そして、その集団の中からひょっこりと背の小さい男が前に出てくる。
もう昔とは似ても似つかないフサフサヘアーで、腕には泣き喚く子供を抱えていた。
「お。クリリンじゃないか、懐かしいな」
「お久しぶりです、ヤムチャさん。…ところで、なにげにカワイイ女の子連れてますね!新しい彼女ですか?」
クリリンは肘でヤムチャをツンツンとやりながらやらしい顔つきで言う。
「あ、ああ…彼女というか奥さんというか…こいつは…その、あれだ、うん」
ヤムチャは喋りながら頬を赤らめると、語尾にいくにつれて段々と声が小さくなっていった。
「え?何て言いました?声が小さくてよく……」
「あーーーーーーーーーーーーーーっっ!!その子はあの時の……!?!?」
そのとき、突如ベジータの隣にいた女性が大声を出しながらマーリンを指差した。
259:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:00 qm/c.RRk
【128話】
「…ブルマ、か」
ヤムチャはどこか寂しげな顔でその名を呟く。
マーリンは自分のことを指差しているブルマに気づき、その顔をしばらく見つめていたが、ようやく以前彼女と会った時の事を思い出した。
「どこかで見たことあると思ったら…あの女…。そうか、ソンゴクウと戦う前に少し出てきたあいつだな。あの様子だと、やはり、ベジータというサイヤ人の王子と…」
女の勘は案外当たるもので、マーリンは以前初めてベジータとブルマを見た時から、あの二人はくっつくのではないかと踏んでいたのだ。
どこか勝ち誇ったような顔をし、ブルマを見ながらマーリンは微笑する。
「な…何よ!今笑ったわね!何がおかしいのよ!」
ブルマはツカツカとハイヒールの音をたてながらマーリンに歩み寄っていった。
「地球の女…ブルマ、と言ったかな?お前がそこのサイヤ人と仲良しになってくれたおかげで、わたしとしては非常に好都合だった。礼を言わせてもらうよ…ふふ」
マーリンはベジータを横目で見ながらブルマに向かって言った。
「な…好都合ですって?どういうことよ、それ…!」
おそらく、分かってないフリをしているだけで、マーリンの言う好都合という意味がブルマだけには分かっているのだろう。
ブルマはマーリンの顔を物凄い形相歯軋りしながら睨むが、マーリンは一歩も退こうとしない。
騒がしくなってきた所でようやくベジータがマーリンの存在に気づいたのか、組んでいた腕を下ろしてマーリンに歩み寄り、ザッとブルマの前に出る。
「おい、貴様…!…以前、そこの地球人と一緒に居た、サイヤ人殺し…“サイヤンキラー”のマーリンだな…?」
ベジータにしては珍しく声を荒げて、マーリンに食いつく。
言うまでもなく、そこの地球人とはヤムチャのことだ。
数年ぶりとはいえ、さすがにマーリンはベジータの顔と声を覚えていた。
「ふふ…ずいぶんと懐かしい話をしてくれるな、ベジータ。その件に関しては、とうの昔に手を洗ったのだが?」
興奮気味のベジータに対し、マーリンはそれほど熱くならずに答える。
260:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:02 qm/c.RRk
【129話】
「おいおい、サイヤ人ゴロシ…って?悟空、ベジータのやつは何言ってんだ?それにあの女の子…なんかブルマさんやお前とも面識あるみたいだし…どういうことだよ?」
クリリンはこの流れについていけず、悟空に訊ねる。
あとで説明する、とだけ悟空はクリリンに言うと、何が楽しいのか口元を緩めながらベジータとマーリンの会話に再び聞き入ってしまった。
他の者もクリリンと同じようなことを胸に思っていたが、話しかけにくいムードで聞き出せない。いきなり現れた女性と、それを連れてきたヤムチャ、初対面と思いきや以前から因縁がありそうな悟空やベジータ…それにピッコロと悟飯もこそこそ話しているし、何か知ってそうだ。
クリリンたちの頭は益々混乱する。
そんな中、ベジータの気がわずかに膨らみ、周囲数メートルの空間が歪みはじめていた。
だが、当然そんな程度で怖気づくマーリンではない。
「フン…まあいい。それよりどうして貴様がここにいる。そして、ここにいる目的はなんだ。答えてもらおうか」
「いちいち説明するのも面倒だ。自分で勝手に想像しろ」
マーリンは言葉少なくベジータに返す。
偶然にも、いつだか自分が言った事のある台詞をそのまま言われてカチンとくるベジータ。
一方マーリンの方もしつこくベジータに絡まれて頭にきてそうな感じだった。
今にも喧嘩が起こりそうなところに、ヤムチャが仲裁に入る。
「はいはいはいはい、そこまでー!ベジータもマーリンも昔のことは水に流そうぜ、せっかく久しぶりにこうやって顔を合わせるんだからさ。あんまり良い思い出とは言えないかもしれないけど…」
「どいてろ、貴様には関係のないことだ。サイヤ人の王子として、この俺がこいつを―」
と、そこで全て言い終わる前に悟空がベジータの肩にポンと手を置く。
261:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:05 qm/c.RRk
【130話】
「まあいいじゃねーかベジータ。もう手ぇ洗ったって言ってんだしさ。どうしてもってんなら、試合でケリをつけようぜ。戦士らしくよ?」
悟空が宥めると、ベジータは舌打ちし、再びマーリンを数秒睨み、一人控え室のある方向へと向かっていった。
「チッ…!覚えておけ、試合で必ず貴様を叩き潰す。たっぷりと前の礼をしてやるぜ…クソッタレ」
と、捨て台詞を吐きながら。
「やれやれ…恨まれたものだ」
マーリンはその後ろ姿を見ながら、呆れたように言う。
その様子を見てヤムチャもマーリンに声をかけた。
「ははは…あいつ、プライドめちゃくちゃ高いからな。前にお前に負けたこと、そうとうショックだったんだろ。大目に見てやってくれ」
たしかに、ベジータにとっては余りにも屈辱的だった敗戦だった。
悟空とマーリンの決闘に勝手に割り込み、そして数分としないうちにマーリンに捻じ伏せられた。
そして、地球もろとも吹っ飛ばす決死の覚悟でギャリック砲を放つが、マーリンに跳ね返される。
結局は死にそうになったところを、悟空の瞬間移動によって助けられるという、誰がどう見ても恥ずかしいかませ犬でしかなかった。
そのベジータも、あの時点とは比べ物にならないほど心身ともに強くなっているのだが。
だが、ベジータを構うヤムチャにマーリンは納得がいかなかった。
「ベジータはわたしと共にこの星を消そうとしたんだぞ…?わたし自身、もうサイヤ人に対する恨みの念はさほどないのだが…あいつには微塵も好意を寄せれそうにもないな…」
そう言ってマーリンは控え室に向かい歩いているベジータの背中を睨む。
「そう言うなって。あいつ自身、お前がいない間に結構成長したんだよ。家族のために、命と引き換えに魔人ブウを倒そうとしたりな…」
「……。わたしには、関係のないことだ」
マーリンは一瞬何か口ごもったが、そう言って、ベジータを認めようとはしなかった。
262:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:07 qm/c.RRk
【131話】
「ちょっとちょっとちょっと、あたしを無視しないでよ?!大体アンタとヤムチャはどういう関係なのよ?っていうかアンタ宇宙に帰ったんじゃないワケ?あ…、別に、ぜーんぜん興味なんてないんだけどね、ヤムチャとかアンタなんかに!」
ブルマはしつこくマーリンの耳元でガミガミと喚く。
こんなうるさい女のどこにヤムチャは惚れたんだろうか…と、マーリンは迷惑そうな顔を浮かべながら思った。
と、そこに、ヤムチャがやたらマーリンの近くに立つ。
「それはな…こういうことだよ、ブルマ」
ヤムチャはブルマにそう言うと、その太い右腕でマーリンの体をギュッと数秒抱きしめる。
「…ヤ、ヤムチャ…?何を…」
突然のことにマーリンは戸惑いの声をあげるが、ブルマたちはそれ以上に驚いた顔をしていた。
さすがのマーリンも、人前で抱かれることは恥ずかしいのだろう、普段はクールな表情が少し崩れていた。
そして、ヤムチャはそばに居たシルフを手で招くと、シルフを肩車し始める。
「よっと…俺たち、家族なんだ。こいつは妻でマーリン、こいつは息子でシルフ。これからたまに世話になると思うけど、よろしくな、みんな!」
「え……ええええええええええええええーーーーーーーー!??!?」
ブルマ以外の者たちも、このヤムチャの爆弾発言には驚いていた。
「ヤ、ヤムチャさん…結婚していただか?全然知らなかっただ…。悟空さは知ってたか?」
「あー、オラもついこの前知ったんだ」
「と、父さん…!あの人が地球に来ていることは聞いてましたが、ヤムチャさんの奥さんになっていたなんて聞いてませんよ…」
「わりいわりい、言わねえ方が驚くかなって…。でも、それって悟飯がそんな気にするようなことか?」
「あ、いや…そういうわけじゃないんですけど…」
どことなく顔が赤くなっている悟飯と、それを冷ややかな目で見つめるビーデル。
「悟飯くん、年上が好みなのねえ…」
「いや、ほんとにそういうあれじゃ……ねえ、ビーデルさん!違いますよ!?」
すぐにそれを誤解だ誤解だと言う悟飯だが、ビーデルはそっぽを向いてしまった。
そんなビーデルと悟飯を見て、なかなか絵になるカップルだな…とヤムチャは思う。
263:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:15 qm/c.RRk
【132話】
「恋愛というやつか…分からない」
ピッコロは一人そう呟くが、誰も聞いていない。
「ヤ、ヤムチャさん!どうして結婚していたことを教えてくれなかったんですか!子供がそれだけ大きいってことは…オレの子供より前ですよね…?」
クリリンがあたふたしながらヤムチャに質問する。
「いやー、はは…。そろそろ話してもいいかな。実はさ…これはもう何年も前の話になるんだけど…――」
ヤムチャはそこで、初めて仲間たちにマーリンとのことを説明した。
マーリンがサイヤ人に恨みを持っていて、地球にいると言われていたスーパーサイヤ人を倒しにここへやってきたということ。
そして、元はといえば勘違いから始まったヤムチャとの戦い、そしてヤムチャとの修行の日々。
大激戦とも言える、ベジータ、悟空との戦い…その結果と、その後地球を去ったという話。
最後に、ヤムチャが約2週間ほど前に、ドラゴンボールを使って地球へ呼び寄せたということを話す。
大雑把に説明したため、説明自体は5分ほどの軽いもので終わったが、関わった人物以外は全く知らなかった裏のストーリーを知り、一同は信じられない表情を浮かべ、唖然としている。
「ヤムチャ…やーっぱりアンタ、その子とあの時点で“出来てた”んじゃない!!!!!この変態!ロリコン!!」
ブルマは大の大人だというのに、ヤムチャの悪口をバンバンと言う。
ロリコンという単語の意味は分からなかったが、それを気分悪そうに聞くマーリン。
力もなさそうなこの女が何故あんなに威張っていて、そして何故誰もあの女に言い返さないのか不思議でしょうがなかった。
「お…おいおい、何を言ってるんだブルマ。先に気持ちが俺よりベジータに傾き始めたのはお前の方だろ?気付かないと思ってたのかよ…。だから俺はカプセルコーポから荒野に移って一人修行を始めたっていうのに…とんだご都合主義だな…。そして、俺はロリコンじゃないっ!」
ヤムチャはすかさず反論する。
ロリコンじゃないというところを若干強調して。
264:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:21 qm/c.RRk
【133話】
「そうですよー、ブルマさん。せっかくヤムチャさんに奥さんと子供が出来たって言うのに、その言い方は…」
「なによなによ!私が悪いって言うの!?大体クリリン…アンタもアンタよ!それになんなのよ、その髪型は!」
「えええ?そこでオレにきますか?しかも…髪型は関係ないじゃないですか…これ結構イケてると思ってるんですけど…」
クリリンが仲裁に入るが、ブルマのとばっちりを受けて落ち込んでしまった。
ヤムチャとブルマの間に嫌な空気が立ち込める。
睨み合う二人だが、周りの者は、やれやれまた始まったよ…と言わんばかりの呆れ顔だった。
「大根だかラジコンだかしらねえけど、人が集まらねえ内にとっとと受付しちまおうぜ。そのために早くきたんだしよー」
悟空が受付をするために並んでいる人だかりの最後尾に立ちながら、こちらに向かって言葉を投げかける。
「フン…。大体ヤムチャやアンタが出たって孫くんやベジータに勝てるわけないんだからね!」
ブルマは毒づくが、ヤムチャは全く気にも留めずに言い返す。
「確かにそうかもなあ。でも、出場しなければいつまでたっても勝てる可能性はゼロだ。けど、出場すれば…勝てる可能性は、少しはある…だろ?それが例え万一の可能性にしても、な。違うか?ブルマ」
ヤムチャがそういうと、ブルマは悔しそうに黙り込んでしまう。
「ふふ…大人になったな、ヤムチャ」
マーリンがその隣で声をかける。
「あ、ああ。……って、お、お前がそれを言うか!?」
そのヤムチャの突っ込みで、マーリンとヤムチャは大笑いをする。
ブルマはその様子を複雑な表情で見つめていた。
「もう、勝手にすればいいじゃなーい!精々恥じかかな………あれ?トランクスは?」
265:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:23 qm/c.RRk
【134話】
一方、ここは会場の裏…いわば普段は誰もいない場所だ。
こちらでも小さな小競り合いが起きていた。
「…で、何?いきなりこんなトコに呼び出してさ」
「なんでもねーよ。ただ、オマエに一つ、いい事を教えてやろうと思ってさ」
黒髪の少年と薄い紫の髪の少年が対峙していた。
どうやら薄い紫の髪の少年が黒髪の少年を呼び出したようだ。
黒髪の少年の方が少し上背があるように見える。
薄い紫の髪の少年は続けた。
「オマエのママ、オレのパパに喧嘩売ってるのか知らないけど、ああいうのマジでやめたほうがいいぜ?殺されるから」
「…お母さんが?っていうか、キミのパパ…お父さんって誰だよ」
「鈍感だなあ。ベジータって呼ばれていた人に決まってんじゃん」
「…ベジ…?ああ、あの変わった髪型の人か…」
「…!あ、あれはなあ…生まれつきあーいう髪型なんだよ!」
「ふうん…で、何が言いたいの?」
黒髪の少年はだるそうに受け答えする。
「いやだからさ…」
その淡々とした態度に半ば諦め気味の薄い紫の髪の少年は、ため息をついて続ける。
「…はー、もういいや!おい、オマエ名前なんていうんだ?俺はトランクスだ」
薄い紫の髪をした少年、トランクスが言う。
「さっきお父さんが言っただろ?…シルフ。宇宙最強のお母さんがつけてくれた名前だ」
黒髪の少年、シルフは目を輝かせながら誇らしく自分の名前をトランクスに告げる。
どうやらこの小競り合い(?)は、マーリンのベジータへの接し方が酷かったため、トランクスがシルフを経由してマーリンに警告をしていたようだ。
「宇宙最強?オマエのママが…?…おいおい、とんだ勘違いだぞ、それ」
「な…なんだと!」
今まで冷静だったシルフの態度が変わり、気迫のこもった声を上げる。
266:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:31 qm/c.RRk
【135話】
トランクスは一瞬びっくりしたが、すぐに話を続けた。
「オマエがどこの星からきたか知らないけどさ、地球にはまず悟飯さんがいるし、悟空さんもいる。そしてパパやピッコロさん…それに俺や、悟飯さんの弟の悟天っていうのも居るんだけど、そいつも普通の人間よりカナリ強いんだぜ?」
「…へー、ズラズラ名前あげられてもよく分からないけど、ゴクウっていう人はお母さんが前に倒したって言ってたよ」
「…え?マジで?」
トランクスの頬を一筋の汗が伝った。
超3化した悟空の強さは父、ベジータを遥かに凌ぐことは知っているし、その悟空をあのどこにでもいそうな女性が倒せただなんて信じられなかった。
それはつまり、マーリンはベジータ以上に強いということを意味する。
「へへ。ほんとだよ?」
だが、このシルフという少年の言葉も嘘だとは思えないし、トランクスの頭が混乱してきた。
「そんな馬鹿な…。お、おい、それっていつごろの話だ?最近?」
トランクスがうろたえながらシルフに尋ねる。
するとシルフは少し考えこみながら答えた。
「んー、ぼくが生まれる前だから、けっこー前だね。この星で言うと10年ぐらい前かな、多分」
それを聞くと、トランクスはホッとため息をつき、汗を拭った。
「なんだよ、そんな前の話か。そんなこといったら、クリリンさんの奥さんだってお父さんたちより強かった時期もあったし、全然参考にならないな」
「確かに前の話だけど、今もお母さんやお父さんが一番強いよ!すごい修行してたし!」
「お父さん…?ヤムチャさんのこと、か…まあ、何言っても無駄そうだしそう思っておけばいいじゃん。じゃ、俺も受付してくるから。またな」
トランクスはそう言いながらシルフに背を向ける。
「…すぐに分かるさ」
シルフはボソッとつぶやく。
当然トランクスにもそれは聞こえていたが、聞こえていない振りをして小走りで去っていった
「ちぇ…なんだよ、あの自信。ヤムチャさんやあの女の人がパパや悟空さんより強いわけないじゃん…。気もてんで大したことないし…」
トランクスはそう小声でつぶやきながら、受付場へと向かうのであった。
267:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:40 qm/c.RRk
【136話】
そして、戦士たち全員が受付を済ませ、予選のトーナメント表が貼り出された。
今回の予選は前回のような“パンチ測定式”ではなく、“組み手式”での予選だ。
理由はいたってシンプルで、前大会のような得体の知れない連中にパンチ測定器を壊されてしまっては、予選に時間がかかりすぎてしまうからである。
つまり、言ってしまえばベジータのせいだ。
人ごみの中、そのトーナメント表を眺めるヤムチャたち。
今大会はAからHまでの8ブロックで予選トーナメントを開き、各ブロックで最後まで勝ち残った者が本戦トーナメントへ進める。
当然ながら、一般人なんて目もくれない悟空たちだが、身内と予選の段階であたってるのではないかとヒヤヒヤしながらそのトーナメント表を見つめていた。
「悟空やベジータと当たってませんように……!」
クリリンが祈るように声を漏らしながら総勢128名の名前の中から自分の名前を探す。
その隣でヤムチャもドキドキしながら自らの名前を探していた。
「…んー…なかなか見つか…ら…あ、いた!76番だ。Eブロックだな!」
ヤムチャが自分の名前を見つけ、子供のように大きい声をあげる。」
そして、すぐさま同ブロックに身内がいるかどうかだけ確認する。
「む…当たっちまったか」
どうやら2戦目で今必死に名前を探しているクリリンとあたるようだ。
昔なら手ごわいと思った相手だったが、不思議とヤムチャに恐怖心はなかった。
「わたしは122番だ。予選でわたしとヤムチャは当たらないようだな」
マーリンが髪の毛をかきあげながらヤムチャに言った。
しかし、ヤムチャがマーリンのブロック…Hブロックを見てみると、そこには恐るべき名前があった…。
「115番…じゅ……18号!?マーリン、お前18号と決勝で当たるぞ!」
「………あの…すまない、誰?」
マーリンが人差し指で頭をかきながらボケると、ヤムチャは思わずその場でずっこけた。
268:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:42 qm/c.RRk
【137話】
「喫茶店で話したじゃねーか!ほら、俺がお前と初めて会った時に修行していたのは、18号とかを倒すためだったって」
「そんなこと言われても…わたしは顔や声もイメージできなかったし…その場で名前を全部覚えるというのは難しい…」
ヤムチャは仕方なさそうにふう、とため息をつくと、再び説明を始める。
「…18号はドクターゲロが作った人造人間で、だいぶ昔だけど、超サイヤ人になって悟空と互角以上の強さだったベジータが敵わなかったぐらいの相手だ。そして今はクリリンの奥さんでもある」
ヤムチャが指を立てながら説明すると、マーリンはふむふむと頷いた。
「なるほど…つまり、あの時点で戦闘力約500万だったソンゴクウより、遥かに強い人物…という認識でいいのだな?」
そう言ってマーリンは指の骨をバキバキと鳴らし、激しい戦闘を待望してなのか、口元が緩む。
「ああ、そうだな。“あの時点”の悟空よりは、ね…」
見慣れているヤムチャでさえそんなマーリンが怖く感じるぐらいで、思わず苦笑いをしながら答える。
さすがにマーリンはサイヤ人の血を引いているだけのことはあるなと感じざるを得ないヤムチャであった。
「で、そのジュウハチゴウは今どこにいる?」
顔と名前が一致しないので分かるはずがないのだが、マーリンはキョロキョロと辺り見渡す。
「んーと…あ、あそこだ」
ヤムチャは20メートルほど先で、一人人ごみから外れ壁に寄りかかっている、如何にも冷徹そうな目をした一人の女性を指差す。
「あいつ、か。不思議だな…何も力を感じない」
「そりゃそうだ、あいつは人造人間だから俺たちの言う“気”はないんだ。でも、エネルギー波とかは撃てるみたいだけどな…俺も詳しいことは良く分からん」
「気を持たないだと…?どういうことだ、それは生物学的におかしいのではないか?」
「だから、俺に言われてもわかんねえよ。あいつを作ったヤツは殺されちゃったし、今となっては謎のままだ」
マーリンは再び18号を凝視する。
誰に対しても冷たそうなその青い瞳は、どことなく自分と似ている感じがした。
269:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/01/29 01:46 qm/c.RRk
>>255-257さん
励ましの書き込み、ありがとうございます。
時間があればもっとペースを上げられるのですが…なかなか難しいところでして…。
それでは、おやすみなさい。
270:Classical名無しさん
09/01/29 19:49 PCJdX7B.
ペースは遅くても良いから最後まで書き上げてください
好きな作品は結末まで読みたいので
ぜひお願いします
271:Classical名無しさん
09/02/01 14:31 EEJQtV8A
ヤムチャwwww
272:Classical名無しさん
09/02/03 02:41 7oeHVI86
おおぉ遂に武道会にまできましたね!1ヶ月くらい前から
読みすすめてたから感慨無量だw最後まで応援しています!
お仕事頑張ってね!
それにしてもヤムチャがヤムチャらしくていいねえ。
273:Classical名無しさん
09/02/05 16:55 0MMhCp/2
クロフネ
274:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/06 01:33 cWK007Rg
【138話】
そこへ、漫画のようにどたばたと足音を立てながらヤムチャのそばへクリリンがが駆け寄ってきた。
おそらく自分の名前を見つけたのだろう。
「ヤムチャさん!俺とヤムチャさん予選で当たっちゃうみたいですよ…最悪ですよねー、本戦前に身内と当たるのって…」
どこか面白おかしそうにヤムチャに話しかけるクリリンに対し、ヤムチャも笑い返す。
「ははは、そうみたいだな…。まあ仕方ないだろ、こればかりは」
「ですよね…ったく、チャオズとか居れば超能力でなんとかなったかもしれないのに…」
ヤムチャと共に苦笑いをするクリリン。
ふと、マーリンからの視線に気付き、会釈をしながらクリリンは続ける。
「あ、マーリンさん、でしたっけ?初めまして、俺はクリリンって言います」
「…クリリン、か。覚えておこう。ヤムチャがいつも世話になっている」
そう言うマーリンに対し、クリリンはそんなことないとでも言わんばかりに顔の前で手を横に振る。
「いやー、それにしても、ヤムチャさんはこんなカワイイ子を放っておいて、この数年間何してたんですかねえ。もっと早くドラゴンボールで呼び寄せてあげればよかったのに」
何を想像しているのか分からないが、クリリンはやらしい目付きでヤムチャを見る。
お前と違ってひたすら修行してたっつーの、とヤムチャは心の中で幸せボケしてるクリリンに向かって突っ込みを入れておいた。
その時、何者かがいきなりクリリンの耳を掴むと、グイグイと引っ張っていく。
クリリンの耳を無造作に引っ張れる人物といったら一人しか居ない…先ほどまで壁に寄りかかってた女性、18号だった。
「てててててっ!!な、なんだよ~、18号!」
「いつまでも油売ってんじゃないよ、クリリンのくせに」
マーリンは初めてこの女性の声を聞いた。
地球にずっといるヤムチャでさえ久しぶりに聞いた気がする。
「何の用だよ、18号」
「勘違いするな。別にお前に用なんてない」
「じゃあなんで…ってててて…!」
そのまま18号は表情を変えずに無言でクリリンの耳を引っ張っていき、見えないところへと消えていった。
275:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/06 01:39 cWK007Rg
【139話】
マーリンは18号の行動に不思議そうに見入っていた。
「…オホン、よく聞けよマーリン。あれはな、“ツンデレ”と呼ばれるものだ」
すかさずヤムチャの余計な解説が入る。
「ツンデレ……?聞いたことがない」
「そりゃ、最近出来た言葉だからな。ちなみにマーリン、お前もツンデレっぽいところあるぜ。いや、むしろツンツンデレツンかな?」
ヤムチャは笑いを堪えながらマーリンに言う。
バカにされているような気がして、なんとなくヤムチャが腹立たしいマーリン。
「訳の分からんことを…そういうヤムチャは、よく分からないがロリコンというやつではないのか?」
ヤムチャは今日二度目のずっこけを見せた。
マーリンはそんなヤムチャが面白くて、つい笑ってしまう。
そして、これからはヤムチャと何かあるたびロリコンと言ってやろうと密かに決心していた。
自分ではそんなつもりないヤムチャであったが、確かにマーリンとはかなり年齢差がある。
いや、実際はそんなことはなく、マーリンの方が年上なのだが…。
実年齢だけ言ってしまえば、ヤムチャは42歳、マーリンは約48歳。
つまり、マーリンの方がヤムチャより年上なのだが、彼女は若い頃、星と星を行き来している間に長期的なコールドスリープ…いわゆる“冬眠”状態が頻繁にあったため、身体的な年齢はヤムチャよりずっと若く、26歳前後の年齢だということになるのだ。
ヤムチャも40歳を過ぎたとはいえ、見た目的には20代半ばから30代前半にも見えるぐらいの若さなので、そういった意味では外見的に中々釣り合っているカップルではあると言っていいだろう。
もちろん、ヤムチャにとっては肌が弛んでる40過ぎたオバサンよりは、ピチピチの若いお姉さんの方が嬉しいわけで、マーリンの冬眠状態が長かったのが好都合だったのは言うまでもない。
276:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/06 01:42 cWK007Rg
【140話】
(見た目はあれだけど、実際はマーリンの方が年上なんだぞ…気にするな気にするな!俺は断じてロリコンじゃない…!それにマーリンは初めて会った時みたいにもう見た目も別に幼くないし、
…いや、俺は何を言っているんだ?そしたら当時はロリコンだったって認めることになっちまうじゃないか!ええい、実際はあいつの方が年上だから、見た目とかは関係なくて……って、
あー!もう訳が分からなくなってきた!!)
ヤムチャは心の中で必死に自分に言い訳をしながら、支離滅裂な自分の考えに収拾がつかなくなってきた。
目の前でいきなり唸りだしたヤムチャをマーリンは不気味そうに見つめる。
その冷ややかな視線に気付き、ヤムチャは我に返った。
「……あ、あのさマーリン!実はな、お前用の胴着を用意してあるんだ」
ヤムチャは場の空気を変えるために咄嗟に話題を変える。
「何…?いつの間に…わたしが地球にきてから、ずっと一緒にいたのに…」
ヤムチャの言葉により、マーリンの目の色が変わった。
「お前が寝てる間に、何度か街の服屋にいって新調してもらったんだ。もちろん、デザインは全て俺が考えたものだけどな。ほら、このカプセルの中に入ってる」
そう言ってヤムチャはマーリンにカプセルを放り投げる。
それをパシっと素早くキャッチするマーリン。
「もうあけて見てもいい…?」
マーリンは早く中の服を見たいようで、うずうずしながらヤムチャに問いかける。
「待った待った。どうせ今カプセルをあけてもここじゃ着替えられないし、女用の控え室であけることだな」
ヤムチャはそう言って女性の控え室がある方向を指差す。
するとマーリンは不服そうな顔をしながら言った。
「女用ということはヤムチャとは別の場所なのか?面倒だな、同じ場所でいい」
「バ、バカか!俺以外にもたくさん男がいるんだぜ?そいつらに着替えてるところを見られることになるぞ」
「別にわた―」
「俺がイヤだっつーの!お前の裸が他のやつらに見られるってのは!」
ヤムチャは顔を赤くして断固拒否した。
むすっとしたマーリンだったが、仕方なさそうに女性用の控え室に向かう。
「ったく、あいつはもうちょっと恥ずかしがるべきだろ…」
ヤムチャは胸を撫で下ろし、ぶつぶつと呟きながら反対側の男性用控え室の方へと向かっていった。
277:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/06 01:47 cWK007Rg
【141話】
ヤムチャが控え室に入る頃には、既に選手の大半がそこに集まっていた。
あらかじめ胴着や戦闘服でここへやってきた悟空たちはいなかったが、大体80人ぐらいの選手が着替えたり準備運動したりして、予選に備えていた。
「さて、この胴着を着るのも久々だな…」
そう言ってヤムチャは自分が用意してきた着替えをカプセルから取り出す。
その胴着は、いつものように橙色の【亀】という文字が刺繍されている胴着でなかった。
その代わりに、腹部辺りに、大きくはっきりと【樂】の文字が刺繍されていた。
胴着の上は緑色、下は橙色、そして、同じ橙色のスカーフのようなものと、青いリストバンドに白い帯。
そう、これは悟空と武天老子に弟子入りする前までヤムチャが着ていた胴着である。
ヤムチャはパッパとそれに着替え、ギュッと帯を締めると、その胴着を着た自分の姿を鏡で確認した。
「うんうん、なかなかイケてるじゃないか」
一人で納得すると、ヤムチャは先ほどの会場に戻る。
そろそろ自分の試合が始まる時間だ。
参加者が多いだけに、午後からの本戦に間に合わせるため、トーナメント表を貼り出した10分後には試合をするとの事。
ヤムチャが予選会場に戻った頃には、既に戦いを始めているブロックもあるようで、激しい戦闘の音や掛け声が聞こえた。
『Eブロックのヤムチャ選手!そろそろ試合が始まります、おりましたら舞台へお上がりください』
ヤムチャの耳にアナウンサーの声が入る。
辺りを見渡してみるが、マーリンの姿は見当たらない。
おそらくまだ着替えているのだろう。
「まあいいや…マーリンが来る前に終わらせちまうかな…っと!」
ヤムチャはグッと足に力をこめ、軽く跳躍すると、クルクルと体を回転させながら舞台へ着地する。
278:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/06 01:49 cWK007Rg
【142話】
「オォーー!」
「なんかスゲーぞ、あいつ!」
「頑張ってー!マムチャ選手ー!」
ヤムチャのパフォーマンスを見て、周りの選手や観客から歓声があがる。
「おとうさーーーーん!頑張ってーー!」
シルフも舞台のすぐ近くでヤムチャを応援していた。
「今のはファンサービスだ。あと、俺の名前はヤムチャね…。マムチャって誰だよ…」
果たしてヤムチャにファンがいるのかどうか疑問だが、そんなおちゃらけてるヤムチャの前に、対戦相手が現れた。
ヤムチャより、一回りも二回りも体が大きく、全身白い衣装に覆われている…ように見える。
が…衣装に見えたそれは衣装ではなかった。
「ヤムチャ…前に聞いたことがあると思ったら、お前だったか。また俺と戦う羽目になっちまうなんて、運のない野郎だぜ」
「………へ?」
「どうやって甚振ってほしい?腕の骨を折って欲しいか?それとも足の骨か?殺さなければ勝ちらしいからな」
「……えっと、ところでお前怪我してないか?全身包帯巻いちゃって…」
「…これは俺の正装だ。まさかお前と対戦する機会がまたこうやって訪れるとは思っても見なかったぜ。それにしても久しぶりだな」
大男はいかにも自信ありげに仁王立ちしている。
どうやら、ヤムチャと以前戦ったことがあるらしい。
だが、ヤムチャのほうは覚えていないようで、ポカーンとしていた。
「あ…ああ。久しぶり……なんだよな…?お、お前は………えーと……あれだ、あの…なんだっけ………ゾンビ男…いや、違うな…ゾンビマン!キャプテン・ゾンビ!!」
ヤムチャは名前を思い出せなくて、この場で適当に命名した。
「デタラメ言ってんじゃねえ!ミイラくんだっ!」
…センスのかけらもねえな、とヤムチャは思う。
ヤムチャの命名を見る限り、人のことを言えないのはもちろんのことだが…。
279:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/06 01:51 cWK007Rg
【143話】
「お前…俺に負けたの覚えてないのか?占いババ様のところで戦ったじゃねーか」
「占いババ…?あ…、あー、いたいた。確かそんなのいた」
ヤムチャはようやく思い出したのか、手をポンと叩く。
「…まあいい…。すぐに黙ることになるからな」
「ほう、お前がくたばるからか?」
ヤムチャがミイラくんを挑発すると、今まで薄ら笑いをしていたミイラくんの表情が曇る。
「俺を怒らせてそんなに痛い目にあいてえか?」
「どうでもいいけど、ゴチャゴチャ言ってないで、試合でお前さんの実力を示せよ。それともお前は口喧嘩の試合でもしにきたのか?」
「…っ」
ミイラくんは歯を食いしばりながら拳を強く握っていた。
ヤムチャは相手をなめきっているのか、無防備に棒立ちしている。
『それでは、ヤムチャ選手、ゾンビ男選手!試合を始めてください!』
会場にアナウンスが響く。
その瞬間、ミイラくんは猛烈な勢いでヤムチャに突進していった。
「俺は…ゾンビ男じゃねえっ!ミイラくんだっ!!」
体重300キロ近くあろうかという巨体が、一歩進むたびにドスンドスンとどでかい足音をたて、その大きな拳がヤムチャの顔面に迫る。
このままでは間違いなくヤムチャの顔面にその拳が直撃し、顔は文字通りぺちゃんこになるだろう…もし、ヤムチャが普通の人間ならば。
だが…ヤムチャは笑っていた。
ドスンッッ!!
物凄い衝撃音が聞こえ、会場の者は思わず目をそむける。
280:SaiyanKiller2 ◆EqApAczzj2
09/02/06 01:52 cWK007Rg
【144話】
そして、数秒後に恐る恐る舞台上に目を向けると、そこにあった光景は…まるっきり想像と逆のものであった。
ヒットするかに思われたミイラくんの拳は空を切っており、逆にヤムチャの拳がミイラくんの腹部に深くめり込んでいた。
「あげ…はが……っ…!!?」
ミイラくんは声にならない声をあげて悶絶し、そのまま白目をむいてしまう。
「…大丈夫か?一応、おもいっきり手加減しておいたんだが…どうやらそれでも効きすぎちまったみたいだな」
ヤムチャはそう言いながら、ミイラくんの腹部からゆっくりと拳を離す。
「審判、どうなんだ」
ヤムチャは気絶しているミイラくんの体を支えながら審判に言った。
「あ……失礼致しました!息はあるようですので…ヤ、ヤムチャ選手の勝利ィィ!!」
観客や選手から歓声が上がる。
ヤムチャはその歓声にこたえるかのように、わずかに手を上げると舞台から降りていった。
「まあ、勝って当たり前なんだけどね…」
自嘲気味にそう呟くが、どうやらこの歓声にはまんざらでもなさそうだ。
「ヤムチャ」
後ろから自分を呼ぶ声が聞こえる。
ヤムチャが振り向くと、そこにはさきほど渡した胴着に着替えたマーリンの姿があった。
腹部には【樂】の文字が印字されている、ヤムチャとほとんど同じデザインだ。
違う点といえば、ヤムチャの胴着より露出度が高いところぐらいだろう。
「体ばかりでかくて、まるで大したことない相手だったな…。生意気な口を叩くからそこそこ腕が立つと思ったのだが」
マーリンは担架で運ばれてるミイラくんを見ながらため息をつく。
「ま…普通の地球人はこんなもんさ。で、マーリン…俺があげた胴着はどうよ?」
「ふふ…サイズもぴったりだし、このデザインも気に入っている。ありがとう…ヤムチャ」
マーリンは目線を少し逸らしながら、恥ずかしそうにヤムチャに礼を言った。
「はは、そいつはよかった!深夜お前が寝てる間にこっそりスリーサイズ測っておいて正解だったな…」
「何か、言った?」
「あ、いや、なんでもない…です」
ヤムチャは誤魔化すように自分のリストバンドを直すフリをしていた。
マーリンは機嫌がいいのか、ふうん、と大して気にも留めず他の舞台上の地球人が行っている試合を見つめている。