06/08/31 01:43:04
【序章】
「ニーナ、もう片付けは済んだの」「まだー」
「もうディナーの時間よ、ダイニングにいらっしゃい」
ママの作るカヴァルマ*のいい匂いに誘われ、作業を中断した。
(*カヴァルマ:ブルガリアの伝統的家庭煮込み料理)
「・・・アーメン。」
先日60余年の生涯を閉じたグランマに祈りを捧げて、家族で囲む食卓。
「おっと、『Today’s SUMO』の時間だ」パパがTVをつける。
「パパ、スモウは後で見なさいよ。天国のグランマが嫌がるわよ」と、ママ。
「いいじゃないか、グランマが生きていたころは見せてもらえなくて、
友達の家に行って見ていたんだぞ。やっと堂々とスモウが見れるよ」
「ねぇ、グランマってスモウが嫌いだったの?」と、私。
「ああ毛嫌いしていたなぁ、わしがグランマと結婚した頃はコトオウシュウが大人気でな。
皆スモウを見たものじゃったが。」こう言うのはグランパ。
「ふぅーん」
それでは、私がさっき見たものは何だったのかしら?
グランマの遺品を片付けている時に見つけた小さな赤い箱。開けてみると、
黄ばんだページに文字がビッシリ書かれた日記帳。そして数枚の褪色した写真が入っていた。
それはスモウの写真で、全て、コトオウシュウだった。
家のみんなが眠りに付いた後、暖炉の前で再びグランマのあの赤い小箱を開けた。
グランマの日記を繰ると、たちまち私は夢中になってしまった。
そこには、全く知らなかったグランマの初恋の思い出がつぶさに綴られていたから。