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▲ 佐藤直樹『世間の目』光文社
・佐藤直樹著『世間の目』は、そんな「世間」と「個人」の関係を考えるために、タイミングよく
だされた好著である。彼によれば「世間」とは「私たち日本人が集団になったときに発生する
力学」で、日常的な人間関係から「世論」といった大きなものにまで作用するものである。
「世間」は人間関係のなかの些細な行動や発言を律するものであり、また、場合によっては
「きわめて強力に人間を拘束するような」力となって個人の抵抗を難しくする。
・私たちが日頃の人間関係で気をつけるのは、何によらず出すぎてはいけないこと、協調の
精神と謙遜の気持を態度で表明すること、他人に世話をかけないこと、かけたらそれなりの
返礼をし、侘びたり感謝の念を表すこと等々である。人間関係を円滑に行うためには欠かせない
処世術だが、この点が強調されすぎると、個人の言動は抑えられてしまうことになる。
・この本では、そんな「世間」という枠組みがもたらす弊害について、医療、学校、職場、事件、
マスコミ、ネット社会という章を設けて具体的な事例をもとに分析している。「世間」という
キーワードを通して見直すと、確かに腑に落ちることは少なくない。
・医者が患者を子どものように扱うこと、学校などでのイジメの発生のメカニズム、過労死や
過労自殺、あるいは理由のわかりにくい凶悪な犯罪や、少年少女が起こす事件の数々。さらには
そのような事件や出来事についてのマスコミの報道の仕方、被疑者や問題の当事者に浴びせられる
匿名の批判や誹謗中傷の電話やメール。このような事例を見ていくと、「世間」という古くて、
なおかつ現在でも強力な枠組みのもつ問題は、けっして小さくないことがよくわかる。
・「世間」は「個人」と相いれないものであるし、国際的には通用しにくい日常感覚である。
だから、一方で、個性を大事にしたり、国際感覚を身につける必要性を説いても、同時に、
「世間」を気にしていたのでは、その芽も摘まれてしまうことになる。
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