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産経抄 12月24日
今夜はクリスマスイブ。街の広場ではツリーが飾られ、あちこちで同じメロディーを耳に
する。京都市立下鴨中への謎のプレゼントも、話題になっている。日本人はこれほどま
でに、キリスト教のお祭りが大好きなのに、信徒の数ときたら総人口の1%に満たない。
▼神学者の古屋安雄さんは、近著『なぜ日本にキリスト教は広まらないのか』(教文館)
のなかで、初期の信者が武士階級中心だったことによる「敷居の高さ」を、理由のひと
つに挙げる。日本の教会は、神学の知識こそ進んでいたものの、貧困の問題などに対
して、目を背けがちでもあった、とも。
▼一方で、「貧しい人々と共に生きた」キリスト教社会活動家の賀川豊彦(1888~1
960年)を高く評価する。16歳で洗礼を受けた賀川は、ちょうど100年前のきょう、生
まれ故郷、神戸の貧民街に入った。病人の世話や生活相談に応じながらの伝道活動
は、12年間にも及ぶ。
▼このときの体験を基にした自伝小説『死線を越えて』は続編と合わせて400万部と
いう空前のベストセラーとなった。労働運動、農民運動、生活協同組合運動の指導者
でもあったが、戦後になると、次第に忘れられていく。熱烈な皇室崇拝が、進歩派や
キリスト教関係者から疎まれた面もある。
▼ノーベル平和賞に加えて、文学賞の候補者でもあったことがわかり、再び脚光を浴
びるようになったのは、ごく最近だ。賀川は、神戸のスラムに入るとき、ディケンズの
『クリスマス・キャロル』を思い浮かべていたという。
▼強欲なスクルージがやさしさに目覚めるおなじみの物語。家族でケーキを囲むのも
よし、恋人と過ごすのもよし。ただ本来は、社会的弱者を思いやる日であることを忘れ
たくない。