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産経抄 11月10日
作家の佐藤愛子さんは、羽田空港のロビーで、買い物籠(かご)を提げた若者をハイ
ジャック犯だと決めつけて、娘さんにあきれられた。新幹線に乗っていて、トイレから
出てこない若い女性が、男に閉じこめられていると思いこみ、車掌室に駆け込もうと
したこともある。
▼「これだけ世の中に次々と想像を絶する事件が起きているというのに、世の中の人
というものは全く暢気(のんき)なものだ、と私は呆(あき)れざるを得ない」。佐藤さん
は、昭和50年ごろに書いたエッセー『悪者の顔』で嘆いた。30年以上たって世の人
々は、治安の悪化をひしひしと感じている。
▼ここ数日の新聞の社会面は、殺人と不審死事件の記事で埋め尽くされるありさま
だ。千葉県松戸市のマンションでは、千葉大4年の荻野友花里さん(21)が殺害され
た。行方不明になっていた島根県立大1年の平岡都さん(19)は、変わり果てた遺体
となって、広島県北広島町の臥竜(がりゅう)山で発見された。
▼荻野さんは、教員をめざして母校で教育実習も済ませ、卒業研究に取り組んでいた。
平岡さんは、得意な英語を生かして海外留学を夢見ていた。実りの季節を迎えた人生
を、邪悪な暴力で突然断ち切られた2人の無念は、いかほどだろう。
▼佐藤さんは、社会が乱れているのは、悪者が必ずしも悪い人相でなくなったからだ、
という。悪者が悪者らしい顔をしなくなったのは、悪いことをしてしまった、という自責の
念がなくなったからではないか、とも。
▼自責の念どころか、整形手術で自らの顔を変えてまで、逃げのびようとする容疑者も
いる。2人の女子大生を手にかけた犯人たちも、今は何食わぬ顔で、世の中に溶け込
んでいるはずだ。徹底した警察の捜査で、その悪行をあぶり出すしかない。