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【産経抄】10月20日
ピンピン元気で暮らして、ある日コロリと死ぬ、ピンコロ願望が強い人が多いけれど、寝たきりや長患いと比べて、
どちらも一長一短がある。敬老の日のコラムで、元東北大学医学部長のこんな言葉を紹介したら、
「納得いきません」とのお手紙を読者からいただいた。
▼Aさんとしておこう。数年前にご主人に先立たれたAさんは、自身と知人の介護体験から、
「私は寝たきり、長患いは拒否したい」と書いていた。介護の末に起こる殺人事件のニュースに接するたびに、
「つらくて、とても人ごととは思えない」ともいう。
▼神奈川県相模原市で今月12日、妻(65)に「死にたい」と言われた夫(66)が、包丁で妻の首を刺し
殺害する事件があった。妻は5年前、自宅で介護していた難病の長男を殺害していた。
▼裁判では、長男が死を望んでいたことが認められ、執行猶予付き判決を受けて、自宅に戻っていた。
すっかりふさぎ込んでいたそうだ。きのうの社会面によると、妻は「これでやっと楽になれる」と書き残していた。
Aさんは悲痛な思いで、この記事を読んだはずだ。
▼長く病の床にある弟が、カミソリでのどを切って自殺を図ったが死にきれない。兄の喜助は、
弟に懇願されてカミソリを引き抜き殺してしまう。森鴎外は、江戸時代の京都で実際にあった事件を素材にして、
『高瀬舟』を書いた。愛する者の苦しみを取り除くために、その命を絶つ行為は果たして罪か。
▼鴎外は、高瀬舟で喜助の話を聞いた同心に「お奉行さまの判断を、そのまま自分の判断にしよう」と語らせただけだ。
重い問いに対する答えを留保した。相模原市の事件が裁判員裁判の対象となったら、裁判員一人一人が、その答えを出さなければならない。