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【産経抄】9月14日
2009.9.14 03:03
さんざん煮え湯を飲まされてきた油屋の旦那(だんな)にひと泡吹かせようと、大家が、
サンマに目をつける。長屋の連中が裏の空き地で一斉に焼けば、煙は油屋に入る。さすが
の旦那も、「河岸(かし)だ、河岸だ」の叫び声を「火事だ」と聞き間違えて、あたふた
するはずだったが…。
▼落語の「さんま火事」では、旦那が煙のにおいをおかずにしてしまう。だが、京都府
亀岡市では、笑い話ですまなくなった。京都新聞によれば、9月に入って市内で相次いだ
火災の火元は、ガスコンロのなかの魚焼きグリルだった。
▼サンマを入れて、目を離しているうち、燃えだしたらしい。魚売り場でたっぷり脂の
乗っていそうなサンマを見ると、さもありなんと思う。保存技術の進歩で、産地から遠く
離れていても、刺し身で食べられるようになった。それでもこの時期は、焼いて食べたい。
▼きのうの生活面に載っていた「ほんわか和の味」には、内臓を取り除いてフライパン
で焼き、おろしたタマネギでからめる、上品な料理が紹介されている。確かにひなちゃん
に、サンマのワタは似合わない。あの食通の池波正太郎だって、子供のころは食べられな
くて、祖母にしかられた、とエッセーに書いている。
▼そのころ、詩人の卵だったある青年が情けない顔でいったそうだ。「正ちゃん。どう
しても、秋刀魚(さんま)のワタが食べられないので劣等感をおぼえるよ」。佐藤春夫が
「さんま苦いか塩(しっ)つぱいか」とうたった「秋刀魚の歌」をふまえていることは、
いうまでもない。
▼小欄も、酒を飲むようになって、ワタの苦みがおいしくなった。久しぶりに、もうも
うと煙をあげて、黒こげになったサンマにかぶりつきたい。「秋刀魚焼く煙の中の妻を見
に」(山口誓子)