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【産経抄】9月11日
2009.9.11 02:29
向田邦子は、古風な言葉を好んだ作家だった。たとえば『メロン』というエッセーに、
こんな記述がある。「一度でいい。一人で一個、いや半分のメロンを食べてみたいと思っ
ていた。ひとりで働いているのだから、しようと思えば出来ないことはないのだが、果物
に三千円も四千円も払うことは冥利(みょうり)が悪くて出来ないのである」。
▼「冥利が悪い」という言葉は、「広辞苑」にも載っていない。確かに、「ばちがあた
る」と言い換えてしまうと、この文章の味わいは失われてしまう。巨額の不正経理問題が
発覚した、千葉県の職員に、かみしめてもらいたい言葉でもある。
▼なにしろ平成19年度までの5年間だけで、県庁のほぼすべての部署で不正に処理さ
れた公金は、約30億円にのぼった。将棋盤、ゲーム機、卓球台、芝刈り機…。職員の娯
楽のために購入された品物のリストを見ると、ため息が出る。県は現時点で、5400人
の管理職やOBに、7億円の返還を求めるという。
▼悪習は40年前から続いていたという指摘もある。他県で裏金問題が取りざたされた
ときも、知らぬ顔の半兵衛を決め込んでいた。県庁ぐるみで、公金を私物化していたとみ
られても仕方がない。「冥利の悪さ」を感じた職員が一人もいなかった、とは思いたくな
いが。
▼ところで、「冥利に尽きる」という言葉は、今でもよく使われている。立場や職業に
よって受ける恩恵にありがたみを感じる、という意味だ。小欄なら、読者からコラムに望
外のおほめの言葉をいただければ、「記者冥利に尽きる」。
▼ひょっとして、千葉県職員のみなさんも、使い放題の裏金を処理しながら、「地方公
務員冥利に尽きる」と、感慨にひたっていたのかもしれない。