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産経抄 12月15日
中国の「杞」という国に度はずれに心配性の男がいた。天が落ちてきはしないか不安
で食べ物がノドを通らない。天は屋根でないから落ちてこないと教えられると、今度は
地が崩れはしないか心配になる。言うまでもなく「杞憂(きゆう)」の語源である。
▼氷河が溶け、空から津波が落ちてくる、などというのも昔だったら「杞憂」で片づけら
れていたことだろう。ところが今、ブータンでは国の存亡にかかわる危機として現実味
をもってきているという。ヒマラヤ山脈の山ふところにひっそり位置している小国である。
▼ブータンには氷河でできた湖が2500以上ある。その氷河がヒマラヤの気温上昇に
よって溶け始めている。溶けた水で湖は膨らみ、24の氷河湖で決壊の恐れがあると
いう。そうなると土石流が斜面を津波のように流れ落ちてくる。国中がそんな脅威にさ
らされているのだ。
▼国民の9割は農林業に就いている。水力による電力をインドに売ることで外貨を稼ぐ。
しかし氷河湖が決壊すれば、人命だけでなく水力発電も農業も決定的打撃を受ける。
国にとって死活問題なのだ。ドルジ首相は本紙の取材に対し「恐ろしいことだ」と話し
ていた。
▼そんな首相の恐怖感を加速させるようなデータが気象庁から発表された。今年の世
界の平均気温のうち陸地では1880年以降最高になり、平年を0・67度も上回った。日
本の陸地は平年より0・85度高く、ここ110年ほどの間で4番目の暖かさだったという。
▼そういえば最近の冷え込みで忘れていた。この夏には40・9度という国内最高気温
を記録したのだった。今年の漢字には「偽」が選ばれたが、「暑」や「温」がもっと上位に
きてもよかった。世界の温暖化危機を忘れないためである。