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【産経抄】12月11日
『フランダースの犬』といえば、ベルギーの小さな村を舞台に、少年ネロと
老犬パトラッシュが数々の苦難に遭遇する物語だ。あこがれのルーベンスの
名画の前で、寄り添いながら、凍え死んでいく場面は、涙を絞り出さずには
いられない。
▼1998(平成10)年に、ハリウッドで映画化されたとき、2種類のラスト
シーンが作られた。米国では悲しい物語は受けないという理由で、ネロが
生き返るハッピーエンド版と、翌年に日本で上映された原作通りの悲劇版だ。
▼ 先週、氷点下を記録した茨城県ひたちなか市内の空き地で一夜を
過ごした、73歳の認知症の女性と雄の中型犬の物語は、幸いなことに
ハリウッド版の方だった。犬を抱いた状態で保護され、家族のもとに戻った
女性は、薄手のセーターとジャンパー姿にもかかわらず、風邪も引いて
いなかった。
▼猫や馬の家畜化が約5000年前に始まったのに対して、人間と犬の付き
合いの始まりは、10万年前までさかのぼることができるそうだ。『種の起源』には、
「犬の人間への親愛の情が、本能的となっていることは、疑いようがない」とある。
▼ わざわざ、著者のダーウィンの言葉を持ち出すまでもなく、愛犬家なら、
愛情深く育てられた犬が、人間の役に立ちたいと、いつも願っていることを知って
いる。「新聞報道を見た」と名乗りを上げた飼い主も78歳の女性だったと、小紙
東京版は伝えていた。おばあちゃんの難儀を見過ごせなかったのだろう。
▼飼い主がわからなければ、野良犬として薬殺処分される可能性もあった。
「情けは人の為ならず」の格言は犬の世界でも通用するらしい。連日伝えられる
悲惨な事件で凍りついた心を、つかの間溶かしてくれるような話だった。