08/05/25 07:48:31
◆連続時代劇◆ 作 山本伸一(GR)
やがてふたりは白壁のめぐらした土塀の路地に出た。
土塀の周りはシャガの花が咲き誇っていた。濃い緑の葉に、白い花が美しかった。
巡らされた土塀の奥に、いまにも逼塞しそうな小さな寺院があった。
絹衣の袈裟をまとった剃髪の僧が、丁重に二人を迎え、
周囲を憚るように小声でいった。
「お待ちでございます」
矢野吉とおしまに伝え、二人を本堂脇の庫裏の小部屋に案内した。
「おっ、これは、竹七どんっ おひさしぶりでごぜぇやす」
そこにいたのは、かって、両替商池田屋の、一番番頭だった竹七と、
その女房おなべであった。
おなべの簪(かんざし)は豪奢な細工の施された、みるからに高価なものだった。
矢野吉の女房おしまは、この簪こそ、池田屋が血眼になって「返せ 返せ」
と言い張る、銀座小間商「白木屋」で買い求めた簪であることを、
女のカンでわかった。
土塀の外では、池田屋に雇われた岡っ引き >>249 チョロQの、たむろする足音が聞こえた。