08/10/08 02:32:52 P613C17V
『禁じられた庭』
それはラスカがお使いの途中でロシアノビッチ家の近くを通った時の事だった。
偶然、輝くような文様の大きな蝶を見かけた。その姿に魅了され、ラスカは母の言いつけも忘れてお使いを投げ出し、蝶の後を追いかけた。
蝶はロシアノビッチ家の広い敷地に入っいった。ラスカもまた塀を乗り越えて追いかけていく。勝手知ったる何とやら、かつてラスカはここで暮らしていた事もあったので、崩れかけて突破が容易な塀の位置なども熟知しいた。
そこはラスカにとってちょっと懐かしい、概ね手入れの行き届いた綺麗な芝生の庭なのだが、何故かある一角だけ柵で囲われている区画があった。そこだけは周囲の整然とした庭と異なり、鬱蒼と雑草が茂っていた。
その一角を訝しく思ったものの、目の前を優雅に舞う蝶に釣られて、ラスカは柵を越え、その茂みに近づいていった。
ここは周囲とは別世界だった。ヨモギやススキ、それにまばらに背の低い潅木まで生えており、まるでここだけが原始の自然に帰っているようだった。
茂みの更に奥には葦が生えており、その辺りには池があった。
今まで蝶にばかり気を取られていたが、辺りを良く見ると、風に揺れる葦の隙間からは水面が見え、トンボが行き来していた。また少し離れた所にカエルがいるらしく、ゲコゲコとコミカルな鳴き声をあげていた。
ラスカは先日の理科の授業で習った『ビオトープ』という言葉を思い出した。都市部で失われてしまった生き物の生息場所を人が作り直す、という物だ。
『庭』といえば、ラスカは剪定の行き届いた生垣や、一面の芝生を連想する。
この茂みはその対極と言えた。ここには普段目にする植え込みのような幾何学的な美しさは無い。