08/04/11 02:57:01 z9t+kXDD
『鳩と軍鶏 ~屋上の鳥小屋~』
チューゴは何種類もの鳥を飼っている。中でもお気に入りは軍鶏で、その紅のように鮮やかで炎(焔)のような鶏冠から『紅焔号』と名づけ、特に可愛がっていた。
チューゴはたまに自身の住む中華マンションの屋上に紅焔号を放す事があった。屋上はテニスコードを何面か作れる程広いので、十分な運動をさせてやる事が出来る。
また、屋上は四方を高いフェンスで囲われており、軍鶏は殆ど飛べないのでここなら逃げてしまう心配は無い。
気がかりなのは、何処からともなく集ってくる野鳩たちだ。屋上には希少な鳩を飼う鳥小屋があるのだが、今も鳥小屋の近くにこぼれたエサを狙って何羽かフェンスの上に止まっている。
野鳩が来る度に紅焔号は羽をばたつかせ、威嚇して追い払うのだった。
ある日、チューゴはいつもの様に紅焔号を屋上に放していたのだが、目を離していた隙に惨事が起きた。鳥小屋の緩んだ扉から紅焔号がその檻に乱入してしまったのだ。
どうやら鳥小屋の扉が緩んでいたらしい。紅焔号は檻の中で激しく暴れまわり、チューゴも取り押さえるのに手を焼いた。
ようやく紅焔号を鳥小屋から追い出した頃には、既に何羽かの鳩が犠牲になってしまっていた。それは高山の断崖に生息する珍しい鳩だった。
しかし、死んでいたのはそれだけでなく、たまに飛来する野鳩も混ざっていた。おそらく紅焔号は野鳩を追い払うつもりで鳥小屋に入り込んだのだろう。そして元々鳥小屋にいた鳩と野鳩の区別がつかないまま暴れまわってしまっていたのだろう。
これは不幸な事故だ。
幸い、鳥小屋の鳩は全滅した訳ではない。同じ種の鳩はまだ他にも居るので、チューゴはさ程落胆しなかった。何羽かつがいが残っていれば、いずれ増えるだろう。