08/02/12 15:27:02 kerhE1QS
『手はキレイ』
ボウルの中に挽肉とつぶした戻し貝柱をたっぷり入れ、味を調え、
粘りが出たら少し寝かせ、手早く手作りの皮で包みます。
「わお、さすが調理実習の帝王、チュウゴ。お見事!」
おいしそうな餃子をつぎつぎ作りあげるその手つきに、皆の賞賛が集まります。
さて、調理も無事終わり、あとは食べるだけになった餃子が皿の上。
ニホンちゃんが真っ先にひとつつまんでは、ぱくり。
「あれ、なんかちょっと苦いかも……?」
みるみる青ざめ、おなかを押さえてうずくまります。
チュウゴ君は、みんなが自分を注目しているのに気がつきました。
どうやら、彼がまたうっかり餃子に変なものを混ぜたのかと疑われているようです。
ああ、みんなの針のような視線がとっても痛い。
「そうだ、アサヒはどこアルか?」
いつものように彼女にかばって貰おうと、アサヒちゃんを捜します。
ところがそのアサヒちゃん、なぜかゴシップの渦のど真ん中で嬉々として
噂に尾ひれをつけて火に油注いでいる真っ最中。
そうなのです。
アサヒちゃんはチュウゴ君も好きですが、ゴシップはもっと大好きなのです。
そのアサヒちゃんが、めがねを輝かせて近づいてきました。
「ねえ、チュウゴ君。手、キレイだね」
「ん、ああ。料理しているから当然アルな」
「で……トイレに行って、手、洗った?」
ん、どうだったか?
答えに詰まった一瞬に、アサヒちゃんがにやりと笑いました。
「ねえ、チュウゴ君って、トイレにいった手で餃子作って、手がキレイになったってさあ!」
気がついた時には、噂はアサヒちゃんによってさらに広まって行きました。
「ああ、ニホン。早く、頼むからあのアサヒを止めてくれアル!」
チュウゴ君の祈りも、苦しむニホンちゃんには当分届きそうもありませんでした。