07/09/29 15:00:02 PYMzMGQf
『直訴』
チューゴ君は大きな大きな中華アパートに住んでいます。
アパートといっても、従業員用のオンボロ部屋と同じ建物とは思えないほど豪華なオーナー専用特別室、
「中南海の間」の住民なのですが。
さて、ある日のこと、チューゴ君が窓から外を眺めていると、庭に気になるものを見つけました。
「あれは何アルか。きたないボロ小屋にしか見えないアル。なんであんなみっともないものがあるアルか」
チューゴ君は、ガードマンをおおぜい引き連れて外に出ていきました。
チューゴ君が玄関から外に出たとたん、小屋の中から粗末な身なりの人影が走り出てきました。
人影はチューゴ家の従業員だったのです。彼はチューゴ君に走り寄ると、懸命に訴えました。
「おお、チューゴぼっちゃま。おねげえでごぜえますだ。お父様にぜひ取り次いでいただきたいことが
ごぜえますだ。わしらの工場の工場長がそれはそれは横暴で……」
しかし、チューゴ君はうるさそうに眉をひそめると、ガードマンに告げました。
「じゃまアルな」
「ははっ、ただいま」
ガードマンたちは聞くが早いか、従業員を羽交い絞めにして連れ去り、その小屋も跡形もなくこわして
しまいました。
「うん、庭がきれいになってよかったアル」
チューゴ君は上機嫌で部屋に引き揚げました。
「しっかし、文句を言う奴らを問答無用で黙らしてると、そのうち爆発しないか心配だなあ」
小屋の跡を片付けながらガードマンが仲間に話しかけました。
「うん、そのうちアカが煽動して革命が起こるんじゃないか」
一人がつぶやくと、別の一人がさえぎるように言います。
「ちょっとまて、アカの革命っていうんならあれは何なんだ」
指差す先には、中華アパートの上にひるがえる、5つの星をあしらった赤い旗がありました。
「あれ?たしかにあそこに立ってるのは赤い旗だな。まあ、俺たちには難しい政治の話は分からんよ。
どのみち、なるようにしかならんさ」
話が途切れると、みんなは黙り込んで作業を続けるのでした。