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半歩遅れの読書術 日本経済新聞 2009年7月5日
【欧州の戦後史】東アジア未来像の参考に 姜尚中(政治学者)
10年ほど前になるだろうか、わたしは衆議院の憲法調査会で参考人として卑見を述べる機会
に恵まれた。その時に21世紀の東アジアの未来像を問われ、わたしは「東北アジア共同の家
(コマンハウス)」をめざすことが重要だと応じた。
評判は芳しくなかった。ヨーロッパはキリスト教の伝統でまとまっているし、だから脱民族的で、
協調的で平和的なヨーロッパ統合へと進むことが出来たが、東アジアにはそもそもそんな
「幸運な」条件などまったく存在しない。粗方の批判は、こんな具合だった。
だが、そうした認識が、実に薄っぺらいヨーロッパ戦後史の理解に過ぎないことを、トニー・
ジャットの『ヨーロッパ戦後史(上・下)』(原題はPOSTWAR:A History of Europe Since 1945´
森本醇・浅沼澄訳、みすず書房)は、徹頭徹尾、明らかにする。
戦後の瓦礫の中から始まったヨーロッパの戦後史は、楽観的で野心的、前進的な歩みとは
ほど遠い、むしろ歴史の影に怯えながら、行きつ戻りつした試行錯誤の連続だったのだ。結果
としてヨーロッパが今日辿り着いた連合も、ジャットの言葉を借りれば、「不安が産み落とした
虚弱な赤ん坊」に過ぎない。
(続く)