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カルタゴとマルクス、エンゲルス
マルクスやエンゲルスは、カルタゴやフェニキア人たちについて、
かなり多くのことを語っている。
エンゲルスのハンニバル論
ハンニバルの騎兵隊の編制からその優秀さ、一連の戦闘の経過と
ローマ軍を撃破した用兵の巧みさなどを詳細に描きだし、カルタゴ軍と
将軍ハンニバルの軍事的功業をたたえたのだった
(同前二六八―二七一ページ)。とくに、ローマ軍を撃破した三つの
大戦闘―ティキヌス河畔(前二一八年)、トレビア河畔(同前)、
カンナエ(前二一六年)の戦いについては、その記述は実に詳細である。
実は、マルクスには、フェニキア人を古代の代表的な「商業民族」
として評価したカルタゴ論だけでなく、もう一つのカルタゴ論があった。
それは、いわゆる「幼児犠牲」の悪習についての記述である。
「周知のように、テュルスとカルタゴの支配者たちは、彼ら自身を犠牲に
ささげるのではなく、貧乏人の子供を買い取って、モロック神の灼熱した
腕のなかに投ずることによって、神々の怒りをやわらげたものである」
(「反プロイセンの扇動」一八五五年、全集(11)一二八―一二九ページ)。
これは、イギリス政府が、失政の結果を人民の犠牲であがなおうと
していることを批判したさい、その悪政はカルタゴの悪習に匹敵すると
論じる形で、もちだされたもの。マルクスが「周知のように」
と書いたように、カルタゴの「幼児犠牲」の話は、当時のヨーロッパに
広く知られている話だったらしい。
フランスの作家フローベールは、小説「ボヴァリー夫人」で有名だが、
カルタゴを題材にした歴史小説「サランボー」(一八六二年)のなかには、
幼児を生贄(いけにえ)にする儀式の生々しい描写がある、という。