09/01/06 21:39:24 OmzhQjyR
覇権の終焉 中西輝政/著
URLリンク(www.7andy.jp)
一九九二年春、『ニューヨーク・タイムズーがスクーブした冷戦後の
アメリカの世界戦略を記した秘密文書には、アメリカの世界覇権実現を
国家戦略の根本に掲げ、日本やドイツなどの台頭を抑えるとともに、
ソ連邦が崩壊したばかりのロシアが復興しないよう、その芽を摘むことを
アメリカの戦略としなければならないという内容が書かれていた。
この秘密文書が暴露されたとき、当時のチェイニー国防長官(現副大
統領)は、「この文書はまったくの草案の草案の草案である」という有名
を言葉で繕い、こうした文書があること自体が諸外国の誤解を招くとして、
完全に撤回すると宣言した。そして本来の文書はこれであるとして、
「冷戦後の世界の自由と民主主義」「市場経済の発展支援」「国連を
中心とする地域紛争の抑制」「人権の促進」といった、聞こえのいい
能書きの並んだものを公表した。
これは冷戦後のアメリカの世界戦略の底には、かなり大きな二重性が
あることを示すものである。いわば本音にあたる「密教」と公表するための
「顕教」で、冷戦後はそのあいだの乖離が大きなものとなっており、
アメリカはつねにその幅のなかで行動していることを示していた。そして
アメリカは、こと世界戦略に関しては、政権が代わろうともその基本を
変えずに把持しつづける。今日まで続くその幅のなかに、「ロシアの
復興を防ぐ」という戦略も入っているのだ。
実際、この対ロシア戦略は、民主党のクリントン政権によって体系化され、
カーター政権で大統領補佐官を務めたZ・ブレジンスキーが九〇年代に
著した『ユーラシアのグランド・チェスボード』(邦訳『ブレジンスキーの
世界はこう動く』)のなかで、ほとんどロシアの解体を意味するアメリカの
大戦略が明白に語られていた。そのトーンには、やはり「ニュー・エコノミー」
論と同じ「それ行けドンドン」の響きがたしかにあった。