08/02/23 08:00:12 WG/aFn4w0
先日、テレビで新しいリハビリの可能性をさぐる番組を放送していた。紹介されていたのは脳の右半分
を失いながら麻痺から回復した18歳の男性や、右手がほとんど動かなかったのに、新しいリハビリで
家事ができるようになった女性、脳梗塞で寝たきりだったのが、新療法のおかげで杖で歩けるように
なった老人などである。
スタジオでは、本人も脳出血で障害のあるキャスターが、リハビリの専門医らとともに、新しいリハビリ
について、最大限の明るい見通しを語っていた。
画面には上等そうな器具がたくさん映され、自分もあんな器具でリハビリすれば、きっとよくなると希望
を抱いた人も多かっただろう。あるいは、リハビリ専門医がつききりで指導するのを見て、自分もあんな
ふうにしてほしいと切望した患者も少なくないはずだ。
しかし、現実にそういうリハビリに手の届く人はどれだけいるだろうか。また、もしそれができても、
テレビで紹介されたほど回復する人がどれだけいるのか。
老人医療の現場で、麻痺に苦しみ、回復の見込みのない状況に悩む患者を多く診ている私としては、
こういう番組は酷いとしか思えない。たしかに希望を与えるかもしれないが、たいていの患者は、羨ま
しがらされて終わりだ。
現場で診ている患者の中で、いちばん楽そうなのは、麻痺を受け入れている人である。逆にもっとも
苦しむのは、変えられない現実を変えようとあがく患者だ。
あるがままを受け入れることは、決して後ろ向きなことではない。それは気持ちを切り替え、別の価値
観に目を向けることである。若さや美しさや強さや健康だけが、この世の価値ではないだろう。
執着で心まで麻痺させていてはもったいない。(久坂部羊=医師・作家)
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