09/12/12 19:49:08 dyRa7MJO0
とある平日の午後、社長の命令を受けて、俺は企業就職説明会に向かった。
到着するなり、俺の眼は野獣と化し、獲物を物色し始める。
いた!会場入り口にたたずんでパンフレットを読んでいる、ガチムチ筋肉野郎を発見。
……俺はそのガチムチ野郎の顔に見覚えがあった。
先日、別の会場、別の説明会で別企業と面接を取りつけていた奴だ。
その企業のせいで、俺は雄野郎を取り逃がしてしまったんだ。
その企業を選んだんじゃしょうがないな、他を当たろうとも思った。
しかし、あの全身から発せられる「即戦力フェロモン」には抗い難い。
それに、万が一本命企業の面接に落とされた可能性もある。
よし、行くぜ!俺は一大決心をし、ガチムチ野郎に声を掛けた。
「よ、よう。いい体してんな。お、お、俺と暑苦しいハッテンサウナで働き狂わねえか?」
ノンケと分かってる奴に声を掛けるのは初めてで、不覚にも声が震えた。
「いいぜ。実は俺は営業志望なんだ。俺のすげぇ接客でヒィヒィよがらせてやるよ。」
俺の妄想では、ガチムチ野郎はこう言う筈だった。しかし、現実は甘くない。
「なんなんですかあなた。気持ち悪い。ブラック企業には行きませんよ。」
やはり駄目だったか……。雄野郎は俺を睨みつけると、どこかへ行ってしまった。
胸に広がる痛みと、もやもやした得体の知れない感情に耐えながら、俺は思った。
そうか、俺は即戦力人材が欲しかったんじゃない。
俺はあのガチムチ兄貴に恋をしていた……そして失恋したんだ、と。
まだ俺自身無垢な無職だった頃を思い出し、俺の目から涙が溢れた。