08/12/09 00:45:58 ULlQfl8n0
「何を食べに行く?」と私は訊いてみた。
「二郎なんてどうかしら。」
「いいね」「腹が減った」と私は言った。「ねじでも食べられちゃいそうだ。」
「私もよ。」と彼女は言った。「それ、良いシャツね」
「ありがとう」と私は言った。
店はそれほど広くなく、上から見たらU字の形をしているカウンターの席があるだけだった。
店員が一番奥のカウンター席に座るよう、ぶっきらぼうに言った。カウンターからは、向かいの席で麺を口に押し込む汗だくの男が見えた。
「トッピングは何が良いかしら?」と彼女が訊いた。
「まかせるよ。」と私は言った。私は二郎についてはワインほど詳しくはないのだ。
彼女が彼女の分と私の分のトッピングを注文している間、向かいの必死な汗だくの男を眺めていた。
客が店側に気を使ってロットを乱さないようにするというのも何かしら不思議な気がしたが、それほど不思議ではないことなのかもしれない。
スープより先に高菜を食べたら、客を追い出すようなラーメン屋もあるのかもしれない。
「そうかもしれない」と私は呟いた。
「ヤサイマシマシニンニクチョモランマカラメアブラブラ」と彼女は言った。
「食えんの?」と店員が無愛想に訊いた。
「大丈夫。僕は昨日の朝からほとんど何も食べてないし、彼女は胃拡張だから。」と私は言った。
「ブラックホールみたいなの」と彼女は言った。
「ごちそうさまでした」と言ってカウンターを拭いた後も、私の空腹感はまだ続いていた。
ヤサイもブタもニンニクチョモランマも、私の体の中の虚無の穴に何の痕跡も残さなかった。
「あなたも胃拡張なんじゃないかしら。」と彼女は言った。「そうかもしれない」と私は答えた。
「そうかもしれないってあなたの口癖?」と彼女は訊いた。
店を後にする時、行列を作る常連たちの視線を感じながら、彼女も私も店長に軽く会釈した。
「そうかもしれない。」と私は答えた。